インタビュー

クリエイターとファンの未来の姿は?クラウドファンディングで好きなことをメシの種にできるのか?などをプロギタリスト村治奏一に思い切って聞いてみました


これがギター1本でメシを食ってきた男の生き様、プロギタリスト・村治奏一にインタビュー」ということでインタビューしてから約4年、GIGAZINEのヘビー読者でもあるため、Kickstarterをはじめとするクラウドファンディングの記事を読んで影響を受け、ついにネット上で出資を募って資金を集め、「対話」をコンセプトにしたCDを出すに至るまでの過程、そして「好きなことをしてご飯を食べていく」ためにはインターネット・ITなどをどのように活用していくのがよいのか、そのあたりをいろいろとインタビューしてみました。

村治奏一 公式サイト | Soichi Muraji Official Site
http://officemuraji.com/soichimuraji/

2014年1月末日、約4年ぶりにGIGAZINE編集部を訪れた村治奏一さん。


村治さんの演奏は以下のムービーで視聴することができます。まずは現在クラウドファンディングで企画されているCDから、ハロルド・アーレン作曲の「オーバー・ザ・レインボー」。映画「オズの魔法使い」で使われた曲です。

プロギタリスト村治奏一による「オーバー・ザ・レインボー」 - YouTube


映画「黒いオルフェ」のテーマ曲「フェリシダーヂ」は以下から。

プロギタリスト村治奏一による「フェリシダーヂ」 - YouTube


GIGAZINE(以下、G):
それではよろしくお願いします。とりあえず順番に話していくのですが、まずお聞きしたいのがクラウドファンディングで出資を募っている「SPARKS(スパークス)」というプロジェクトについてです。これってソロアルバムなんですよね。

クラシックギタリスト村治奏一、アルバム『SPARKS』制作プロジェクト | GREEN FUNDING Lab
https://greenfunding.jp/lab/projects/667


村治奏一(以下、村治):
これは、そうです、ソロアルバムです。

G:
パーカッションもなしの……。

村治:
どソロですね。孤独に弾きます(笑)


G:
なるほど(笑) Twitterには3月にアルバムが出ると書いてあったので「来年(2015年)の3月か」と思っていたのですが、クラウドファンディングを行っているウェブページに「締め切りまであと何日」と書かれていて、よく見たら2015年ではなく2014年発売だったので、「3月に間に合うのか!?」と思ってしまったんですが、収録は2月に行われるんですね。

村治:
そうなんですよ。来月の2月10日から3日間。本来はいろいろ決めてから作るんですけど、今回は色んなことが急に決まったので。

G:
そうだったんですか。最初は2014年の「14」の部分を「15」と思い込んでいて、「いやぁ……すごく時間がかかるんだなぁ、1年以上先じゃないか!」と思っていたのですが、よく見たら2014年だったという。爆速ですね。

村治:
1ヶ月っていう(笑)

G:
今回の「SPARKS」という名前自体は1曲目の曲名から取っているんですよね。

村治:
はい、そうなんですよ。この曲の作曲をした藤倉大さんは僕と同年代で30代ぐらいなんですが、日本を代表する若手作曲家の1人です。この「SPARKS」という曲は彼が最初に書いたクラシックギターの曲なんですけど、聞いていただいて分かったと思うんですが曲の長さが1分くらいしかないんですよ。

G:
1分半くらいしかありませんでしたね。

村治:
そうそう。これは実際に聴いてもらった方が分かると思うんですけど、クラシックギターの特殊奏法でハーモニクス奏法というのがあるんです。ではこれをちょっと弾かせてもらって……。


実音は普通にこういう音なんですけど、弦のちょうど真ん中の所を軽く押さえると、こういう音になるんですよ。これをハーモニクス奏法って言うんですけど、ほとんどこの奏法だけで書かれたすごく珍しい曲なんです。

ちょっと専門的な話になっちゃうんですけど、音って鳴らすと、まず基となる音「基音」が鳴って、そこに「倍音」がどんどん付いてくるんですね。この倍音によって音色、音の色が変わるんですが、ハーモニクス奏法というのは基音を鳴らさないで倍音だけを鳴らすんですよ。

G:
そうすると、何がどうなるんですか?

村治:
どう……なるんだろうな(笑)

G:
倍音だけ鳴らすっていうのは。

村治:
まず音がすごく純粋になって、それから、例えば実音だと鳴ってから減衰していくまでにすごく長い時間がかかるんですけど、何と言うのかな……基となる音がないので、最初に「パーン!」と弾けて、その後、波形的には一瞬で小さくなってしまうわけです。


G:
おおー。

村治:
何が言いたいかっていうと、この曲は1分間の中でたくさんの音が書かれているんですけど、それを全部実音で弾くと、「音が消える前に次の音が鳴っていく」という感じで音が混ざっちゃうんですよ。でもそれが全部ハーモニクス奏法なので、一瞬一瞬、こう、音が混ざらないというか。

G:
上手にずれていく感じで鳴るんですね。

村治:
そうです。だからいろいろなカラーが凝縮されてるんだけど、それがちゃんと混ざらずに残ってるというか、そういう特徴があります。

G:
藤倉さんはそういう作曲の仕方で作っていらっしゃる、と。

村治:
多分そういうところを意識されているんですね。「SPARKS」には火花という意味がありますが、まさにそういう感じで。

◆CDのデザインに対するこだわりについて

G:
録音自体は2014年2月、要するに来月にLDK STUDIOSでする予定です、と書いてあったんですけれども、村治さんの場合は普段どういう感じでレコーディングを進めていくんですか。

村治:
基本的には、ベースになるテイクが録れるまで何度も録って、あと、どうしてもびりついたりとか、そういうところが出てくるじゃないですか。

G:
びりつく、というのは?

村治:
なんて言うかな、ちょっと押し損じてしまって音がぼやけちゃったりとかそういう、ミスではないノイズみたいなものを編集で取り除いていくという作業をするんです。

G:
だいたいどれくらい時間がかかるんですか。

村治:
3日かけて朝から晩まで弾いて録って、後でエンジニアの人にミスやノイズを取り除いてもらってから、もう一回聴きます。だから合計で5日くらいですかね。

G:
ノイズ取り除いた後で聴く作業は村治さんがやるという感じになっていくんですね。

村治:
そうです、最終チェックはそこでしますね。

G:
それに対し最終的に村治さんが「Go!」と言ったらそれで決まる感じなんですか。

村治:
そうですね。

G:
なるほど。今回のアルバムはデザインを凝りたい、みたいなことをいろいろと書かれていましたが、デザインに関して、凝らない人は全然凝らないと聞きます。「凝りたい」と思った理由は何ですか。

村治:
それもね、今回クラウドファンディングを始めたきっかけにつながるんですけど、やっぱり今は全然CDが売れない時代じゃないですか。

G:
ええ。

村治:
それで何が削られていくかというと、デザインが最初に削られちゃうんですよね。

今回作る時も、やっぱりデザイン費までは前回のように出せないだろう、ということになりました。でもやっぱり音楽って物じゃないので、そぎ落としていけば結局行き着くところはMP3形式のデータとかなんですよね。


G:
いろいろそぎ落とされまくる、と。

村治:
最終的にはYouTubeになって、音質までそぎ落とされちゃうという(笑)

G:
「聞こえればいい」というぐらいの、AMラジオの音質ぐらいまで落とされちゃうわけですよね。

村治:
でもせっかくお金を出して買ってもらうわけだから、実はこんな価値があるんですよ、ということを訴えたくて。そのためにはやっぱり付加価値をつけていくしかなくて、そうなった時にデザインはすごく大事になってくるので、そのデザイン費を今回、クラウドファンディングでまかないたいというのもありましたね。

G:
そのアルバム自体の、全体の世界観みたいな感じですかね。

村治:
世界観、ですか。

G:
作曲順や完成順ではなく、「この順番で聴くと1つの作品になる」ように作ってあって、さらにパッケージまで含めてこういうデザインにしてある、という舞台裏をライナーノーツの中に書いてあったサウンドトラックを過去に見たことがあるんです。要するに音だけじゃなくてあらゆるものをすべてまとめて1個の作品として聴いてもらえるように作った、と書いてあって、そこまでこだわるのか、すごいなぁ、と。

村治:
曲順なんかはiTunesだと変えられてしまうじゃないですか。でもCDはもう決まっているから、その曲順とかプログラムもアーティストの言いたいことの1つなんですよね。今回のことに関して言えば、クラウドファンディングにしても、今回のそのCDにしてもやっぱり対話が1つのキーワードになっているので、川村真司さんというデザイナーの人にお願いしているんですけど、彼がまたね、本当に作品の1つ1つがインタラクティブなんですね。例えば、「RAINBOW IN YOUR HAND」という本なんですけど……。

G:
虹がばぁーっと描いてあるやつですよね。

Rainbow in your hand - YouTube


村治:
そうそう。こういう風にばーって。これは結構初期の方なので、最近また変わってきているんですけど。

G:
それ海外ですごく話題になった本ですね。

村治:
そうです。あとね、これもわりと代表的な、まさにインタラクティブな、「日々の音色」という作品なんですけど。

SOUR '日々の音色 (Hibi no neiro)' - YouTube


村治:
これも結局リスナーがSkypeの画面を使って、みんなで1つの作品を作ってて、これに川村さんが出てるんです。ちらっと僕も出てるんですよ(笑)

G:
そうだったんですか!

