羊の内臓を胃袋に詰めた「ハギス」がスコットランドの伝統料理になった歴史とは?

ハギスは羊の内臓をオート麦・玉ねぎ・ハーブなどと一緒に刻み、羊の胃袋に詰めてゆでたり焼いたりするスコットランドの伝統料理です。実はハギスっぽい食べ物はヨーロッパ各地に存在していたそうで、ハギスがスコットランドの料理と見なされるようになった経緯について、ウォーリック大学の歴史学者であるアレクサンダー・リー氏がまとめています。
A History of Haggis | History Today
https://www.historytoday.com/archive/historians-cookbook/history-haggis

2009年、スコットランドのグラスゴー出身の食文化研究者であるキャサリン・ブラウン氏が、ハギスが実はイングランドで発明された料理だと主張して論争を呼びました。これに対してスコットランドの人々は憤慨しましたが、実際のところハギスの起源は謎に包まれているとのこと。
リー氏はハギスがどこで誕生したのかは定かでないとしつつ、「ローマ人が狩猟した動物の内臓を保存するために作り出したものが伝来した」「8~13世紀の間に北欧のバイキングがハギスの原型を持ち込んだ」「ハギスの原型はフランス発祥であり1295年以降にスコットランドへ持ち込まれた」といった説があるとしています。
しかし、これらの説はいずれも説得力や証拠に欠けており、すべてが推測に基づくものです。現代では一般的なソーセージも基本的にはハギスと似た料理であり、同様の料理がヨーロッパ全土でかなり古くから作られていたことを考えれば、ハギスの最も古い形態がグレートブリテン島のどこかで誕生していても不思議ではありません。
文献を調べてみると、ハギスに似た最古の料理はイングランドの書物に見られるとリー氏は指摘しています。1390年にイングランド王リチャード2世の料理長によって書かれた「The Forme of Cury」には、すりおろした肉を豚の胎膜で調理する「raysols」という料理のレシピが載っており、約40年後のレシピには「Haggis」または「Hagws」という言葉が初めて登場しています。
また、イングランド・ノーフォークの修道士であるジェフリー・ザ・グラマリアンが1440年ごろに記したイギリス・ラテン語辞典の「Promptorium parvulorum」には、「Hagas」という料理名が記載されています。Hagasのレシピは記載されていませんがプディングの一種だと定義されており、おそらく羊が使われていたと考えられるとのこと。

ハギスについて言及した最古の文献がイングランドのものだからといって、ハギスがイングランド発祥だという証拠にはなりません。15世紀半ばにイングランド北部のランカシャーで記されたレシピ本にもハギスが載っていることから、ハギスがスコットランドに近いイングランド北部で古くから食べられていたと確認できるほか、1513年ごろにはスコットランドの文献にもハギスが記されるようになります。
しかし、当時のハギスはあくまでも「人々が食べている料理」の1つであり、それがスコットランドまたはイングランドの料理であるとは主張されていませんでした。ハギスがスコットランドの料理と見なされるようになった背景には複数の要因があり、そもそもハギスをスコットランドのものだと見なしたのはイングランド人だとリー氏は主張しています。
まず1つ目の要因が「消費パターンの変化」です。イングランドでは17世紀末までに産業革命によって生産性が劇的に向上しました。これによって幅広い種類の高品質な農作物の輸入が可能となり、動物の内臓の国内市場が縮小したことを受け、貧困層を除いて内臓を使ったハギスがほとんど食べられなくなりました。一方、スコットランドでは同時期に経済が衰退したため生活が苦しい人々が多く、結果として安価なハギスが広く食べられるようになりました。
2つ目の要因は「政治的な偏見」です。イングランドとスコットランドは1707年の合同法によってグレートブリテン王国を形成しましたが、依然としてイングランド人はスコットランド人を野蛮なものだと見なしていました。その過程で、当時すでにイングランドでは見られなくなったハギスもやり玉に挙がり、「ハギスはスコットランド特有の野蛮な料理」だとされるようになったとリー氏は解説しています。
イングランド人がハギスを野蛮なものと見なす一方で、スコットランド人はハギスを誇りを持って自分たちのものだと主張し始めました。1822年、イギリス国王のジョージ4世がスコットランドを訪問した際には、スコットランドを代表する料理のひとつとしてハギスが振る舞われ、後に海外在住のスコットランド人の間でもハギスを食べることが流行したとのことです。

by James Stringer
リー氏は、ハギスの起源は常に論争の的になり得るものの、何か決定的な証拠が出るまでは決着がつくことはないだろうと主張。「ある意味では、決着がつかないことを願っています。ハギスが謎めいた起源からスコットランドの伝統料理へと辿り着いた道のりは、ハギスそのものと同じくらい心に響くものです」と述べました。
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in 食, Posted by log1h_ik
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