インタビュー

アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』の渡辺歩監督にインタビュー、肉子ちゃんはあえてマンガチックでファンタジーな存在に


サラバ!』で直木賞を受賞した作家・西加奈子さんの小説『漁港の肉子ちゃん』が、明石家さんまさんプロデュースによりアニメ映画化され、2021年6月11日(金)から公開されています。主役である「肉子ちゃん」役を大竹しのぶさん、キクコ役をCocomiさんが演じるなど、そのキャスティングでも話題を呼ぶ作品ですが、アニメーションとしてもとてもクオリティが高い作品となっています。

この作品はいかに実現したものなのか、メインスタッフの方々に話を伺う機会があったので、作品について、仕事について、スタッフについてなど、いろいろな質問をしてきました。まずは監督の渡辺歩さんのインタビューです。

劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』公式サイト
https://29kochanmovie.com/

GIGAZINE(以下、G):
『漁港の肉子ちゃん』のアニメ映画化の話は、公式Twitterによれば、明石家さんまさんが作品にハマって映像化をオファーしたとのことでしたが、どのようにして渡辺監督のところにやってきたのですか?


渡辺歩監督(以下、渡辺):
2年半か、3年ぐらい前だったかなと思います。もともとは実写化しようと考えていらっしゃったようで、映像化の許諾をもらったのですが、なかなかキャスティングが決まらなかったと。特に肉子ちゃんが。それに、具体的な人に決めてしまうとイメージが固まってしまうので、『それなら絵にしよう』と。アニメ化にあたって、吉本さんと取引のあったSTUDIO4℃に話が来た、という流れだと思います。

G:
渡辺監督が「『漁港の肉子ちゃん』をアニメ映画化する」と初めて聞いたときの印象はどんなものでしたか?

渡辺:
タイトルを聞いてギョッとしたクチです(笑)。タイトル自体は存じていたのですが、読んではいなくて……でも、食わず嫌いでしたね。読んでみると「これ、めっちゃ面白いかも」と、引き込まれていきました。

G:
公式Twitterで公開されているメイキング映像を見ると、さんまさんと渡辺監督が積極的にコミュニケーションを取っていて、さんまさんは単に名前を前面に出しているだけではないということがわかります。現場で、「さんまさんの作ろうとしている『漁港の肉子ちゃん』はこういうものだ」というのは、どのようにつかんでいったのですか?


渡辺:
最初の構成の打ち合わせからさんまさんは立ち会っていて、「どんなものを見たいのか」という話は出ていました。「ターゲットやマーケティングのことはええねん。作る側が面白がることが大事や」「我々が面白いものを送りだそう、元の話がええんやから、それを大事にして作ったらええ」と。さんまさんは、とてもサービス精神旺盛な人で、「必ず楽しませたい」という思いを感じました。


G:
なるほど。

渡辺:
構成のところでも、小説のすべてを入れることは尺の都合上できないので、物語を取捨選択していきましたが、さんまさんが大まかに「ここはこうして、ここを膨らませて、最後はこんな感じや」とイメージを決め、それをもとに作っていきました。結構、「さんま純度」が高い作品だと思います(笑)

G:
(笑) さんまさんからは「大切なのは作り手が面白いと思うこと」という言葉をもらったとのことですが、監督にとって「作り手が面白いと思うこと」はどういったところですか?


渡辺:
ギャグとか画面を作り込むとかもありますが、構成上、いろいろなヒントをちりばめて、回収していくところで起こるであろうワクワクや気づきの面白さ、そういうのはこちらも「伝わるとうれしいな」と思いつつ作っていきました。それを目指して、スタッフと共有しながら作れたのではないか、1本の映画を組み上げることができたんじゃないかなと思います。

G:
総作画監督の小西賢一さんが「アニメーション映画を作るからには、自分たちのキャラクターを作りたいという想いは監督も僕も持っていた。」とコメントされていましたが、この「自分たちのキャラクター」というのはどういった意味合いなのでしょうか。


渡辺:
漫画原作のようにすでにビジュアルがある作品では、キャラクターデザインはそれを基準に作ることになるのに対して、小説も完全に自由というわけではないですけれど、条件がありつつもビジュアルになっていないものを構築する面白さがあるというところですね。こうした緊張感は今までなかなかなかったので……「挑戦」とまでいうと大仰かもしれませんが(笑)。アニメーション作品を作る上で、キャラクター構築は全体のビジュアルに対する要素が大きいので、元の絵がない状態からデザインワークができたというのは、小さな一歩であったとしても、僕たちのチームにとっては大きなものだったと言えると思います。

G:
「漁港の肉子ちゃん」ARTBOOKのサンプル画像を拝見すると、「渡辺監督による初期ラフスケッチ」とついた画像で、すでに肉子ちゃんとキクコのイメージはかなり完成されているように思えます。このデザインは、いつごろ描かれたものなのでしょうか。

渡辺:
これはもう、初期の初期ですね。原作を読んで、脚本ができる前にキャラクターへのアプローチをさんまさんに会う前に模索しておこうと考えて描いたものです。

G:
イメージはぱっとこの形が出てきたのでしょうか。それとも、試行錯誤の末にたどりついたものだったのでしょうか。

渡辺:
わりと、完成形に近いものがぱっと出てきたかなと思います。小説の中に肉子は「インドの野良犬」と具体的なたとえがあったので、それを漏らすことなく入れたパターンです。さんまさんに見せたら「おおーっ!」と、絵になったことを非常に喜んでくださって。「こう来たか!」という反応でした。

G:
監督はこうしたイラストは、スケッチ帳に描かれるスタイルなのですか?

