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ヘッドホンにおけるサラウンドサウンドシステムの仕組みとは?


Appleの「AirPods Max」で利用できる「空間オーディオ」や、PlayStation 5に搭載されている「Tempest 3Dオーディオ」など、ヘッドホンで立体的なサラウンドサウンドを体験可能にする技術が数多く登場しています。そんなサラウンドサウンドシステムの歴史や仕組みについて、オーディオ機器レビューサイトのSoundGuysが解説しています。

Everything you need to know about surround sound in headphones - SoundGuys
https://www.soundguys.com/surround-sound-headphones-guide-49389/

◆劇場におけるサラウンドサウンドシステム
劇場におけるサラウンドシステムの歴史は、ディズニーが1940年に発表した「Fantasound」から始まります。Fantasoundでは、54個のスピーカーを劇場の適切な位置に配置することで、前後左右から音を再生するシステムでした。しかし、システムが高価であったことと、複雑すぎたことを理由に、たった2軒の劇場でしか採用されなかったとのこと。その後、1960年代まで、サラウンドサウンドシステムは市場から消滅していたとSoundGuysは語っています。

1976年には、音響メーカーのDolbyから劇場向けのサラウンドサウンドシステム「Dolby Stereo」が登場しました。Dolby Stereoは1977年に公開されたスター・ウォーズのヒットの影響で多くの劇場に普及したとのこと。その後もサラウンドサウンドシステムの開発は続き、2012年には天井にもスピーカーを配置する劇場向けシステム「Dolby Atmos」が登場。ホームシアター向けにも、4つの頭上スピーカーを備えた「7.1.4 Dolby Atmos system」が登場しています。


◆ヘッドホンにおけるサラウンドサウンドシステム
ヘッドホンでサラウンドサウンドシステムを実現する手法として、以前は、耳の両側に複数のスピーカーを配置する手法が用いられてきました。この手法では、劇場やホームシアターと同様の仕組みでサラウンドシステムを実現できますが、複数のスピーカーを搭載することでヘッドホン本体の体積や重量が大きくなるという問題が存在していました。そこで、音の聞こえる方向を仮想的に再現することで2基のスピーカーでのサラウンド再生を実現する「仮想サラウンド」と呼ばれる技術が登場しました。

音は、鼓膜に到達するまでに、肩や頭、外耳に衝突しており、動物は衝突による音の変化を認識することで、音が聞こえる方向を把握しています。この、音が衝突する際に現れる影響は頭部伝達関数(HRTF)と呼ばれており、仮想サラウンド技術では、「HRTFの影響が加わった音を録音」や「ソフトウェア処理によって音声データにHRTFを適用する」といった手法で、2基のスピーカーでも音の方向を感じられるサウンド環境を実現しています。


HRTFの影響がが加わった状態の音は、実際の耳やダミーヘッドに小さなマイク入れることで録音できます。このような手法は、ASMRコンテンツなどで、多く利用されているとのこと。

ソフトウェア処理によって音声データにHRTFを適用する手法には、高い処理能が求められますが、近年の技術開発によって高性能かつ低消費電力な小型のチップが登場しています。また、仮想サラウンドサウンドシステムとモーショントラッキングを組み合わせることで、頭の向きを変えても音源の位置が変化しないリアルなサラウンドシステムの構築が可能です。これらの理由から、近年は仮想サラウンドサウンドシステムの規格が各社から続々と登場しています。

◆主な仮想サラウンドサウンドシステム規格
Dolbyが提供する「Dolby Atmos for Headphones」は、数百のチャンネルを仮想的に扱うことができる仮想サラウンドシステムで、PC・Xbox OneXbox Series XXbox Series S・スマートフォンで実装されています。SoundGuysはDolby Atmos for Headphonesを「業界のリーダー」と評価。また、オーディオ技術開発企業のDTSが開発した仮想サラウンドサウンドシステムである「DTS Headphone:X」も、Dolby Atmos for Headphonesと同等の機能を有しているとのことです。

Sonyが開発する「Sony 360 Reality Audio」や、サウンドカードで知られるCreativeが開発する「Creative Super X-Fi」では、耳の写真を撮影して形状を測定することで、ユーザーごとに異なる耳の形に対応した自然なサラウンドサウンドを体験できます。また、PlayStation 5に採用された「Tempest 3Dオーディオ技術」では、5つのプロファイルからユーザーの耳にあったプロファイルを選択することが可能です。


Appleが提供する「空間オーディオ」は、「AirPods Pro」と「AirPods Max」に最適化されており、機器ごとに最適なサラウンドサウンドを体験できます。また、頭の動きのトラッキングにも対応しているため、頭を動かしても自然な音を楽しめるとのこと。SoundGuysは「空間オーディオのトラッキングシステムは、現在利用可能なシステムの中で最も高度です」と高く評価しています。また、音楽関連ソフトウェアメーカーのMedia Integrationが提供する仮想サラウンドサウンドシステム「Waves Nx」での頭の動きをトラッキングして自然な音響体験を得られるとSoundGuysは述べています。


Windows 10には、無料の仮想サラウンドシステム「Windows Sonic for Headphones」が用意されており、この機能への対応を明示していないコンテンツでも、立体的な音響を楽しむことが可能です。


最後に、SoundGuysは「複数の仮想サラウンドサウンドシステムを同時に動作させると、正しく動作しない可能性があります」と述べ、仮想サラウンドサウンドシステムを試す際は、1つずつ試すことを推奨しています。

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in ハードウェア, Posted by log1o_hf

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