村治:
実は(笑)

G:
ひそかに出ている、と。

村治:
ひそかに出てますね。手作りならではのちょっとした揺らぎとか、ずれとか、そういうのをすごく大事にしてる方です。

前から川村さんの、「インターネットを駆使するんだけど手作り感とかアナログさをすごく大事にしている」所がすごい好きで、なおかつ今回のコンセプトであるインタラクティブという点でも合うので、お願いしてみたらすごく共感してくれました。今回は一応彼がディレクターなんですけど、彼が連れてきてくれた彼の友人のラファエル・ローゼンダール(Rafael Rozendaal)さんの作品を表紙に使おうということになって、これがその彼の展覧会のやつかな。レンチキュラーという、よく子供のおもちゃとか下敷きにもよくあるんですけど……。

Lenticular Paintings by Rafaël Rozendaal - YouTube


G:
こういうのってムービーを撮影すると一体何が何なんだかよく分からないけど、実物を見ると「ああー!こういうものなんだ!」と納得するタイプですよね。なぜこんなことになるのかというと、PCの色数が現実の色数に全然追いついていないからなんですけど、こういう作品はネットで見るときにすごく不利になってしまうんです。

分かりやすい例で言うと、よく考えるとPCではホンモノの「金」と「銀」の色が出にくいでしょう。

村治:
ああ、確かにそうですね。

G:
あとは、ホログラムとかホログラフィー

村治:
絶対無理ですね。

G:
よくクレジットカードとかについていますよね。金色・銀色やホログラムがPCで再現しにくいのはなぜかというと、それはまだ技術がそこに至っていないからです。

4Kとか8Kとかの辺りの画質になってようやくそれに近づくのかなみたいな感じで。要するに、今しているのは解像度を上げることだけではないんですよね。色の数が増えるというのが一体何を意味しているのかというと、モニターが本物の窓のように見える感じですね。

村治:
なんか、こういうオフィスで、窓のつもりなのに実は4Kのテレビがあって隕石が落ちてくるみたいな……。

G:
隕石がビューってなって面接を受けていた人がわぁーって逃げるという(笑)

村治:
GIGAZINEに載っていましたよね。

G:
まさにあれですよ。本当の風景と見間違えるみたいな。そういう風になると、今回の作品を見たときに「ああ、こんなのなんだ!」と分かるようになるはずなんです。ただ技術がまだその辺り追いついてないんですよね。

だから技術がもう少し発展したら、村治さんの思うところももっと伝わりやすくなるんだと思います。やろうとしてることはそぎ落とすの逆ですね。落ちていたのをもっと足していくというか。極端な話、さっきのお話でもあったような、ギターを弾くときのノイズも人は拾えるんだけれども、脳がそれをカットというか、聞こえているけど認識しないようにしている、けれども実際にはちゃんと生で聴いている人間には聞こえているわけです。

村治:
それは、すごいですね。

G:
だからライブで見に行った時に感動する理由はそっちなんですよね。

村治:
おもしろいな。見えないところで差が出るとかってよくあるじゃないですか。結局それもそういうことですよね。今はまだ検出できないだけ、「検出できていない」ということが解明されていないだけで、実は違うところで検出してるっていう。


G:
可聴域といっても個々人に差があるので、調べないと分からないですもんね、検査ですごい高音が聞こえる人もいるし、すごい低音まで聞こえる人もいるわけで。色だって男性より女性の方が1色分多く見えているというケースがあって、総合計するとものすごい数が見えているというのが分かっていたりするので。おそらく音を聞いたときも自分の好みの音というのがある理由はそれだと言われていますね。

村治:
なるほどね。

G:
他の人には聞こえていなくても、その人には良いようにちゃんと聞こえるようになってると。特にそういうのがあるんだと思いますね。

村治:
少し話が変わってしまうかもしれないですけど、ある実験で、完全に目隠しをした状態で全て真っ赤な部屋に入れた時と、全て青い部屋に入れた時で、しばらく経つと人間の体温が赤い部屋は微妙に上がる、というものがあります。皮膚を通しても色を見てるわけですよ。CDやMP3が出たときに鼓膜が振動しないところをカットしていますが、音というのは骨伝導とか、あるいは内臓を通しても、もしかしたら聞いているかもしれない。そういうものまで全部カットしている状態だから、もったいないですよね。

◆曲順について

G:
話は変わりますが、今回クラウドファンディングのウェブページでリストされていた曲はどのような基準で選択されたんですか?

村治:
それはですね……

G:
ずいぶん答えにくい質問をしているような気がするんですけれども(笑)

村治:
いやいやいや、それはじゃあ後半に、みたいな感じで(笑)これは、以前作った「玉響/TAMAYURA」というCDとリンクしてるんですよ。

G:
というと?

村治:
コラージュ・デ・アランフェス」という今回出したCDともリンクしてるんですけど……。


G:
1月22日に出たやつですね。

村治:
そうです。だからむしろ、こっちを先に話させてもらった方がいいかもしれない。「コラージュ・デ・アランフェス」はアランフエス協奏曲を収録しているんですけど……。

G:
有名な曲ですよね。僕も最初タイトルを見て「見たことがあるな」と思ったら、中学校の頃にギターの授業で一番最初に聞いた曲でした。

村治:
出ますよね。

G:
それまでは、こういう、ギターをメインにしたような曲を聞いたことがなかったので。

村治:
そう、そうなんですよ。これはもう本当にクラシックギターを弾く人の登竜門というか、本当にみんなこれを目指してる感じですね。でも、この曲を軸にしてカップリングの曲も決めるというよりかは、もっと違う切り口でアランフェスを見たかった、というのがあります。2007年に初めて、アランフェス協奏曲のもととなったアランフェス宮殿に行ってきたんですよ。

by Javier Martin Espartosa

村治:
あそこは確か二十数個のいろいろな部屋が宮殿の中にあって、どの部屋も全然個性が違うんですよね。すごく庶民的な部屋もあれば、当然王宮的な、王族的なきらびやかな部屋があったり、あるいは唐草模様がたくさん使われていて東洋的な部屋があったりして、1個1個全く違う個性が共存してるなという風に感じました。アランフェス宮殿が建てられたのが16世紀から18世紀っていう、結構長い時間をかけて作っているんですけど、その頃はスペインに世界のいろいろな文化がちょうど集まっている時期で、すごく貴族と民衆の垣根も低かった時代だったらしいんですよね。


村治:
作曲家のホアキン・ロドリーゴさん自身も、いろいろなものが混沌として集まっていたそのスペイン当時を描きたかったという風に言っているんですよ。

これが今回のプログラムの1つのもとになっています。それぞれの楽章もすごく個性が違うし、1曲の中でもいろいろなメロディーが当然弾かれるんですけど、すごく気品に満ちたメロディーがあったかと思えば、すぐ隣にはもっと親しみやすいメロディーがあったり。タイル上にいろいろなカラーの音が並んでいる楽曲だなという風に思うんですよね。

G:
要するに、いろんな部屋があるその建物とシンクロしてる感じなんですね。

村治:
まさにロドリーゴさんも、いろいろな文化が混ざっていたというところを表現したかったとおっしゃっているので、それが1つ。文化をミックスするのではなくて、それぞれ違いを認め合って共存してるという、その共存というか。コラージュという技法もそうじゃないですか。全く違うものをミックスではなくて並べることによって1つの大きな1枚を作る。

