古代ユダヤ人は戒律で禁じられた食べ物を普通に食べていたことが判明
宗教が生活の土台となっている地域では、宗教の戒律によって食生活が厳しく取り締まられていることがよくあり、特にイスラエルを中心に信仰されているユダヤ教の食物に関する戒律は「カシュルート」と呼ばれ、非常に厳しいことで知られています。そんなユダヤ教の戒律では、「ヒレやウロコがない魚を食べてはいけない」と定められていますが、古代のユダヤ教徒はウロコがない魚もよく食べていたことが判明しました。
Full article: The Pentateuchal Dietary Proscription against Finless and Scaleless Aquatic Species in Light of Ancient Fish Remains
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03344355.2021.1904675
Ancient Judeans ate non-kosher fish, archaeologists find | Live Science
https://www.livescience.com/ancient-judeans-non-kosher-fish.html
ユダヤ教では、カシュルートにおいて食べてよいものと食べてはいけないものが厳格に区別されています。食べてはいけないとされているのはイカ・タコ・エビ・カニ・貝類などのヒレやウロコがない魚介類、豚やその血液、ウサギやウマなど。また、ユダヤ教では適切に処理されていない肉を食べたり、乳製品と肉料理を同時に食べたりすることも戒律で禁じられているため、ユダヤ教は世界中の宗教の中でも特に戒律が厳しいものだといわれています。
そもそもユダヤ教でヒレやウロコがない魚を食べることが禁じられているのは、タナハ(旧約聖書)のトーラー(モーセ五書)にある記述に由来しているといわれています。例えば、レビ記11章には「水の中にいるすべてのもののうち、あなたがたの食べることができるものは次のとおりである。すなわち、海でも、川でも、すべて水の中にいるもので、ひれと、うろこのあるものは、これを食べることができる。すべて水に群がるもの、またすべての水の中にいる生き物のうち、すなわち、すべて海、また川にいて、ひれとうろこのないものは、あなたがたに忌むべきものである」とあり、申命記14章には「水の中にいるすべての物のうち、次のものは食べることができる。すなわち、すべて、ひれと、うろこのあるものは、食べることができる。すべて、ひれと、うろこのないものは、食べてはならない。これは汚れたものである」とあります。
アリエル大学考古学科の上級講師であるヨナタン・アドラー氏によれば、考古学者の間ではモーセ五書は紀元前539年~332年のアケメネス朝ペルシア時代に執筆・編集されたと考えられています。そしてアドラー氏は、「ウロコのない魚を食べてはいけない」という戒律がいつ頃からユダヤ教との間に広まったかを解明するため、考古学的な記録に注目したと述べています。
アドラー氏と、ハイファ大学ジンマン考古学研究所の研究員であるオムリ・レルナウ氏は、過去に同定した30の遺跡から出土した2万点もの魚の骨のデータを検証しました。なお、対象となった遺跡の時代は、青銅器時代後期・鉄器時代(紀元前1550年~紀元前1130年)から東ローマ帝国時代(324年~640年)でした。
検証の結果、青銅器時代から鉄器時代では、ナマズやサメ、エイといった「ウロコのない魚」の骨も多く含まれていたことが判明しました。ある遺跡では、見つかった魚の骨のうちの48%がナマズのものだったとのこと。発掘されたウロコのない魚の骨でもっともポピュラーだったのがナマズで、他にサメとエイも発掘されました。以下の画像は、実際にエルサレムで発掘されたナマズの骨です。
さらに、エルサレムとテルヨクネアムではウナギの骨も見つかったとのこと。発掘結果からアドラー氏は、ウロコのない魚に関する戒律については、「聖書の内容が当時のユダヤ教徒のライフスタイルを反映した」のではなく、「聖書に記述されたことによって当時のユダヤ教徒のライフスタイルが大きく変化した」ことがうかがえると主張し、「少なくともモーセ五書が記されたであろうアケメネス朝ペルシアの時代には、ユダヤ教徒の間でもウロコのない魚が一般的に広く食べられていたと考えられます」と論じました。
一方で、ほとんどの時代で豚の骨は発見されなかったとのこと。アドラー氏は、当時は豚の飼育難度が高かったために豚自体がほとんど食べられていなかったと指摘し、ユダヤ教の戒律の中で「豚を禁じる項目」と「ウロコのない魚を禁じる項目」はもともと別に成立したと推察しています。
アドラー氏は、なぜ一般的に食べられてきたナマズやサメを禁止するような内容がモーセ五書に記され、いつ頃から戒律でも禁止されるようになったのかを解明することが、今後の研究課題と述べています。
・関連記事
死海文書に「2人目の書き手」が存在することがAIを用いた筆跡鑑定によって明らかに - GIGAZINE
旧約聖書でアダムとイブが食べた「禁断の果実」はなぜリンゴで描かれることが多いのか? - GIGAZINE
新たな死海文書が「恐怖の洞窟」から65年ぶりに発掘される、一体何が書かれていたのか? - GIGAZINE
なぜ4・13・17・39・666は「縁起の悪い数字」とされているのか? - GIGAZINE
約3000年前の「神の頭部」が発見される、偶像崇拝が禁止されていた時代の珍しい事例か - GIGAZINE
大麻が古代中東の宗教儀式で使われていた証拠が初めて見つかる - GIGAZINE
「死海文書」でこれまで見つかっていなかったネヘミヤ記を含む断片発見か - GIGAZINE
・関連コンテンツ