リチウムイオンバッテリーの価格は過去30年間で97%も下落している
世界の温室効果ガス排出量を削減するため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを用いた発電への移行が急務となっていますが、これには発電したエネルギーを貯蔵するバッテリーの整備も必要です。そんな電力の貯蔵に使われるリチウムイオンバッテリーの価格について、さまざまなデータを公開するOur World in Dataが「過去30年間で97%も下がっている」と報告しました。
The price of batteries has declined by 97% in the last three decades - Our World in Data
https://ourworldindata.org/battery-price-decline
世界における温室効果ガス排出量の4分の3はエネルギーの使用によるものであるため、気候変動を食い止めるためには化石燃料から再生可能エネルギーへ移行することが重要です。このエネルギー転換における大きな障壁として「発電コスト」が挙げられていますが、近年では太陽光発電や風力発電のコストが急速に安くなっており、もはや発電コストが化石燃料を下回るほどになっています。
なぜ再生可能エネルギーの発電コストは急速に安くなったのか? - GIGAZINE
しかし、エネルギー源の移行にとって考慮すべきなのは発電コストだけではありません。再生可能エネルギーが直面する課題の1つに、「自然のエネルギーを利用するため1日中常に安定して発電できるわけではない」という点があります。つまり、太陽光発電であれば太陽が出ない夜間は発電できず、風力発電は風が吹いてない日は発電できません。
この問題のシンプルな解決策に「発電したエネルギーをバッテリーに蓄え、後で必要になった時に放出する」というものがありますが、そのためには大量のエネルギーを蓄えられる巨大なバッテリーとコストが必要です。そこでOur World in Dataは、スマートフォンから電気自動車、再生可能エネルギーの発電施設などで幅広く使われるリチウムイオンバッテリーの価格推移を、過去30年にわたって調査しました。
以下は容量1キロワット時のリチウムイオンバッテリーの価格について示した片対数グラフで、縦軸が対数スケールの価格、横軸が年となっています。1991年に7523ドル(当時のレートで約102万円)だったバッテリー価格は2018年になると181ドル(約1万9800円)となっており、なんと97%近くも下落していることがわかります。価格の下落は近年に入っても止まっておらず、2014年~2018年の4年間で約半分になっているとのこと。
1991年と2018年のリチウムイオンバッテリー価格について電気自動車のバッテリーで考えてみると、日産のリーフに搭載されている40kWhのバッテリーは2018年の時点だと約7300ドル(約80万円)ですが、1991年の時点だと約30万ドル(約4000万円)です。また、テスラのモデル Sに搭載されている75kWhのバッテリーは2018年時点で約1万3600ドル(約149万円)、1991年時点だと約56万4000ドル(約7610万円)となり、バッテリーだけでとんでもない価格になってしまいます。
このように、再生可能エネルギー発電以外の分野でもリチウムイオンバッテリー価格の下落は非常に重要です。過去30年で急速にリチウムイオンバッテリー価格が安くなった理由について、Our World in Dataは「リチウムイオンバッテリーの市場規模」が関係していると指摘。
以下の対数グラフは、縦軸が容量1キロワット時のリチウムイオンバッテリー価格を対数スケールで示し、横軸がリチウムイオンバッテリーの累積導入容量を対数スケールで示したもの。1991年の時点ではわずか0.13MWhしかリチウムイオンバッテリーが設置されておらず、これはテスラ車に搭載されている75kWhのバッテリー2個分未満です。しかし、その後は急速に累積導入容量が増加していき、2016年までに7万8000MWhものリチウムイオンバッテリーが導入されてきたとのこと。この結果は、リチウムイオンバッテリーの累積導入容量が2倍になるにつれて価格が18.9%下落する経験曲線効果を示しており、太陽光発電モジュールの価格における累積設備容量の増加と価格の下落とよく似た関係だそうです。
リチウムイオンバッテリーの需要が増加するにつれて、メーカーがイノベーションを達成するインセンティブや機会も増えます。その結果、同じ容量のバッテリーをより低コストで生産可能になるといった技術革新が発生し、さらにリチウムイオンバッテリーの需要が増加すると共に、次の技術革新を起こすメリットが生まれるとのこと。
なお、リチウムイオンバッテリーにおける技術革新は低コスト化だけでなく、同じ容量のバッテリーをより小型で軽量にするという方向でも起きています。1991年の時点では、1リットル当たりのリチウムイオンバッテリーの容量は200ワット時でしたが、2018年の時点では700ワット時に向上しているそうです。しかし、依然としてリチウムイオンバッテリーはかなり重く、電気飛行機など重量が性能に大きく関わる分野で課題となっているとOur World in Dataは指摘しました。
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