また、コラージュ・デ・アランフェスに入っている「北の帆船」は作曲家の林光さんという方のギター協奏曲なのですが、これも、まさに日本がいろいろな文化や人種を受け入れてきて今の形になったというところを意識して書かれていて、例えば、1楽章では沖縄の琉球に古くから伝わる子守歌が最初の8小節ぐらい流れるんですよ。ギターの音で。その後だんだん話が膨らんでいくんですけど、2楽章になると今度は北に行きます。アイヌ地方に伝わる独特の音階があって、普通音階ってドレミファソラシだから7音で構成されているんだけど、アイヌの方ではラドミだけの3音で。


G:
すごく少ないですね。

村治:
そのすごく少ないたった3音だけを使った歌があって、林さんもこの2楽章ではそれをモチーフにして書かれているんです。3楽章になると今度は、面白いことに林先生のオリジナルのメロディーが出てきます。最初、冒頭が3音から始まるので、そういう意味では2楽章のアイヌから来ているんですけど、その後に続く音は今度は沖縄の琉球のメロディー、ドミファソシドかな。沖縄の独特な音階があるんですけど、それがミックスされている楽章になっているんです。そういう形で、北から南まで、日本の中にあるさまざまなメロディーが盛り込まれている、共存しているという楽曲なんですよね。

「北の帆船」の次に録音した武満徹さんのギター協奏曲《夢の縁へ》も共存を意識して選んでます。武満徹さんがラジオでしゃべられた音声がインターネットに残っていて、「今の時代というのは本当に簡単に国境を越えて情報がバッと広がっていくけれども、歌だけは千差万別の方が良い」という風におっしゃっていたんです。普通、協奏曲にはオーケストラとギターの絡みなど、一緒に演奏するようなところがいっぱいあるんですけど、この曲が面白いのは、協奏曲なのにギターパートとオーケストラパートが分断されているんですよ。だからオーケストラがまず弾いて、ギターがソロ。たまに一瞬重なったりするんですけど、ほとんど行ったり来たりというか、「ギター」→「オーケストラ」→「ギター」→「オーケストラ」みたいな感じです。それは何をしているかというと、ギターとオーケストラを分けて、つまりミックスではなくて違いをあえて見せているんですね。

G:
なるほど。

村治:
オーケストラが奏でるメロディーもギターが奏でるメロディーも1つ1つのフレーズがとても美しいんですけど、分断されてるような書き方をされています。だからフレーズも細分化されているし、構造的に見ても分断化されていて、それをまさにコラージュのように1つの美しい作品に仕上げているという。

だから、そういう意味で、文化の共存というものをいろいろな形で示した作曲家の曲が今回は入っているんですよね。

G:
自分の曲だから当たり前といえば当たり前なのかもしれないですけれども、すごいですね。村治さんは音楽評論家になれそうですね(笑)

村治:
とんでもないです(笑)少し専門的ですが、「夢の縁へ」の最後のところもすごく面白くて、今言ったようにオーケストラ・ギター・オーケストラ・ギターと交互に出てきた演奏が最後は一緒になります。でもその一緒になるというのも、一緒にアンサンブルをしてミックスされるのではなくて、最後は和音が延々と続くんですよね。

G:
ほう。

村治:
つまり、和音って一列、縦じゃないですか。その中にギターの音が入っていたりヴァイオリンの音が入っていたりするんですけど、ギターはシの音しか弾かないんですよ、ドレミファソラシで言ったら7音目の音なんですけど。つまり「シ=人間の死」という。僕の勝手な想像なんですけど、このタイトルは「夢の中」ではなくて、「夢の縁へ」じゃないですか。

G:
変わった名前ですよね。

村治:
縁ということは、つまり覚醒に向かっていると。夢って、なんて言うのかな、その瞬間瞬間の場面にはストーリーがあるじゃないですか。でもつなげて見た時に全然つながっていない。そのあり方って、さっき言ったみたいにフレーズは美しいんだけど1つ1つがすごくばらばらというか、そのあり方とすごく似てるなぁ、と思っていて、それが最後のシの音、何度も何度もシの音を弾くということで終演や終幕……夢の終わりに向かっている、そういう構造で書かれているんじゃないかなと思うんです。


G:
今のお話はそれだけで本が書けそうですね。

村治:
話を少し戻しますね。今回は、いろいろな文化の共存というものを示したんですけれども、他の楽器もそうかもしれないけれど、やっぱりクラシックギターそのものが、これまでいろいろな時代や文化・ジャンルの中で形を変えてきたというか、文化を受け入れながら進化してきた楽器だと思うんですよね。たとえばフラメンコギターがあったりとか、エレキギターがあったりとかいろいろな形があるわけです。だから先ほど、林光さんがいろいろな文化や人種を受け入れてきた日本ということを考えた曲と言いましたが、クラシックギターもこれまでにいろいろなものを吸収してきて、受け入れてきた楽器だなというのがあるから、ソロの方ではさまざまな時代や文化の共存というか、そういうところにフォーカスを当てていますね。

G:
そうやってつながってきたものが、この「SPARKS」のところまで来るわけなんですね。

村治:
あと、先ほど「玉響」と「SPARKS」にも繋がりがあるという風に言ってたんですけど、何が繋がりかというと、玉響も映画音楽や現代音楽・バッハ・ピアソラのタンゴなど、ジャンルはバラバラなんですけど、玉響とSPARKSはそれぞれ対応する形のプログラムになっています。たとえばバッハはリュートのための曲をいくつか書いているんですけど、組曲以外のリュートは、SPARKSに入った2つ、「プレリュード BWV999」と「フーガ BWV1000」なんですよね。

J.S.Bach - "Lute Works" - 'Fuge in g minor' BWV 1000 - YouTube


J.S.Bach - "Lute works" - 'Prelude in c minor' BWV 999 - YouTube


これが1つの対比になっていて、それから「玉響」は西村朗さんが2010年に書いた曲なんですけど、この曲はハーモニクスとかトレモロというギターの持っている独特な音の美しさそのものに焦点を当てた作品だと思うんですよ。「SPARKS」もまさにそのギターの持っているハーモニクスという独特な音に焦点を絞っていて、そういう意味ではすごくアプローチの仕方が似てるなぁと思って、1つタイトルとして選びました。

村治奏一『玉響/TAMAYURA』PV.01 - YouTube


あと「亡き王女のためのパヴァーヌ」という曲は聴いていただいたら分かると思うんですけど、ラヴェルが作曲したすごい有名な曲で、これの対比ということでラヴェルの先生であったガブリエル・フォーレ、ラヴェルが影響を受けたフランソワ・クープラン、親交のあったマヌエル・デ・ファリャの楽曲を選んでいます。なんとなくその3つを見るとラヴェルの影が少し感じられるようなそういう形になってますね。

G:
関連づけで。

村治:
そうですね、ピアソラは玉響で「ブエノスアイレスの秋」「ブエノスアイレスの冬」を使ったので、今回は春と夏を。

※ブエノスアイレスの春は以下のムービーの冒頭から5分10秒まで、ブエノスアイレスの夏は5分14秒から14分36秒までで聞くことができます。

Astor Piazzolla - Las cuatro estaciones porteñas (Compilado) - YouTube


G:
これは非常に分かりやすいですね。

村治:
玉響に入っている「フェリシダーヂ」がボサノバで、同じボサノバ繋がりが「トリステーザ」です。内容的には「フェリシダーヂ」が幸せという意味なんですけど、この歌詞は「幸せには終わりがあるけれども悲しみには終わりがない」という結構重いものなんですよ。逆にこっちの「トリステーザ」は「Goodbye Sadness」という副題が付いているように、その逆というか、幸せに対する喜びを歌った曲なんですね。この2つは編曲なんですが、その編曲のアプローチの仕方というのも似ていて、いろいろなカラーの和音を詰め込んで聞かせるというよりかは、シンプルな和音を使っているんですけど、違う和音に移るときの移り方がすごくドラマチックなんですよ。あと、リズムにすごく焦点を当てているというアプローチの仕方も近いな、ということで、今回は入れていますね。そういう意味で2つのCD間でも対話を感じられる作品です。

※トリステーザは以下のムービーから聴くことができます。

Baden Powell - tristeza - YouTube


G:
CDに入っている楽曲はMP3ファイル単体でダウンロードできるじゃないですか。それでAmazonの方の売れ行きランキングで見てみると「玉響」の先ほど言っていた「フェリシダーヂ」はアルバムの中では1位なんですよね。

村治:
あ、そういうの分かるんですか。

G:
ええ。それで2位が「ブエノスアイレスの秋」で3位が「プレリュード」という風になっていたんですけれども、今言った3曲がトップ3になっていることについて、「やっぱりその辺りがファンの人が求めている曲なのかな」みたいな感触ってあるんですか。

村治:
あるかもしれないですね。そんな情報が見られるとは知らなかったので、それを僕は勉強しなきゃダメですね。

G:
見れます見れます。締めの曲が1位にバーンと来てるということは、よほど単体でいける曲なのだな、と。「すごいなあ」と思いました。

村治:
そうかあ。

G:
話は変わりますが、過去のブログで中野ギター実験器No.4について、「まだ塗装の工程が終っていないので、この4号器の完成時の”鳴り”は厳密にはまだ未知数なのですが、試奏会の時点では、”楽器とのコミュニケーションのし易さ”という点でこれまで見たこともない様なクオリティに仕上げられていました。未だかつて聴いたこともないようなギターのサウンド体験を、聴き手にも、弾き手にも与えてくれる、そんな可能性を秘めた実験器No.4でした」とあったのですが、弾き手が感じる音の差というのはどういうものなんですか?