渡辺:
はい。イメージを忘れないように、つらつらっと描いています。あんまりまとまりはないですけれど(笑)

G:
今回のキャラクターについて、監督の「最終的には、リアルなビジュアルというより、うんとマンガっぽい絵にしようと思いました」というコメントを見かけました。この「うんとマンガっぽい絵にしよう」と思った理由は、何だったのですか?

渡辺:
特に肉子ちゃんなんですが、ファンタジー感があるなといいなと思ったんです、森の妖精のような(笑)

G:
妖精(笑)

渡辺:
人間離れしたようなものを、と。それで、せっかく絵なんだからいっちゃおうかということになりました。通常、キャラクターデザインは統一性を持ったものにして、大体のキャラクターは1つの方向性に沿ってある程度の範囲内に定まるんですが、今回はそれをやめて、1人だけ異様なほどシンプルなものにしました。「さすがに影なしのデザインは……」と言われたので影はつけましたけれど(笑)、浮世離れしたものをと思ったんです。「こんなアニメが成立してもいいんじゃないの?」と、肉子ちゃんだけちょっとファンタジーにしちゃおうって。なんだか、名作オマージュなんて話がちょっと先行してしまっていましたが、むしろそこからなんです。


G:
(笑)

渡辺:
最初からそれが目的だったわけではなく、ちょうどあんな感じに扱えるといいかな~ということなんです。アニメの技法としては、ちょっと自由すぎて、とんでもないことになっていますが(笑)

G:
まさにその名作オマージュ、完全に場面写真が出たときに「トトロ!」というものでした(笑)。このシーンが生まれたいきさつはどういったものなのですか?

渡辺:
たまたま条件が合致したんです。雨の中、バス停で親子がバスを待っている。それを素直に絵にしたとき「あれっ!?見たことあるな。この既視感……トトロやん!」と(笑)。最初から「トトロっぽくしよう」と考えたわけではなく、要素を並べたら似ていたということです。これ見ていただいて、そんなに似ているかな……似てるか(笑)

G:
似てます(笑)


渡辺:
これは「肉子ちゃんはファンタジーなんやで」ということなんです。ちっちゃいお子さんにも「おばちゃんはトトロみたいなもんなんやで」と、親和性を高めるようなイメージです。そして、敬意を込めてそれを越えたいという覚悟の表れでもあります。……怒られそうですけれど(笑)。この画像が先行したときは本当にドキドキしました。見ている人が「もしかして」と思ってくれたらいいなと思いつつも、変な動悸がしているのは事実です。本来はこっそりやるのがいいですから(笑)

G:
作品公開前に『カバン持ちさせてください!』という番組でSTUDIO4℃へ取材に行く回があり、監督が取材を受けているのですが、この中で、劇中で使う小道具を作画の参考として買ったという話で、バスケットボールやたらいが出てきました。こうした実物は、作画参考としてどのように使ったのですか?

渡辺:
実際のサイズ感や、ボールならバウンドの雰囲気とかですね。動きは検索すれば動画が出てきますが、触らなければ分からない部分というのはあるので、想像に任せず、触った感覚を大事にしてもらおうということです。あと、絵にすることによってウソはつくんですが、それは本当の質感を踏まえた上でやらなければいけないなと。わざわざホーローのたらいにこだわる必要はなかったんですけれど(笑)、その方がお肉がおいしそうに見えるだろうと。細かすぎるディテールかもしれませんが、肉子ちゃんが持ったときどんな感じになるだろうかとか、そういうことを想像だけではなく、きっちりと実物を押さえることでいろんなウソが成立するのではないか。ウソを成立させるためにホンモノの裏打ちがあったほうがいいのではないかと、そういう感じですね。

G:
小西さんがTwitterで監督のことを評して「ギター、鍵盤、マルチに嗜む方です」とツイートされていました。そんなにいろいろ弾けるのは、なぜなのですか?


渡辺:
たしなむ程度です(笑)。これも先ほどの答えとつながりますが、「実物を見てみたい」というのがあって始めたのがきっかけです。とりあえずホンモノに当たってみる。触れるものには触ってみる。そこから数、種類が広がってしまったという感じです。

G:
作り手側が実物を見たり知ったりすることによる影響は、どういった部分に出るのでしょうか。見ている側からもわかるものなのでしょか。

渡辺:
持ち上げるときのタメとか、ふとした重さとか、ほんのわずかなところですね。ギターだと肩にかける具合とか、体に預ける角度とかで、想像に任せるより実際に持った方がいいポーズが取れるというのはあります。そして、意外と見落としがちな所に気づいたりするんです。たとえば、携帯電話を持つ手は意外と角度が難しくて、想像で描ける人はすごいです。これはちゃんとやらないといけない部分で、ポーズや動きのささいなところに出たりします。

G:
総作画監督の小西賢一さんは、渡辺監督から見てどういう人物ですか?

