AI

AIの発展によって私たち「人間」に残される仕事は何か?人間とAIの「共同超知能」というビジョン


AIの能力が向上し続ける中で、「AIに仕事を奪われる」という懸念がしばしば話題になります。2026年7月6日からソウルで開催された「国際機械学習会議(ICML 2026)」の基調講演で、プリンストン大学のコンピューターサイエンス教授であるアルヴィンド・ナラヤナン氏が「AIが私たちが現在行っている仕事の多くを担うようになる未来に、私たちはどのように備えるべきでしょうか?」というテーマを語りました。

What will be left for us to work on? - by Arvind Narayanan
https://www.normaltech.ai/p/what-will-be-left-for-us-to-work

ナラヤナン氏はICML 2026で、「私たちが取り組むべき課題は何か?」と題した基調講演を行いました。講演では主に3つの論点が提示されています。


1つ目に、講演の知的枠組みとして「AIはNormal Technology(当たり前の技術)である」という考え方があります。これは、電気や蒸気機関、コンピューター、インターネットと同じように、AIも社会へ広く浸透するには長い時間がかかり、技術そのものだけでは社会を一変させることはできないという考え方です。AIの性能が向上したとしても、企業が業務フローを変更し、法制度が整備され、人々が新しい働き方に適応するには数十年単位の時間が必要になります。この枠組みにおいてAIは特殊なものではなく従来の技術と同様であると理解することが、AIの影響について考える方法として正しく有用であるとナラヤナン氏は主張しています。

2点目に、AIが人間の介入なしにより賢い次世代AIを設計する「再帰的自己改善」に到達する可能性を真剣に検討することは重要ですが、かといって企業や研究所で画期的な成果があった場合に、突然私たち全員が失業することはないという主張です。最後に、それでもゆっくりと未来の仕事は現代と根本的に異なる形に変化していき、多くの適応が必要となるとナラヤナン氏は述べています。

ナラヤナン氏によると、電気のような強力な技術進歩が経済にどのような影響を与えるのか理解するための枠組みとして、「発明」「イノベーション」「普及」の3段階があるそうです。電磁気学の原理や交流と直流の違いなどを発見するのが「発明」、発明を社会実装し始める段階が「イノベーション」、人々がイノベーションを取り入れていく過程が「普及」となります。

これをソフトウェア開発に当てはめると、「普及」が「初期導入」と「適応」に分かれて4つの要素からなるフレームワークに具体化されます。この4番目の段階である「適応」は最も遅く、現代ではまだ本格的に始まってすらおらず、数十年かかるとナラヤナン氏は主張しています。


実際にAIが導入されている現代でも、「適応」がどのように進んでいくのかは推測することしかできません。それでも、過去の技術が社会を変革していったプロセスを踏まえると、ソフトウェアエンジニアリングであれ他の分野であれ、AIの潜在能力を最大限に引き出すためには組織的・人間的な変革は非常にゆっくりとした、数十年かかる変革になるとナラヤナン氏は考えています。

また、実際にAIの導入を理由に大規模なレイオフを実施する企業は存在していますが、ナラヤナン氏は「ソフトウェアエンジニアの生産性が10倍向上するなら、必要なソフトウェアエンジニアの数は10分の1で済むという考えは、実際のデータと完全に矛盾しています」と指摘しています。経済学用語に、技術の進歩で資源利用の効率性が向上しても資源の消費量は減るどころか増加してしまうという「ジェボンズのパラドックス」というものがあります。これは例えば、石炭を効率的に利用できることが広まった場合、より広範な産業で石炭が使われるようになるほか、経済成長の促進や生活水準の向上ももたらすため、石炭の消費量は減少しないというような現象を指します。

ソフトウェアエンジニアリングでも同様で、仮にコーディングエージェントによりコードを書く労力がほぼ0まで短縮できたとしても、計画を立てる意思決定層や、顧客システムへの統合や保守を実行するデリバリー層は圧縮されず、むしろ拡大していく可能性もあります。AIによって生産性が向上しても、それに伴って需要も増えるため、雇用が減るとは限らないとナラヤナン氏は説明しています。


雇用全体を見たらAIによって減少するとは限らないとしても、個別的なタスクはAIに取って変わられるものもあります。特に、検証可能なタスクはAIによって処理できるようになるため、労力の一部もしくは大部分は、何かを構築することよりも評価することへと移行していくとナラヤナン氏は述べています。講演ではAIの導入に伴う社会の変化がボートに例えられており、ボートをこいで水辺を渡るのではなく、船の舵をとってどこに行きたいのか定め、進路が間違っていないか調整することへと人間の役割が移っていくとしています。このような「AIが実際の作業を担い、人間は目的地を決めて進路を調整する役割になる」という変化が、今後10年か20年の間に人間の役割において発生することが予測されるとのこと。


AIの能力が急速に向上しているという課題に直面して、ナラヤナン氏は新しいワークフローの学習や実験、新しいトピックの習得に長い時間を費やしたり、AIによって生産性が向上して節約できた時間を新たなスキルの習得に投資したりと、AIと共に歩んでいく必要性を説いています。その上でナラヤナン氏は、AIと向き合うためのヒューリスティック(思考方法)として2点を挙げました。1つ目は、企業がユーザーにAIエージェントをブラックボックスとして使う、つまりは指示さえ出せば勝手に動いてくれるものとして使うことを望んでいますが、それは後に制御を手放してしまう危険なワナだとナラヤナン氏は指摘しています。そのため、ブラックボックスの便利な誘惑に抵抗し、詳しく知る努力をすることが重要です。

そして2つ目に、新しいことを学ぶのは大変なため専門外のタスクにAIを使いたくなりますが、そうするとそのタスクに関して持っていたわずかなスキルすら失ってしまう「依存のスパイラル」に陥るとナラヤナン氏は警告しています。そのため、生産性を向上させるためにAIを使用する前に、まず時間をかけてそのタスクを習得する方が、長期的にははるかに良いとナラヤナン氏は語っています。

最後にナラヤナン氏は、AIを「私たちの潜在能力を、これまで想像もできなかった高みへと増幅してくれるもの」と表現し、AIに頼るだけではなく自分のスキルも高めていく「co-superintelligence(共同超知能)」というビジョンを提示しました。

・関連記事
「AIを使う仕事ほど危機感」「高収入ほどAIによる恩恵」などAnthropicのAIに関する調査結果が公表される - GIGAZINE

元AI懐疑派の開発者が「仕事で使えるAI」にたどり着くまでの6ステップ - GIGAZINE

AIは仕事を減らさず増やすことがテック企業を対象にした調査で明らかに - GIGAZINE

「AIの登場で仕事がどう変化したのか?」を看護師・教師・科学者・ドライバーなど8人の労働者にインタビュー - GIGAZINE

「人員増加を求める前に『AIではその仕事ができない理由』を示せ」とShopifyのCEOが従業員に伝える - GIGAZINE

OpenAIのCTOがAIはクリエイティブな仕事を奪うかもしれないが「そんな仕事は最初からない方がよかったかもしれない」と発言 - GIGAZINE

in AI, Posted by log1e_dh

You can read the machine translated English article What jobs will be left for us 'humans' a….