村治:
それはね、いろいろあるんですけど、1個1個言っていくと、たとえばやっぱりギターって和声楽器なのでメロディーと中声部と、それからベースライン、全部を1つの楽器で弾けるわけじゃないですか。そうなった時にやはり、例えばベースは図太い音があったりとか、すごく深い鳴りがすること、音量もあるということが大事なんですけど、逆にメロディーラインを担当するところがどういう形で目立っているか、というのがすごく大事なんですよね。つまり、弾いた時にトータルとしてすごく音量があっても、バランスの上でベースの方が高音以上に出てしまうとすごく弾きにくいんですよね。

G:
はい。

村治:
逆に音量が全然無かったり音色がそんなに豊かではなくても、高音がすごく飛んでいくようなバランスのギターだとすごく弾きやすいというのがあるんです。

鳴りとか馬力、馬力と言ったら変ですけど、音の鳴りや音量よりも、音がどれだけ弾いた瞬間に飛んでいくか、ということがすごく大事です。逆に音が飛んでいかないというのは……「音がこもる」という表現をよく使うんですけど、音量があっても”こもる”音があれば、音量がすごく小さくてもすごく飛んでいく感じの音もあるんですよ。そういうところで聴きますね。


G:
相当な違いがあるんですね。あと、「ヘルマン・ハウザーII世(1959年製)とイグナシオ・フレタ・エ・イーホス(1998年製)をリハで鳴らした」と書いてあったんですけど、これらを選んだ理由というのは今言ったようなところが関係しているんですか。

村治:
今日持ってきたのはイグナシオ・フレタ・エ・イーホスの方なんですけど、これは一番最初の話に戻るんですが、音を鳴らしたときに鳴る倍音がものすごく豊かなんですよね。なんて言ったらいいのかな、音量がそんなにあるわけではないんですけど、1音1音にすごく味があるんですね。ヘルマン・ハウザーの方は倍音がすごく鳴るんですよ。鳴るんですけど、種類が少ないんですよね。

G:
鳴るけれども少ない。

村治:
それがどういうことかというと、少ない倍音でたくさん響きが鳴るということは、すごく図太い音が鳴るんですよ。

フレタみたいに、1つ1つの倍音はそんなに鳴っていないんだけど、たくさんの種類の倍音が鳴るということは、それだけ深みがある、味わいのある音になるんですよ。だからそこで使い分けができて、例えばマイクも一切使わないで響きの良いホールで聴いていただくという時は生音そのものが美しいのでフレタを使います。逆に、ものすごく大きなホールでマイクを通して使う時はマイクが拾える倍音、拾いやすい倍音というのがあって、フレタを使うとそれ以外の倍音もたくさん鳴るので音が変わってしまうんですよね。

G:
なるほど……。

村治:
ハウザーという楽器はその中に収まるところがものすごくよく鳴る、という感じかなと思います。だから、マイクとの相性がいいんですよね。

G:
複数のいろいろなギターを使い分けているように見えていたので、一体何の基準で使い分けてるのだろう?と思っていたのですが、そういう話なんですね。

村治:
あとは、先ほど言ったんですけど、すごく低音と高音の役割がしっかりしている楽器なんかは、例えばピアソラの曲がそうなんですけど、ちゃんとメロディーがあってそれを支える中声部とベースがしっかり書かれている曲とかは弾きやすいですよね。でもバッハの場合は、簡単に言えばメロディー・中声部・ベースとあるんですけど、全部が主役なんですよ。

G:
そうなんですか。

村治:
どこかが脇役とかじゃなくて全ての旋律が大事で、そうなってくると、ハウザーの方は高音・中音・低音で全てが均等に鳴るんですよね。だから全てを均等に弾かないといけないようなものに関しては相性が良いんですよ。そういうことで使い分けたりもします。

G:
今回のレコーディングもそういう風にして使い分けたりとかするんですか。
村治:
なるべく1つのレコーディングであまりカラーを変えたくないとは思っているんですよね。今回はマイクを使うので、ヘルマン・ハウザーでいくかなと思います。


G:
端から見てたら「なぜそんなカメラ使い分けてるの?」と思うのと似たような感じですね。

村治:
そうですよね。

G:
さすがにこの近距離で大きいカメラ構えてガシャガシャしてたら撮られる人も緊張してしまう(笑)

村治:
確かに。まさにそうです。

G:
聞いてる途中で納得できました。それと、当たり前ですが、話を聞いているとつくづく「プロ」ですね(笑)

村治:
いえいえ(笑)と言いつつ気分で変えてます……違うか。

◆これまでの活動について

G:
次に、前回のインタビューから今回に至るまでだいたい3年以上経っているので、あのあと、どのような活動をしていたのかということについてお聞きしたいと思います。

村治:
かなりさかのぼった話になってしまうんですけど、僕の父親はギターを弾いていて、家族みんなもギターを弾いていているような家庭で僕は育ってきました。父親はギターの教室もやっていたので学校から帰ってくれば、もうずーっと寝るまで生徒さんが弾いているみたいな、そういうギターだけの世界です。それで、1999年の高2の時に留学をしてボストンの芸術総合学校に入ったんですけど、そこでクラシックギターをするのは僕しかいなくて。

G:
そうなんですか。

村治:
そうなんです。前にギターが入ったのは7年前だとかそういうレベルで。

G:
そういえば前回もそのことを言っていましたね。

村治:
言っていましたっけ(笑)それで、全く違う世界に行ったら音楽の中だけでも、いろんな楽器の人がいて作曲家がいて、デザイン系の学科の人や演劇・クラシックバレエとか、そういうものがあって、その中で、やっぱりギター以外の世界もたくさん見たいなという思いがあって、ニューヨークにあるマンハッタン音楽学校に進学したんですよ。でもその年から学校に行きながらVictorレーベルでCDを出し始めたんです。冬休みを使って次のレコーディングのプログラムをがーっと探して春休みでがっとレコーディングをして、夏休みに帰ってきて日本でプロモーションと演奏会をして、それで9月にまた学校に戻るみたいな。ニューヨークにせっかく来たのに何してるんだろう?みたいな感じでした(笑)


G:
ぎゅうぎゅうなんですね(笑)

村治:
そこですごくレパートリーが増えたし、CDをその間に6枚も出す実績を作れたし、その後の展開につながっていくので大事だったんですけど。マンハッタン音楽院を卒業するまでは毎年そういう感じで作っていきました。

G:
卒業には論文やテストのようなものがあったりするんですか。

村治:
実技です。演奏会をするんですけど、それが論文にあたるようなものなんですかね。それを企画するんです。演奏会には先生が聴きに来て、ちゃんとした演奏をしているかどうかを見るという審査があるんです。ぼろぼろだったら「ダメですよ」みたいな(笑)

僕は幸いそのとき既に日本でCDを出して演奏会をしていたので、その実績を提出すれば「まあ、いいだろう」ということになりました。

G:
それで卒業して、どうなったんですか。

村治:
それで2008年からだいたい4年間くらいになるのかな、ニューヨークって日本人が6万人くらいいるんですけど……

G:
そんなにいるんですか?

村治:
ニューヨークはよく世田谷区と同じくらいの面積とかって言われるんですけど、その中に6万人います。ロサンゼルスも5万人から6万人いるので、毎年アメリカの中で一番日本人が多い場所として競い合っているぐらいなんですよ。なので、日本から日本の文化を紹介しに来るような方がたくさんいて、演劇だったりお茶だったりとか。これ前の時に話しましたっけ?