渡辺:
こういった質感など、すべてにおいて妥協しない人です。「妥協点が高い」という言い方だと「結局は妥協しちゃうのか」となってしまうので、「鍛え方が違う」とかになるのかな(笑)。志が違うというか。「もうちょっと粘ればよくなるかもしれない」と考える人で、OKだったものでも「もうちょっとやってみよう」と粘る方です。僕なんか、カットが成立していて方向性が合っていればOKを出しちゃうんですけれど……とんでもない人です(笑)

G:
今回、美術の木村真二さんにもお話を伺う機会があるのですが、渡辺監督から見て木村さんはどういった方ですか?本作はとても美術に気合いの入った作品であると感じますが。

渡辺:
この人もまた妥協しない人です(笑)。僕からすると、ペース配分的に楽をしてもらいたいなと思うカットもあるんですが、そこをしっかり埋めてくるので「本当にストイックだな」と実感します。描くものすべてに意味があるんですよね。人の息吹、性格、状況……すべてを想像して背景に織り込んでくる。もはや、背景の作業ではないかもしれないぐらいです。単なる「景色」にとどまらないというか……。1カット、1ショットにかける熱量が小西さんと同じく常に大全開で本当にすごい人です。もしかしたら、画面構成で一番演出している人なのかもしれません(笑)

G:
(笑)

渡辺:
そういった人たちがそろっているわけですから、そりゃとんでもなく良い作品になるわけです。僕はもっと楽してもいいと思っているのに(笑)。でも、おかげで作品の格調が高くなっているのは事実ですね。

G:
2人のストイックさは、どういったシーンで特に感じられますか?

渡辺:
どのシーンもすごいと言えますが、やはり、病室のシーンでしょうか。言い方が難しいですが「描かなくてもいいものまで描いている」という感じです。

G:
おお……。

渡辺:
画面の端の方、「そこは別にいいのに」というところまで描き込んでいますから、ぜひ注目してみていただきたいです。

G:
監督はそういった「描かなくてもいいものまで描いている」のを見つけたときは、どうするんですか?

渡辺:
「描かなくてもいいのに」とはいいつつも「しめしめ」と(笑)

G:
(笑)

渡辺:
「なくても大丈夫だけど、やってくれましたか!」とうれしくなります。芝居も妥協がなく、すごいものになったなと。本作が描いているのは、とても当たり前のもので、「おばちゃんがしゃべっているだけ」なんですが(笑)、そこにしっかりとドラマを染み込ませることができたのはお二人のおかげだと感謝しています。

G:
監督の期待以上のものが返ってきているような感じでしょうか。

渡辺:
病室のシーンなんて、いわば「楽をしてもらってもいいシーン」なんです。でも、そこまでしっかり描いてきてもらったのは大変なことだと思います。

G:
では最後に、本作を見に行くかどうか迷っている人の背中を押す一言をお願いします。

渡辺:
肉子ちゃん自体はとてもファンタジーな存在で、マンガチックな部分もありますけど、その存在を許してくれるようなしっかりとした描写がなされています。アニメーションではそれが同居していてもいいんだという可能性の提案と、自由度の高さゆえの心地よい違和感と自由すぎる演技の楽しさと、西加奈子さんによる温かいストーリーを同時に味わっていただければと思います。


G:
本日はありがとうございました。

映画「漁港の肉子ちゃん」は大ヒット上映中です。

劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』 予告90秒 - YouTube


さらにこのあと、総作画監督の小西賢一さん、美術監督の木村真二さんへのインタビューも掲載します。監督から「妥協しない」といわれたお二人はどんな方なのか、お楽しみに。

・つづき
『漁港の肉子ちゃん』総作画監督・小西賢一さんインタビュー、レイアウト修正にはどんな意図が込められているのか? - GIGAZINE

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
2021年夏放送開始の新作アニメ一覧 - GIGAZINE

「映画 えんとつ町のプペル」を制作したSTUDIO4℃の田中栄子プロデューサーにインタビュー - GIGAZINE

大ヒット絵本をアニメ化した「映画 えんとつ町のプペル」の廣田裕介監督にインタビュー - GIGAZINE

「ゴミ人間」を「人間っぽくない」動きにまとめ上げた「映画 えんとつ町のプペル」アニメーション監督・佐野雄太さんインタビュー - GIGAZINE

連載より単行本1冊分を一気に描くのが「得意距離」という『映画大好きポンポさん』原作者・杉谷庄吾【人間プラモ】さんにインタビュー - GIGAZINE

・関連コンテンツ

in インタビュー,   動画,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.