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会社を辞めてマンガ・音楽・アプリなどをファンに売り生計を立てられるようにする「Gumroad」が「奇妙な方法」で運営される理由とは?


過去10年の間でクリエイターが生計を立てる方法は大きく変化しており、大手のレーベルや出版社に所属せずに音楽やマンガを売りだすことが可能になりました。このような「経済の構造が変化する兆し」にいち早く反応し、クリエイターが直接ファンにコンテンツを販売できるツールとして「Gumroad」は生み出されました。Gumroadは後発サービスよりも成長が遅かったのですが、それはGumroadのCEOであるSahil Lavingia氏が「人が会社を辞めて自由に生きていくためのツールを作るために、社員が週60時間働くのはおかしい」と考えたため。Gumroadがつらぬく信念と、「奇妙な方法」で運営されるGumroadの実態について、Lavingia氏がインタビューで語っています。

Exclusive interview: Why Sahil Lavingia is betting his company on the rise of the creator economy | The Business of Business
https://www.businessofbusiness.com/videos/sahil-lavingia-interview-rise-of-creator-economy/

2011年に設立されたGumroadは、クリエイターが音楽や漫画、アプリなどのコンテンツをフォロワーやファンに直接販売できるサービス。GIGAZINEでも2014年にレビューしています。

音楽・コミック・アプリなどのデジタルコンテンツをリンク1つで顧客に直接販売できる「Gumroad」はこうやって使うよレビュー - GIGAZINE


近年多くのスタートアップがベンチャーキャピタルの投資を得て成長し、規模が大きくなったところで大手に買収されるという道をたどっています。しかし、Lavingia氏は2011年に画像共有サービスのPinterestをやめてGumroadを設立してから10年の間、このようなスタートアップの定跡をたどりませんでした。これは、Gumroadが「クリエイターが会社をやめ、楽しみで作った作品を売って生計を立てられるようにする」ことを目標としていたのが理由。「大きくもうけるのではなく、楽しんで働き、ほどほどの収益を得る」ことをゴールとするGumroadが、「投資を得てがむしゃらに働き成功するベンチャー起業」のやり方を取るのは哲学に反すると、Lavingia氏が判断したためです。

以下の男性がLavingia氏。


このため、Gumroadの後に設立された類似サービスの「Substack」や「Patreon」が急成長したのに比べ、Gumroadの成長はゆっくりしたものでした。しかし、Lavingia氏は最終的にはGumroadのアプローチでうまくいくと考えています。

もともとLavingia氏は「自分の作ったアイコンを1000人いるTwitterのフォロワーに販売したい」と思っていたのですが、当時、ウェブサイトを持っていない人がSNSのフォロワーに自分の作ったものを売ることは困難でした。自分自身が「ファンに直接販売できるサービスが欲しい」と思っていたのが、Lavingia氏がGumroadを創設した理由の1つだったとのこと。


また、当時、クリエイターがどんどん力をつけ、「アーティストなどがレコードレーベルなどを通して作品を売る」という構造が変化する兆しがあったこともLavingia氏がGumroadにかけた理由。「クリエイターエコノミー」という言葉は2021年時点でこそ聞きなじみのあるものですが、それを言い出したのはLavingia氏とGumroadが最初だったそうです。

Lavingia氏が目指すのは「クリエイター優先」のサービスであり、「クリエイターを企業と同等に扱うこと」を信念としています。サブスクリプション型のメルマガをサポートするSubstackも「クリエイターが収益を上げる手段」を提供していますが、Lavingia氏は「Substack自身、自分がクリエイターエコノミーの一部だとは考えていないと思います」と語っています。両者の違いは、Substackが投資家から6500万ドル(約72億円)を集めているのに対し、Gumroadはユーザーやコミュニティから600万ドル(約6億6000万円)を調達したという点にも表れています。

またSubstackは「オールインワンソリューション」にフォーカスを当てて企業を拡大させようとしていますが、Gumroadは拡大を目的とせず、「手頃な値段で拡張可能な製品を提供すること」に集中していることも違いだとLavingia氏は述べました。実際に、Gumroadのやり方でも収益は出ているとのこと。