G:
その話は初耳です、前回は卒業のところまでだったので。

村治:
それで、面白いのは日本からそういう文化を紹介しに来る人は、その後に演奏会とかパフォーマンスをするんですよ。だから日本にいる以上に日本の文化を学んだり見に行く機会もすごくあって、その関係で日本のそういう文化に触れられたりとか、あとは、音楽とは全く関係ない、広告デザインとかインターネットデザイン関係の、それこそ川村真司さんとかに出会ったり、音楽に直結はしないけど関係があるような世界を見させてもらいました。そういう中で、ワシントンDCに在住し、若手のアーティストとサイエンティストに積極的に支援をしてくださるご夫妻がいたんですよ。


G:
なんかすごいですね、アーティストとサイエンティスト(笑)

村治:
そうなんですよ。

G:
両極ですね。

村治:
でも彼らには、その2つは同じだという考えがあって。4年間の最後の2年間ぐらいは彼らと一緒に過ごしました。ニューヨークにあるアパートの1室を改装してサロンコンサートができるような、50人くらいお客さんが入れるような会場に作り替えるというプロジェクトのリーダーを任されたり。そこでは実際に壁の色を考えたりとか、座り心地が良くてコストもそこまでかからないイスを探しに行ったりとかしてましたね。

G:
おもしろいですね。

村治:
そうなんですよ、実際に完成した時にはそこで何度も演奏させてもらいました。その延長線上でS&R Foundationという彼らの財団がVillaSu Musicという音楽の会社を立ち上げたので、そこで1枚CDを作るということをしてみたんですよね。

やっぱり大手で作るというのは、仕方ないんですが、「分数が50分以上あった方が良い」とか、「デザインに関して自分ばかりが強く言えない」という制限があったんですけど、ここで作ったCDは3曲しか入ってないですし、絵とかも全部自分で作らせてもらいました。「それをするとどれぐらいコストがかかるのか」とか、「どれぐらい時間がかかるのか」とか、そういう全く知らなかったところも見させてもらいました。そういうものを経て、2作目のアルバム「玉響/TAMAYURA」を出して、2012年の春にワシントンのジョン・F・ケネディ・センターというところで演奏会を行った後、日本に帰ってきて、今は拠点を日本に移しているとそういう形ですね。

◆音楽とITとの関係について

G:
なるほど。話は変わるのですが、村治さんはブログを更新されていたり、クラウドファンディングをされたりと、ITに関しても極まっている印象があって。

村治:
そうですか(笑)

G:
そういう立場からしてみて今のIT……インフォメーションテクノロジーというよりも、この場合のITはどちらかというとインターネットテクノロジーですね。4年前と比べるとかなりの進化がありましたが、音楽との関わりにおいて、どんな風にデジタルの変化を感じましたか?例えば、「こういうような変化が音楽であったな」というような。クラウドファンディングはその象徴のような気がするんですけれども、それ以外でも何かデジタル系のもので、これは結構大きい影響でしたよ、というものはありましたか。

村治:
単純に言ったらもうFacebookとか各種SNSというのは、まさにそうですよね。


G:
変わりましたか。

村治:
変わりましたね、お客さんとの関わり方はもちろんなんですけど、同業者の中でも、今はほとんどFacebookのやりとりというか、「初めまして」というような交流もあったりします。この前も自分のFacebookでプロジェクトの宣伝をしたら、あるオーケストラを代表するコンサートマスターからコメントをいただいて、そこでつながったりとか。

G:
なるほど。

村治:
やっぱりあれですよね。どんどんインターネットが進化していくおかげで、聴いてくれるお客さんと作り手の間の垣根がどんどん無くなってきていますよね。でも無くなっただけでは、ただ単に交流や話ができるというだけなので、それをちゃんと1つのビジネスにして、第3者が間に入らずにやりとりを管理・サポートしてくれるという意味でクラウドファンディングが出てきたというのは、すごくおもしろいな、という感じです。

◆なぜクラウドファンディングを手段として選んだのか?

G:
先ほどからちらほら触れていますが、クラウドファンディングについてお聞きします。GIGAZINEではしょっちゅうクラウドファンディング・プラットフォームのKickstarterについて記事を書きまくっていますが、どういうような感じでこの「SPARKS」をクラウドファンディングでやろうという風に至ったか?という経緯ですけれども。

村治:
そうですねぇ。本当にそれを振り返っていくと、GIGAZINE編集長である山崎恵人さんの著書に書いてあった、「少額決済のシステムがこれからはすごく大事になってくる」というのが頭の片隅にあったんです。


村治:
自主制作で作り始めた1作目が「コダマスケッチ」という作品で、この時はとにかくジャケットのデザインを含めて自分の力で1枚CDを作る、ということを考えていたんですけど、「玉響/TAMAYURA」という作品を作った時に、お客さんに値段を設定してもらったりとか、フラッグデータ・MP3データ・CD盤・レコード盤などデータの質によって値段を変えるとか、いろいろな形でお客さんに判断・選択してもらうというのが面白いかな、と思ったんです。そうすることで、もっとお客さんとの間の交流というか、対話が生まれるんじゃないかなと思っていたんですよね。でも当時はインフラもなかったし、ノウハウも何も分からなかったので実現はしなかったんですけど。そういう経緯があって、最近はクラウドファンディングが日本でもだいぶ普及してきているということを聞いて、これだったらお客さんとの繋がりの距離というか、そういうものをもっといろいろな形で縮められるんじゃないかな?思ったのが一番最初ですね。

G:
GIGAZINEではKickstarterを取り上げることが多いのですが、今回のプロジェクトを行う上で、Kickstarterの音楽カテゴリも参考にされましたか?

村治:
いや、Kickstarterの方はクラシックでこういうことをやってる方があまりいなかったので、ほとんど見なかったですね。

G:
改めてKickstarterを見てみると、アートやムービー、ミュージックというカテゴリも一応あるんですが、その辺りのカテゴリはあまり表に出てきません。ただ、数自体はたぶん全体の半分以上を占めていて、圧倒的に多いんですよね。日本ではあまり考えられないんですけど、ダンスのカテゴリもあったりするんですが……。

村治:
ダンスですか!?

Discover Projects » Dance — Kickstarter
https://www.kickstarter.com/discover/categories/dance



G:
ええ、それが数としてはかなり大きいんですよね。

村治:
へぇー。

G:
「ギター(guitar)」という単語を検索すると、村治さんのようにギターを弾いている人が作品作りのために集めた金額は、ほとんど2000ドル(約20万円)前後なんですよね。それでいくと村治さんの「22時間で目標金額40万円に到達」というのは世界的に見ても尋常ならざるレベルです。

だからギターによる演奏作品を扱った中では本当に、世界的に見ても筆頭のレベルなんですよね。確かに「ギター」で検索するとKickstarter上でもかなり規模が大きいプロジェクトを見かけるんですが、ほとんどがギターを「作る」プロジェクトばっかりで、例えば最近で言えば、オイルの缶をボヘミアンギターにするというプロジェクトが5万4000ドル(約550万円)を集めました。

村治:
おっ、5万4000ドルですか。

G:
ええ、ギターを作るプロジェクトはあっという間に100万円の単位に入っちゃいます。要するに、すそ野が広いんです。例えば小さい子ども用のギターはあまり存在しないので、みんなが「こんなギター欲しいよう!」と言うんですね。ギターを作る系はものすごくたくさんのプロジェクトあって、過去のプロジェクトを含めると、500~600個くらい。ところがその中で、「ギターをソロで演奏する」というプロジェクトになると、ほとんど無くて……。そう考えると、この22時間で40万円を集めるというのは世界的に見てもかなりのレベルであるというのが分かって、「すごいなあ!」と。

村治:
ありがとうございます。出資を募る時、どれぐらいまで集まるか分からないじゃないですか。だからびっくりして。ポップスなんかは前例として多いけどクラシックはまずいないし……。

G:
そうなんですよね、参考になるものがない。

村治:
だから今回、ストレッチゴールまでは作っていなかったんですよね。

G:
目標額を達成した後に掲げるゴールですね。

村治:
だって、1日経って朝起きて見たら既に目標額を達成していて、「あれ!?何かのミスかな」みたいな感じで(笑)

G:
あの早さは完全に想定外だったんですね。

村治:
想定外ですよ。「ファンディング期間の最初の1週間で3分の1に達すれば成功する率が高い」ということを言われていたので、「そうかそうか、そんなもんかぁ」と思ってたら「あれ!?」みたいな(笑)

