ソフトウェア

ゲームや映画でより現実に忠実で美麗な3D映像をレンダリングできる「パストレーシング」についてNVIDIAが解説


現実世界で「物体が見えている」ということは、「光源から放射されて物体に反射した光を、肉眼やカメラのセンサーで捉えた」ということを意味します。この光の挙動をコンピューター上で再現し、よりリアルなグラフィックを描画する技術が「パストレーシング」です。このパストレーシングについて、GPUを主力製品とする半導体企業のNVIDIAが解説しています。

What Is Path Tracing? | NVIDIA Blog
https://blogs.nvidia.com/blog/2022/03/23/what-is-path-tracing/

3DのCGモデルを使ったゲームやアニメは多く存在しますが、ゲームやアニメは2D平面のディスプレイ上に表示されるため、3Dモデルの数値データから2Dの画像データを生成する作業が必要となります。この3DCGの数値データから画像を生成するプロセスを「レンダリング」といいます。

NVIDIAは最初に、1つの視点から見た画像を生成する「ラスタライズ」という技術を紹介しています。ラスタライズは、3Dデータを構成する仮想的な三角形や多角形(ポリゴン)を、その大きさ・方向・色から2Dのピクセルに変換して描画するという技術です。NVIDIAによれば、自社の最新GPUであれば1秒当たり1000億ピクセル以上の画像データを生成できるとのこと。ラスタライズはゲームのグラフィックをリアルタイムで生成するのに適した技術といえます。


そして、ラスタライズをさらに強力にした技術が レイトレーシングです。ラスタライズが3Dモデルを2Dに変換して描画する技術であるのに対して、レイトレーシングは3Dモデルを透過あるいは反射した光線を追跡することで描画する技術です。ラスタライズは1つの視点から見たイメージしか生成できませんが、レイトレーシングはさまざまな視点から見たイメージを生成できるのが特徴で、NVIDIAによれば「RTXシリーズのGPUであれば1秒当たりに何十億もの光線を追跡することが可能」とのこと。レイトレーシングのメリットは、現実の光の挙動を再現するため、揺れる水面に反射する人の顔やガラスに映り込んだ通行人の姿をゲーム内で再現することも可能になるというところです。

NVIDIAのグラフィックス研究担当シニアヴァイスプレジデントであるデヴィッド・リューク氏によれば、このレイトレーシングの歴史は16世紀までさかのぼることができるそうです。

北欧ルネッサンスを代表する画家の1人であるアルブレヒト・デューラーは1538年に著わした「Treatise on Measurement(測量論)」で、「私たちは光を捉えてものを見ている」ことから、糸を使って光の軌跡を捉えて把握するアイデアを発表しています。


そしてデューラーの死後400年以上経った1969年に、IBMのアーサー・アッペル氏がレイトレーシングの概念をコンピューター・グラフィックス(CG)の世界に持ち込み、ものの見え方や影を光の軌道から計算するアイデアを考案しました。さらにその10年後の1979年に、ベル研究所の研究員だったターナー・ウィテッド氏が反射・影・屈折を捉える具体的な方法を示し、CGの世界でもレイトレーシングの考え方を応用できると主張しました。



このレイトレーシング技術をいち早く取り入れたのが、映画業界でした。映画「スター・ウォーズ」シリーズで知られるルーカスフィルムは、モーションブラー被写界深度半影など、それまでCGでは実現できなかった映画ならではの映像表現をレイトレーシングによって再現できることを示しました。さらに、このレイトレーシングを実現する上で重要なのが、入射した光の透過と散乱を計算するレンダリング方程式を発表しました。


このレンダリング方程式はそこまで複雑な式ではありません。しかし、CGモデルは何十億個の三角形やポリゴンで構成されることも珍しくないほど複雑なので、方程式をすべて解くのは現実的ではありません。そこで、ルーカスフィルムは方程式をそのまま解くのではなく、モンテカルロ法を使って統計的にレンダリング方程式の解を求めるレンダリング手法「パストレーシング」を提唱しました。

透明なガラスに光がぶつかると、一部の光はガラスを透過しますが、残りの光はガラスの表面で反射するため、レイトレーシングは3Dモデルに光線を当てた時に透過した場合と反射した場合を分岐させて処理を行います。それに対して、パストレーシングは透過と反射で分岐させずに1本の光線は1本の光線として追跡し、透過するか反射するかを確率で処理します。

パストレーシングは「最もエレガントで正確なレンダリング手法」と考えられていましたが、発表当時は実用的なものではありませんでした。ルーカスフィルムのチームが発表した論文では256×256ピクセルの画像がレンダリングされましたが、当時としてはかなり高性能水準のコンピューターを使っても、レンダリングに7時間以上かかったそうです。

しかし、半導体技術の進歩により、ムーアの法則通りにマイクロプロセッサの演算能力が指数関数的に向上したことで、パストレーシングも十分実用的な技術となりました。2006年に公開されたCGアニメーション映画「モンスター・ハウス」は、世界で初めてパストレーシングによって全編をレンダリングした映画で、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスと後にAutodeskに買収されるSolid Angle SLで共同開発されたレンダラー「Arnold」が使われました。

超高性能マシンでレンダリングした映像を最終的に完パケとして編集してリリースする映画と異なり、ゲームは限られた性能のマシン上でリアルタイムにレンダリングを行う必要があります。そのため、ゲームにおいてレイトレーシングによるリアルタイムレンダリングが使われるようになったのは比較的最近の話で、それも従来のラスタライズベースのレンダリング技術に加えて、レイトレーシングを部分的に採用しているのみ。パストレーシングによるリアルタイムレンダリングに至っては実現不可能だと考えられていました。

しかし、NVIDIAは「GPUの高速化が進み、RTXシリーズを搭載したマシンが普及した今、リアルタイムパストレーシングの実現は目前に迫っています」と述べています。実際、NVIDIAは2019年に、1997年発売のゲーム「Quake II」をパストレーシングでレンダリングするリマスター版の映像を公開しています。

Remastering 1997’s Quake II with Ray Tracing - YouTube


ガラス越しの風景が屈折によってゆがみ、差し込む夕日が空気中で散乱している様子が描画されています。


光が当たっているところと影は決してくっきりと分かれているのではなく、その境目は光の散乱によってややぼやけているところが再現されています。


パストレーシングを含めたレイトレーシングをすべてオフにして、ラスタライズでレンダリングするとこんな感じ。


同じシーンをパストレーシングでレンダリングしたところが以下。GPUが進化してリアルタイムパストレーシングが可能になることで、ゲームの映像表現はさらに美麗なものになることが期待できます。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
最新グラボから旧式グラボまで対応の超解像技術「AMD FidelityFX Super Resolution」をAMDが解説 - GIGAZINE

「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」を8K&レイトレーシングの超高画質でプレイすることに成功した猛者が登場 - GIGAZINE

超美麗でリアルなCG映像を可能にする「リアルタイムレイトレーシング」のデモムービーをNVIDIAが公開中 - GIGAZINE

リアルタイムでCGを作り出すレイトレーシングの驚異的な画質がわかるUnreal Engineのデモムービー - GIGAZINE

Microsoftがレイトレーシングをリアルタイムで行えるAPI「DirectX Raytracing」を公開、ゲームも映画並みにレイトレーシングを活用する時代へ - GIGAZINE

in ソフトウェア,   動画,   映画,   ゲーム, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.