投資を得て100億ドル(約1兆1000億円)規模の会社を作ろうと思うとある程度の「先見の明」が必要になりますが、Gumroadは拡大を目的とせず「クリエイターがクリエイターのために作る、エゴの少ない、便利な製品」を作り続けているだけであるため、「先見の明」を必要としないともLavingia氏は語っています。

クリエイター向けのプラットフォームの中には「この製品を使えばあなたの売上が増加します。その代わり私たちは手数料として15%もらいます」といった具合に、ユーザーに便利なサービスを提供する代わりに利用料として売上の一部を手数料として徴収するものも存在します。記事作成時点ではGoogle PlayやApp Storeがこのようなサービスにあたりますが、「仲介人になりたいわけではない」というGumroadは、このようなプラットフォームとは立ち位置が異なります。もちろん、集客やオーディエンスの獲得を代理するプラットフォーム需要もありますが、クリエイターの中には「もうけたいわけでなく、使いやすい、シンプルな販売ツールが欲しい」と考えている人もいるとのこと。このような人々に向けてGumroadは作られているわけです。

Gumroadの成長速度がゆっくりであることから、Lavingia氏は「やり方を変えた方がいいのだろうか」と思うこともあるそうですが、その度に「クリエイターエコノミーは何百万ドルも稼ぐものではない」と自分に言い聞かせるとのこと。クリエイターエコノミーは「人々が会社を辞めて自分の好きなことで食べていく」ことを可能にするものであるのに、それを実現するまでの道のりが「多くの人を雇って週60時間働かせる」というものであるべきではないとLavingia氏は考えています。このためGumroadには会議のスケジュールもなければ締め切りもなく、寄付してくれる何百というクリエイターを雇い入れるという「奇妙な方法」で運営され続けているそうです。


Gumroadのやり方に対し「それでは勝てない」「いずれ死ぬ」と語る投資家もいますが、仮に「勝者」がいる場合、それは機能性や価格設定だけでは決まらないというのがLavingia氏の考え方。長期的にみれば、最終的にクリエイターは「自分の信念や考えと合うプラットフォームを選ぶ」はずだとして、Gumroadは独自のやり方を貫いています。

また近年は「消費者がクリエイターの支援に慣れてきた」という点が大きな変化としてあります。YouTube1つを取っても、10年前は広告収入でしかクリエイターを支援できなかったのが、2021年時点ではさまざまな方法で支援が可能です。また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で、オンラインサービスの需要が増加しました。

とは言ってもファンから収益を得るクリエイターになるには自分の技術を磨く必要があり、また「フォロワーが多いこと」と「金銭的に支援してくれる人がいること」は同義ではないため、まだまだコンテンツを収益化することは簡単ではありません。

この点、Gumroadは「多くの人に知ってもらう手助けをする代わりに手数料を取る」というスタイルを取らないので、オーディエンスの獲得は、クリエイター自身が行う必要があります。このため、「レーベルと契約し、誰かに正しい方法でPRをやってもらいたい」と考えているアーティストはGumroadに向きません。

もともとLavingia氏はPinterestで朝9時から17時まで働き、「誰かのために仕事をするなんてあり得ない」と考えて退職し、会社を設立した人物。Lavingia氏の考え方が強く反映されているため、Gumroadは「クリエイターが自分一人で自立を可能にするツール」という位置付けです。しかし、自分の友人がGumroadを使って独立しない様子を見て、「どんなに自立を簡単にするツールがあっても、認知的負担があれば、それを使わない人も多い」ともLavingia氏は考えています。

一方で、アメリカでMedicare For Allと呼ばれる新しい国民健康保険ができようとしていること、またGoogle PlayやApp Storeのような多額の手数料を取るアプリストアを規制する法律ができようとしていることが、Gumroadの大きな追い風となる可能性もあるとも、Lavingia氏は述べました。

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in ネットサービス,   マンガ, Posted by darkhorse_log

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