でも本当にクラウドファンディングはお客さんと近づける、というのがあります。クラシックギター自体、もともとはそんな感じで、19世紀には今のギターより1つ前の、もう少し小ぶりなサイズのギターがあったんですが、その頃は規模や出演人数なども含めて現代のような演奏会は一般的ではなかったんですよ。

G:
そうだったんですか。

村治:
コンサートホールもないですし、それが開発されて今の演奏スタイルになったのは、多分ここ100年とか、120年。

G:
わりと最近なんですね。

村治:
そうですね。それまでは、特に、このギターなんていう楽器は、サロン会場とかの社交の場でBGMとして流れていたりとか、リクエストがあって演奏して……という使われ方をしていました。常にお客さんと演奏家がいて、そこにもっと密接な関係があったのが、気がついたらだんだん離れてきてしまったという、そういう印象もあるんですよね。だから、クラウドファンディングで制作過程からお客さんと一緒に作れるというのがすごく……

G:
もう一度近づいていくような感じなんですね。

村治:
そうですね。

G:
だから「対話」ということをコンセプトにしている。

村治:
そうですね、それに乗って。


G:
なるほど。あと、プロジェクトの中身を見ると、出資枠が高額な3万円・2万円のものから無くなっているように見えるんですけれども、出資を受けた順番はやっぱり実際にその流れでしたか?

村治:
そう、7000円とか5000円ぐらいが人気かなと思ったら一番最初に売り切れたのがその一番高い3万円だったんですよ。

G:
一番高いところから!それはすごいですね。

村治:
もっと用意しとけば良かった(笑)

G:
僕が見た時は特に「2014年4月4日に銀座ヤマハホールで開催される村治奏一ソロ公演にご招待いたします」という出資枠に対して、「ほう、そうなんだ!」と反応して、次に後半辺りにある「また、当日公演前に行うリハーサルに、特別ご招待。普段お見せできないバックグラウンドをご覧いただくとともに、お客様がほとんどいない状態でのホールの響きをお楽しみください」で「うわ、すごいじゃん!これって10万円くらいするのかな」と思ったら2万円と書いてあって、びっくりして見たら案の定なくなっていたので、そりゃあなくなるよな……と。

村治:
だったらもうちょっと高くしたら良かったかなぁ……(笑)

G:
2万円はお得すぎなのではないか?と思ったんですけれども、その甲斐あって、あっという間に目標達成できたんですね。

村治:
そうですね。でもやっぱり出資に対するリターンは、すごく大変でしたね。最初にアイデア帳を作っていてですね。

G:
それがアイデア帳ですか?


村治:
なんかネタ帳みたいな感じで。

G:
秘密のネタ帳ですね。

村治:
秘密のネタ帳です。最初に考えたリターンは全てが一方通行というか、せっかく対話を意識しているにも関わらず、例えばチケットを渡すとかボーナスCDを渡すとか、カードを送るとかばっかりで。で、もう1回「対話」というところを考え直した時に出てきたのが「インタラクティブCD」という考えです。これはまず、お客さんに3つのムードを選んでもらって、さらに、世界のすばらしい音響のある3ヵ所のホールの音響システムを、ソフトを使って自由に組み合わせてもらって。


G:
なるほど。ウェブページを見て「一体インタラクティブCDとは……?」と思っていたところだったので、納得しました。

村治:
分かりにくいですもんね(笑)

G:
要するに選んだ、というか出資後に、好きなムードを選んで、さらにムードと音響を組み合わせたものが手元に届く、という感じなんですね。

村治:
そうですね。実際にどの曲が来るかっていうのは来るまでのお楽しみで、秘密なんですけど。どれを選んでも3パターンの会場で聴いているような楽しみ方ができるというコンセプトです。何かしらの形で対話したかったんですよね。

G:
なるほど。そういえば、「今年は普段扱っているカテゴリ以外のKickstarterプロジェクトも扱っていこう」と思って調べていた矢先にちょうど村治さんからメールが来たんですよ。それで、何を調べてたかっていうと、ちょうど音楽カテゴリを調べてたんですよね。

村治:
本当ですか。

G:
というのも、先ほど言っていたように、アート、ムービー、ダンス、音楽、あと出版や写真集というカテゴリは、クラウドファンディングの半分以上、時期によっては下手したら3分の2くらいを占めているんですけど、どれもあまり目新しく見えなくて、ほとんどニュースにはならないんですよね。

村治さんが今おっしゃっていたように、この10年間「インターネットを使うと、もう少し相手と距離を縮めてどうこうやれるんじゃないか」と言われてきましたが、決定打はほとんどありませんでした。しかし、Indiegogoが生まれ、今からほぼ3年前にKickstarterが出てきて、その後に他のものも出てきたんですよね。その中でなぜKickstarterだけが猛烈な当たりを出したのかというのは、もちろんテクノロジー系がメインで注目されまくったということもあるんですけど、もう1つ、「今までインターネットの恩恵をあまり受けられなかったカテゴリに脚光を当てた」というのがあります。分かりやすいもので言うと、例えば水彩画とか俳句で生きてる人って今ほとんどいないじゃないですか。

村治:
いないですね。


G:
でもよく考えたら、昔はあれで生きていた人がいたんですよ。今でも生きている人はいますけど、規模が小さいというか、当時とは全然違うでしょう。でも、規模が小さくなった代わりにみんなに広まりましたよね。ということは変な話、すそ野が広がると上の方の、トップレベル以外は生きていけなくなる、ということが歴史の必然として見えていたわけです。でもそれに対して、おそらく初めて「違うんだ」という、「すそ野が広がった分、みんなが生きていける手段も広がったんだ」ということを示したのが、あのクラウドファンディングの仕組みだったんですよ。

今まで自分が好きなことをやっていて、「もうちょっとなんとかなったらいいのにな」と思っても、ゼロか100、オール・オア・ナッシングみたいな世界でした。ほとんどの人がゼロで、ほんの一部の0.000001%ぐらいが100、その間が全然ないというような状況に風穴を初めて開けたのがこれだったんですよ。そう考えると、特に音楽ってかなりインターネットと親和性が高かったじゃないですか。極端なことを言うと、「聴ければいい」というのがあるのでファイル共有はされまくるし、YouTubeに音源・PVはアップロードされまくるという状況ですよね。実際にクラウドファンディングを使って音楽に対して出資を集めた人の過去最高額を調べたら、2012年6月にAmanda Palmerという人が目標額10万ドル(約1000万円)対して、なんと119万2793ドル(約1億2200万円)も集めてるんですよね、これは史上空前の金額ですよ。

Amanda Palmer: The new RECORD, ART BOOK, and TOUR by Amanda Palmer — Kickstarter
https://www.kickstarter.com/projects/amandapalmer/amanda-palmer-the-new-record-art-book-and-tour



G:
目標額1000万に対して1億2200万円レベルを集めてしまって、この人自身が一躍有名になったんです。

村治:
はい。

G:
あと、TEDってあるじゃないですか。

村治:
あぁ、テッドですね。

G:
そうです、テッド。Amanda Palmerも2013年にTEDで「“お願い” するということ」という、Kickstarterで過去最高金額を集めた話の講演をやっていまして、そこで言っていたのが、音楽にお金を出させるのではなくて「どうすれば音楽にお金を出せるようにしてあげられるだろうか」という考えです。その考えの結果、クラウドファンディングでお金を集めることになったらしいんですよね。プロの人には非難されるかもしれないけれども、アーティストとファンの新しい関係が作れるんじゃないか、と。この人自身が元々ストリートパフォーマーだったので。

アマンダ・パーマー 「“お願い” するということ」 | Video on TED.com


元々音楽をやりたかったけれども無理だったという、その延長線上で音楽というものを捉えていて、ストリートパフォーマーでもKickstarterみたいなクラウドファンディングの仕組みがあれば自分はもう一度いけるのではないか、ということでやってみて、これだけお金を集めきって、今はさらにミュージックビデオをちゃんと作ったり、ちゃんと音楽家としてやれるようになったりしていっているので、「すごいなぁ」という感じがします。

村治:
でもまさにそこですよね。昔はたとえば作曲家にしても必ずパトロンがいて、そのパトロンとの関係というものがありました。もしかすると、厳格に「こういう音楽を作ってもらいたい」という意図はなかったかもしれない。これだけの期間とお金を与えるから自由に作ってくれ、というものだったかもしれないけど、それはそれで1つの対話の形なわけじゃないですか。それで成り立っていたのが、いつのまにか「たぶんこういうものが売れるんだろうな」とか、「こういう風にしたらもっと聴いてもらえるんじゃないかな」とか、こう立場が逆転してしまったというか、本当はお客様が上にいて、アーティストは支えて頂いてそこに音楽で返還するというものだったのが、もしかしたら今だけの歪んだ状態なのかもしれないけど、いつの間にか逆になっているんですよね。

