大量の水が必要な半導体生産工場がアリゾナの砂漠地帯に建設されるのはなぜ?
半導体大手のIntelとTSMCが、それぞれ2021年3月と5月に「アリゾナ州に新しい半導体製造工場を建設する」と相次いで発表しました。アメリカで最も乾燥した地域であるアリゾナ州が、大量の水を必要とする半導体製造工場の建設地に選ばれる理由を、海外ニュースメディアのArs Technicaが解説しています。
Here’s why TSMC and Intel keep building foundries in the Arizona desert | Ars Technica
https://arstechnica.com/gadgets/2021/06/why-do-chip-makers-keep-building-foundries-in-the-arizona-desert/
大手半導体メーカーがアリゾナ州に工場を建設する理由は、大きく分けて2つあります。1つ目は「雨が少なく自然災害のリスクが小さい」という環境です。アリゾナ州の年間降水量はたった13.6インチ(約345mm)で、アリゾナ州が位置するアメリカ南部の年間降水量の50~60インチ(1270~1524mm)と比べると4分の1程度しかありません。この気象条件により、アリゾナ州はアメリカの中でも特にハリケーンや竜巻の危険が小さい地域になっているそうです。
また、日照時間が長いため太陽光発電が盛んで、再生可能エネルギーが得やすいというのもアドバンテージの1つ。Ars Technicaによると、アリゾナ州では全電力の約5%に相当する約520万kWを太陽光発電で賄っているとのこと。さらに、降水量が少なく植物がまばらな点は山火事のリスクが少ないというメリットになるほか、アリゾナ州は地震も少ない地域とされています。
いくら自然災害が少なくても、雨が降らず水の供給が不安定だと、水が大量に必要な半導体工場を稼働させる上で不利なように思えます。事実、TSMCのお膝元である台湾では、水不足により半導体の生産に悪影響が生じるおそれがあることが指摘されています。
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しかし、新しく建設される半導体工場は水の再利用に力を入れているため、水不足の影響は小さいとのこと。近年の半導体工場における水の利用実態について、テクノロジー専門の市場調査会社であるForresterのグレン・オドネル氏は「半導体工場では厳格に水をリサイクルしており、さながら閉め切った施設にある屋内プールのようです」と説明しています。また、Intelがアリゾナ州で実施している15の水再生プロジェクトが完成すると、年間9億3700万ガロン(約35億4600万リットル)の水が再生できると同社は発表しており、これによりIntelの水の使用量は正味プラス、つまり水を使うどころか供給する側になると期待されています。
そして、もう1つの理由が「人的要因」です。アリゾナ州政府は、州内に産業を誘致するための制度的な環境整備を積極的に推進しているほか、アリゾナ州内の大学も半導体関連の教育に力を入れているとのこと。また、Intelは創業から間もない時期にアリゾナ州に進出し、それ以来40年以上にわたり多数の従業員をアリゾナ州で雇用しています。こうした産官学を挙げたアリゾナ州の半導体生産環境について、オドネル氏は「IntelとTSMCの最近の発表は、連邦政府、州政府、地元自治体など多くの団体による支援が実を結んだものです」と述べました。
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