コンピューターグラフィックスで「肌」をリアルに見せるのが難しい理由とは?
近年はコンピューターグラフィックス(CG)が長足の進歩を遂げており、アニメや漫画などの映像・画像コンテンツの制作やゲーム・VRなどのインタラクティブコンテンツの制作などに用いられる一般的な手法として定着しています。そんな現代のCGでもリアル感を出すのが特に難しい「人間の肌」について、アメリカのニュースメディア・Voxが「CGで肌のリアル感を出すのが難しい理由」を解説しています。
Why it’s so hard to make CGI skin look real - YouTube
以下は、2001年公開の「映画版ファイナルファンタジー」と2019年公開の「アリータ:バトル・エンジェル」におけるメインキャラクターが目覚めるシーンを並べたものです。この2つの映画にはおよそ20年の隔たりがあり、映像を見るとCGに大きなブレイクスルーが生じたことが示されています。
映画版ファイナルファンタジーは、CGで描き出されたリアルな人間が登場する映画の中で最も古い作品の1つです。
「リアルな人間」といっても、2021年の我々にとっては、映画版ファイナルファンタジーのキャラクターは動きやテクスチャーのせいで、よく言えばゲームのキャラクターのように、率直に言えば命を持っていないように見えるとVoxは指摘。
一方、アリータ:バトル・エンジェルのキャラクターはおよそリアルとはかけ離れた大きさの目や機械の体を有していますが、肌の点では生身の人間に近づいています。
「どのようにして肌の描写をリアルに近づけたのか?」という疑問に答えてくれるのが、ニュージーランドのVFX専門企業Weta Digitalのニック・エプスタイン氏。エプスタイン氏はアリータ:バトル・エンジェルのビジュアルエフェクト部門スーパーバイザーや「アバター」のリードテクニカルディレクターとして活躍した人物です。
アリータ:バトル・エンジェルは木城ゆきとさんのSF漫画作品「銃夢(ガンム)」を原作とするSFアクション映画で、CGによって現実に近いキャラクターを描き出すことに成功しています。
そのリアルさは「あまりにもひどすぎる」と言われた2001年の「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」とは天と地の差。
ハムナプトラ2に比べると、アリータ:バトル・エンジェルははるかに演者に近いCGになっています。
「我々は主人公のアリータを演じたローサ・サラザールの演技を確実にキャプチャーできるようにする必要がありました。ローサ・サラザールの演技がこの映画の中核だと考えたのです」
「そういうわけで、我々はローサ・サラザールの全身のデジタルバージョンを作り上げ、リアリズム的な要素やバロメーターを後から適用することにしました」
エプスタイン氏によると、後から適用したリアリズム的要素は「Albedo(アルベド)」「Displacement(変位)」「Subsurface(表面下散乱)」「Dynamic Changes(動力学的変化)」の4種。
Albedoは、キャラクターを描く際に基礎となるカラーマップを指します。光などのあらゆる要素を省略して色のみを考えた場合、人間の顔というのは頬がやや赤く、額がやや白くなっています。
エプスタイン氏らは現実のローサ・サラザールから肌のカラーマップを作成し、さらにアリータの気分や体調に基づいて色調に手を加えるという調整を実施。例えばアリータが怒っているシーンでは、頬も額もより赤くして頭に血が上っている様子を再現したとのこと。
Displacementは、毛穴レベルの描き込みを入れることで肌に脂っぽさなどのリアル感を与える技法です。アリータの肌を拡大して見ると、数え切れないほど無数にしわが刻み込まれています。
「カメラに写った私の姿を見ると、うれしくないことですが、おでこが強く光っており、鼻も少々光っていますが、頬はあまり光っていませんよね」
「顔の各部位には、『同じ光り方のライン』が存在します。このようなラインに沿って、実際にエフェクトを適用しています」
続く「Subsurface」について解説するのは、3Dレンダリングソフトウェア「KeyShot」を作成するLuxionのチーフサイエンティストのヘンリク・ワン・ジャンセン氏。ジャンセン氏はSubsurfaceに関する専門家で、2004年にアカデミー技術成果賞を受賞したチームに所属していました。
ジャンセン氏が専門としたのは、物体の表面を光が透過する際の反射角について。ジャンセン氏はこの反射角を素早くシミュレートした場合、あらゆるCGがリアルに見えることを立証して、映像業界全体の躍進に大きく貢献しました。
例えばレーザーの光を照射した場合、スプーンは光を全て反射しますが、人間の肌は光の一部を透過します。この概念をCGに適用するための基礎的な研究を行ったのがジャンセン氏です。
例えばフルCGのアニメーション映画「シュレック」は、当たった光が全て反射しているように見えるため、リアル感のない見た目になっているとのこと。
「シュレックでは、ジンジャーブレッドマンにミルクをかけるシーンがあります。シュレックは光の反射を考慮していないため、このシーンのミルクは白いペンキに見えます」
こうした経緯からジェンセン氏は、ミルクに生じる表面下散乱のシミュレートに関する論文を作成。この論文はシュレックの作成陣に伝わるところとなり、続編の「シュレック2」ではジンジャーブレッドマンにミルクがかかるという同種のシーンが大幅に改良されました。この功績のおかげで、ジェンセン氏はソニーを訪れた際に複数の見知らぬ社員から「ああ、あのミルクの!」と言われたとのこと。
ミルク同様に肌でも表面化散乱が生じていますが、ごく初期のアルゴリズムでは皮膚の表面とその内側で同じ表面化散乱が生じるという設計になっていました。そのため、ジェンセン氏は人間の肌は「脂」「表皮」「真皮」の3層になっているという考え方を適用。
さらに、肌の色の濃さによって異なる表面化散乱が生じているというアルゴリズムを作成しました。
「この研究によって、人の肌のレンダリングに説得力が出たわけです」
最後のDynamic Changesについて語るのは、再びエプスタイン氏。Dynamic Changesは表情の動きに関するもので、エプスタイン氏らは「ハーバード・センテンス」という音声的にバランスの取れた文章集を音読するローサ・サラザールの顔をスキャンして、会話の際の表情の微細な変化パターンを収録しました。
2001年の映画版ファイナルファンタジーでは、キャラクターの「目の動き」に注目が集まりましたが、2019年のアリータ:バトル・エンジェルでは肌の質感や光の表現が話題を呼びました。この技術の進歩についてVoxは、「残された疑問は、どこまでリアルになるかということです」とムービーを締めくくっています。
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