それがクラウドファンディングが出てきたことによって、まさにファンがパトロンになる。1人のお金持ちがパトロンなのではなくて、みんなが分散してパトロンになって、アーティストはそれによって支えられているという状態に戻るんじゃないかなと思うんですよね。それもやっぱりクラウドファンディングの魅力の1つだなという風に思いました。


あと、今回、みんなお金を出したいというか、お金を出す場所を探しているのかもしれないと思ったんですよね。

G:
何かそう思うきっかけみたいなことがあったんですか。

村治:
今回やってみて、当然一番安いところから出資枠が埋まっていくのかと思ったら、そうじゃなくて一番高いところからどんどんお金を出していただいたので、なんて言うのかな……こちらから何か提示できるものがあれば、そこにお金を出したいと思っている人がまだまだたくさんいるというか。だから今回一番高いところから売れていったというのはびっくりでしたね。

G:
その辺りはすごいですね。あと、あのページの下の方に書いてあったことで気になったのが、村治さんの書いている「僕自身米国留学中にたくさんのサロンパーティで演奏し、感じてきたことです」というものです。日本では馴染みがないのですが、サロンパーティというのはどういうものなんですか。

村治:
えっと、とりあえず自分のリビングにいろんな分野の人を週末とかに招いて、そこでざっくばらんに話をしたりするパーティなんですけど、そこでよく頼まれて演奏していて。演奏すると、それまで偏った話をしていた専門分野の人たちだけの集まりが、みんなが打ち解けたような空間になるというか、そういう力がやっぱりあるんだなということを感じたんです。

G:
そういうことだったんですね。さらっとサロンパーティと出てくるのですが、一体どういうような何を感じたのだろうと思いまして。

村治:
そっか、そうですよね(笑)

◆「好きなことをして食べていく」ということ


G:
前回も同じような質問をしてしまっているんですが、GIGAZINEでいろいろなカテゴリ・ジャンルの人にインタビューをしている中で、ほぼ全員にしている質問なんですけれど、下品な言い方をしてしまうと、「どうやって食べていくの?」という話です。よくよく考えると、今、仕事に就く方法には2つあって、1つは会社に「属する」、もう1つは「属さない」というもの。村治さんの言っている方は「属さない」方なわけなんですが、変なことを言いますけれども、小学校くらいの頃に「僕は大きくなったらサラリーマンになりたいです」とか、「僕は大きくなったら○○株式会社の正社員として就職します」とか言う子どもはいないんですよね。

村治:
うんうん。

G:
みんなどちらかというと村治さんが今しているようなことを、「夢」として言うんですよ。

村治:
ああー。

G:
例えそれが花屋さんであろうがケーキ屋さんであろうが、決してどこかの会社、企業のサラリーマンを夢として描く人なんて1人もいません。ところが大学2、3年生くらいが就職活動を始めると、当たり前なんですけど、みんないろいろな大手の企業の説明会に行ったりします。社会問題になっている「就職できない」ということも、ほぼそのことを指しているわけじゃないですか、要するに企業に正社員として就職できない、と。

おそらく村治さんが大学生の頃に初めて顕在化し始めて、そして今の大学生の人たちにはもっと顕在化している大問題というのがあって、それは要するに「就職活動というものが完全に夢を諦める場所になっていること」なんですよ。

村治:
そうですね。

G:
ただバブルの頃とかは、どこでも選べたんですよね。だから自分の好きな方向性の企業を選んで、もしもその企業が合っていればずっとそこにいるはずだし、合っていなくてもそこでいろいろ学んで独立するとか。ところが今そんなことを本気で考えている大学生、厳密には理想的な就職活動ができている大学生はいないんですよ。

村治:
なるほど。

G:
世の中の新聞とかが「就職活動が始まりました」と言っているけれども、あれは少し前にみんなが考えているものとは全然違う、もっとシビアなものになってしまっている。あまりにも衝撃的だったのでメモしてしまったんですけれど、「働くというのは夢を諦めて妥協することである」と。それが就職活動になってしまっているんですよ。

それでいくと結局のところ、よく言われるのが「自分の好きなことをしても食べていけないじゃん」という言葉。もしくは普段はサラリーマンとしてお金を稼いで、自分の好きなことは趣味でしていればいいではないか、という考えに至ります。

村治:
はい。

G:
でも、そんなことを小さい頃に考えた人は1人もいないはずなんです。成長するにつれて夢が粉々に壊れていくわけなんですけれども、その一番究極の壊れ方をするのが、要するに大学生が就職活動をし始める時期なんですよね。ところがインターネットの方を見てみると、特に堀江貴文さんの時から顕著でしたけど、起業ブームってありましたよね。

村治:
起業ブーム。

G:
要するにlivedoorみたいな会社を作ったりとか。

村治:
そうでしたね。

G:
あれとほぼ時を同じくして、株のデイトレードがあったじゃないですか。

村治:
うん。

G:
それまでは株というと怪しいような、いけないようなこと、山師的なものというような感じがあったんですけれども、あの1年で突然、「株で取引するくらいちょっとしたタシナミよね」ぐらいまで一気にハードルが下がりました。あれが受けた理由というのは、要するに何か自分の好きなことをするためにはお金が必要だけれども、そのお金が手に入らない。その1つの極のところに株があって、もう1個の極のところに起業があるんですが、結局のところ一番したいのはそれこそケーキ屋さんであり野球選手であり、そういうようなものがあるわけじゃないですか。

おそらくクラウドファンディングというのは、ある程度やりたいことに手をかけることができる手段の1つなんですよね。でもそれだと食べていける人と食べていけない人がいて、食べていけない人になるのが怖くてみんなサラリーマンをしている。その割合が日本の場合はとにかくとてつもなく高いんです。

村治:
なるほど。

G:
どこの国を見ても普通は選択肢として逆なんですよね。能力があると、起業する。それで人を集めて何か仕事をするであるとか、どこかの会社に行くにしても、それはあくまでも自分を社会に出て鍛えるような意味合いです。丁稚奉公ではないですけど、その感覚で就職して働くというのが能力がある人であって、そうではないような人が日本で言うところの就職活動、要するに特に能力がないから時間の切り売りをして働こうか、就職しようか、となるんですね。さらにそれよりも無理だった場合は失業率△%の中に入ってしまう訳です。

一方、日本の方を見ると、全然そういうのがないわけなんですよね、要するに根本的に誰も食べていけると思っていないんです。でも、スタートアップとして起業したいという人がいるのと同じように、「みんながもう少し支援してくれたら自分の好きなことを仕事にしたい」みたいな思いはみんな持っているんだなというのがあって……。

それで要するに村治さんに聞きたいのが、就職しない方法で食べていこう、村治さんの場合はギターで食べていこうということになるのですが、そのように考えている人にアドバイスというか、先輩として何かかけてやれる言葉はありませんか、ということです。

村治:
大学の方は全然分からないんですけど、やっぱりギタリストとしてやっていくにしても、ある意味では就職と同じでどこかで諦めるというか、1つに決めるしかないんですよ。たとえば僕はアメリカの音大卒業後の4年間でいろいろなものを見たり、かじったり、人脈を開拓したりとかしたんですけど、その中で選択しなきゃいけない、というのがありました。でも、言い方が違うかもしれませんが、1つを選択して「専門バカ」になるのではなくて、ちゃんと「オタク」でなければいけないっていう……。

1つのことを選択すると、意外と時間がないということにまず気がつくじゃないですか。20代半ばぐらいなら「何でもできる!」と思います。でも実はそうではないということにまず気がついて、でもやっぱりそうなったとしてもどこかで必ず、視野を広げると言ったら簡単なんですけど、そういうことができるようになる気がします。


G:
先ほどおっしゃっていた選択……選ぶというのは、村治さんの場合はどういう経過をたどったんですか?「何でもできるよ」みたいな状態から、「いや、でも、時間ないよね。なんか選ばなくっちゃ」という考えに至るきっかけみたいなものが何かあったんですか?

