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NASAの火星ヘリコプターの初飛行成功がどれだけすごいのかについて宇宙物理学者が解説

By NASA/JPL-Caltech

2021年4月19日、NASAが火星での任務を遂行している探査機「パーサヴィアランス」に搭載されている無人ヘリコプター「インジェニュイティ」の飛行に成功しました。この初飛行成功は「ラジコンでヘリコプターを飛ばしただけ」とも受け取れてしまいますが、ロイヤルメルボルン工科大学で宇宙物理学について研究するゲイル・アイルズ氏が「火星でヘリコプターを飛ばすことの困難さ」について語り、今回の一件がいかに偉業だったかを解説しています。

So a helicopter flew on Mars for the first time. A space physicist explains why that's such a big deal
https://theconversation.com/so-a-helicopter-flew-on-mars-for-the-first-time-a-space-physicist-explains-why-thats-such-a-big-deal-159334

現地時間2021年4月19日、パーサヴィアランスに搭載されていた無人ヘリコプターのインジェニュイティが地表から3メートルの高度で30秒間ホバリングし、無事着陸することに成功しました。このインジェニュイティの初飛行については、以下の記事で詳細に解説しています。

NASAの火星ヘリコプターが飛行に成功、人類史上初の快挙 - GIGAZINE


この初飛行は平たく言ってしまえば、「30秒間ホバリングしただけ」と言えるため、地球上での飛行を想定すると取るに足らない出来事のように思えます。しかし、専門家であるアイルズ氏によると「人類の宇宙探査史における壮挙」とのことで、アイルズ氏は今回の出来事がいかに快挙なのかを説明するため、「なぜ火星でヘリコプターを飛ばすのは困難なのか?」について解説を行っています。

火星でヘリコプターを飛ばす際に最大の問題となった点が、「大気」です。ヘリコプターはローターを回転させることで揚力を得て飛行する乗り物です。揚力を得るためには大気の存在が必須ですが、火星の大気は地球の100分の1以上の薄さであるため、「火星の地表でヘリコプターを飛ばす」という行為の難度は「地球の高度3万メートルでヘリコプターを飛ばす」ことに相当するとのこと。なお、地球上におけるヘリコプターの最高高度は4万2000フィート(約1万2800メートル)であるため、火星の地表からヘリコプターが飛び立つというのは、大気の観点からだけでも前人未踏だったわけです。

一方、火星と地球の差を考える際に大気に次いで挙げられる「重力」については、火星の重力は地球の3分の1であるため、実はNASAにとって有利な条件でした。そのため、NASAはインジェニュイティの初飛行に際して、「重力の低さ」を追い風にして「大気の薄さ」という困難と闘ったとアイルズ氏は説明しています。

こうした環境条件に対抗するため、NASAはインジェニュイティを地球のヘリコプターとは異なる仕様にしています。地球上のヘリコプターはローターを毎分400~500回転させて飛んでいますが、インジェニュイティは火星の薄い大気の中を飛行するため、ローターは毎分2400回転という速度に設定されました。さらに、インジェニュイティは13.6cm×19.5cm×16.3cmというティッシュ箱程度の本体サイズですが、ローターの長さは1.2mとアンバランスなほどローターが長く設計されています。

by Kevin Gill

また、飛行を行うためのオペレーションにも困難があったとアイルズ氏。今回のオペレーションでは、信号はNASAのPCから衛星アンテナ、火星の周回軌道を回るマーズ・リコネッサンス・オービター、パーサヴィアランスを中継してインジェニュイティに届けられました。そのため、地球から放たれた信号はわずか数分で火星まで届きますが、今回のオペレーションでは多数の中継を要したため、「数時間」という時間がかかっています。

NASAは今後、「インジェニュイティをパーサヴィアランスから約300m離れた位置で飛行させる」という実験を行う予定です。こうした実験は、NASAが2019年に明らかにした「2035年までに有人火星探査を実行する」という目標に大きく貢献するとアイルズ氏は語っています。

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in 乗り物, Posted by darkhorse_log

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