村治:
僕は4年間の中でも「いずれはギタリストとしての生活に戻らなくてはいけない」という考えはあったと思うので、全然違う映像関係の人脈を広げたりとか、お茶のお稽古とかを始めてみたりもしましたけど、そういう中でも無意識の内に1つの方向に向かっていて、その行き着いた先が、まずはパトロンだったんですよね。

パトロンに出会って、サロン会場を作ったりCDの裏舞台を知ったり、ということもあったんですけど、やっぱり「いずれギタリストの道に向かう」という作用が働いていて、その流れの中でだんだん「コダマスケッチ」がCDになって、「玉響/TAMAYURA」をリリースして、日本に帰ってきた後もそれがまたクラウドファンディングにつながっていったりとかしているので、自然の流れの中で向かっていったという感じだと思うんですよね。ターニングポイントがあったとかではないと思います。

G:
ジョブズが昔、スタンフォード大学の卒業式で言っていた「点と点がつながってだんだん線になっていく」みたいな感じですかね。

村治:
まさに。クラウドファンディングのプロジェクトを始めるまでは「いろいろな人脈に出会って、いろいろな世界を見たとしても、クラシックギターには直結しないのかな」と少し思っていたんですけど、それが今ここでぴたっと合っていますね。

G:
おおー

村治:
向こうで出会ったデザイナーさんだったりとか、あるいはもちろんGIGAZINEさんなんかもそうなんですけど、クラウドファンディングについて知ったことを含めて、いろいろなものが1つにつながりましたね。点と点がつながったという感じもあります。


G:
今のは非常に良い話ですね。

村治:
サロン会場で弾かせてもらったことが対話をコンセプトにしたクラウドファンディングの軸になったし、あと、パトロンの方に支援してもらった経験もあって、「クラウドファンディングとしてファンの方にパトロンになってもらってCDを作る」というコンセプトがすんなり入ってきました。

G:
このクラウドファンディングを始めるまでの準備期間と言ったら変ですけれども、一番最初に思いついてアイデアを出す段階から、実際に何かをやり始めるまではどれぐらい時間かかったんですか。

村治:
いつだったかなあ。今回はGREENFUNDINGというところを使うことにしたんですよね、それを決めたのが去年の9月か……夏ぐらいだったかなあ。でも実際に動き出したのはもっと後のはずです。秋かな。

GREENFUNDING グリーンファンディング
https://greenfunding.jp/



G:
去年の秋ぐらいということは、3、4ヶ月くらいは実働準備をかけていた、という感じなんですね。

村治:
そうですね、少なくとも2ヶ月くらいはかかってましたかね。1度リターンを考えてみた時に「全然おもしろくないなぁ」と思って、もっとインタラクティブにするにはどうしたらいいかとか、やっぱりそういうところも時間がかかりました。

G:
リターンに関しては、ぽんぽんとアイデアが出たわけではなくて、わりと難産だったんですね。

村治:
何か物作りにお金を使うにしても、昔は「こういうアイデアがあるんですけど形にしませんか」という提案があって、「あ、それだったらお金を出してみよう」ということがあったと思うし、もっと昔で物々交換の世界だったら、「こういう商品があるんだけど交換してくれない?」と、まさにやりとりがあるじゃないですか。アイデアがあって、じゃあお金出します、で、生まれた製品がすばらしくて、それが波紋のように広がっていく……というのが売れていく形だと思うんですけど、いつの間にかこの波紋が主体になってしまっている。やりとりは一切なく。多分これはすごい波紋になるんじゃないかな、という製品が投入されて、実際にやってみたら全然波紋にならないから、じゃあ宣伝で引っかけよう、とか。でも、この、コアな部分がクラウドファンディングを使うと自然にできるんじゃないかな、とはやってて思ったんですよね。

G:
今の波紋の例えは非常にしっくりきますね。

村治:
物作りとか物の流れってまず原点があって、作りたい、それだったら欲しい、という風に魅力的なものが広まっていくはずなんですよ。あとはやっぱり今回クラウドファンディングをやって痛烈に思ったのが、昔大手で作品を作っていた時は、やっぱりスタッフに気を使ったりとか、すごい視野が狭いんですよね。


G:
要するにCDを作るのに関わる人たちですね。

村治:
そうそう、それだけを意識していたのに、クラウドファンディングだともう今の段階でたくさんの人からメッセージをもらったりして、そうすると作っている段階からモチベーションがものすごく違うんですよね。ただ単に上がるというのではなくて、自分が中心となって自分のアルバムを今作らせていただいているんだ、とそんな気持ちになるんです。これまでは「会社の中で自分が音を提供するという立場で作っている」というか、自分が主体ではなかったんですけど、クラウドファンディングで作ると良い意味ですごく責任感や「自分のCDなんだ!」という気持ちが自然に持てるというか。本来はそうだと思うんですよね。本来はそういう気持ちで作らなきゃいけないと思うんですけど、それがすごく自然な形でできるんです。

G:
より気持ちがこもっている感じなんですね。あと、気の早いことを聞くんですけど、今回のプロジェクトは第1弾という形で、今後もさらに展開させていく予定なのでしょうか。

村治:
そうですね。常にお客さんと最初の段階から密な関係を築きながら曲作りをしたいというのもあるし、それからやっぱりどうしても、デザインの部分をないがしろにしたくないというか、そこもちゃんと手に取ってもらって初めて良さが分かるような作品にしたい、という気持ちもあるので。

G:
なるほど。ちなみに「SPARKS」の次をやるとして何か、世界展開的なものは考えていますか?もう少し大きいクラウドファンディングをやってみるとか。

村治:
考えています。やっぱりあれですよね、日本はクレジットカード手数料が高すぎるというのがあります。Kickstarterは5%なんですけど、日本のクラウドファンディングのプラットフォームはどこも基本的に20%なんですよね。しかもそこに消費税もかかるので、もう3割ぐらい持って行かれてしまうみたいな感じ。お金がなくてファンディングするのに。だから、その辺りが改善されると、日本でもクラウドファンディングが爆発的に普及するかもしれません。

G:
今回の企画で、自前でクラウドファンディングのサイトを作るというのはなかったんですか。

村治:
そこまでは(笑)もしそれができていたら、もうこの時点でデータ販売とか、いろいろ形を変えてお客さんに買ってもらうとかできたと思うのですけど。

G:
GIGAZINEではKickstarterにもう50個近く出資したので、その経験から分かることを1本の記事にしていますね。

村治:
読みました!僕は出資する側の目線であの記事を読んでいて、ストレッチゴールのことなど、確かにその通りだと思いました。それでもやっぱり上手くいっているケースと上手くいっていないケースがあるじゃないですか。その差は、クラウドファンディングそのものが双方向性のものなのに、あまりにも一方通行なリターンが多すぎるんですよ。今回僕はたまたま「対話」をコンセプトにしたんですけど。

あと、メインの商品の副産物をたたき売りしているみたいな。最初は僕もリターンとして、今回収録した曲を違う楽器で弾いたものをボーナストラックで付けようか、とか考えたんですけど、そういう副産物というか、今まで売れなかったけどリターンという形で商品化して売ってしまおう、みたいなものがかなりあると思うんですよね。

G:
ありますね。

村治:
参加する人はクラウドファンディングをすると楽できる、という風に思っているところもあると思うんですけど、全然そんなことはなくて、そこはやっぱりインタラクティブだから、新たなリターンやお客さんとの対話になるようなものを考えないとダメなんだな、ということを思いました。失敗してるものは本当にそう。


G:
あまりお金を出す側のことを考えていないよね、みたいな。

村治:
うん。「本当にそれをもらってうれしいの?」みたいな。

G:
その辺りのリターンがすさまじいものは時々ありますね。「こんなものをこんな値段でやったら人が殺到するだろう……」と思っていたら、案の定本人が「ストップ!ストップ!すまない!そんな沢山の人には応えられない!期日まではまだあるが、もうここで締め切らせてもらう!」と言い出すような。すごいケースだったら、グラフィティをあちこちに描いているアーティストが「あなたのためにオリジナルのグラフィティのアートを、あなたの家に描きに行く」というものがあって、しかも「世界中どこへでも」となっていて、「はぁ!?」と(笑)

村治:
すっごいですね(笑)

G:
世界中の場合は旅費さえ持ってくれれば宿泊費はいらないということで、さすがにこれはどこかでキャンセルがかかるんじゃないかと思って次の日に見に行ったら、最初の募集が100ドル(約1万円)だったのに、出資額が10万ドル(約1000万円)になっていて、みんながぶわーっと殺到して、これはすごいと思いましたね、上手いんです。基本的に描くものに制約があって、イニシャルもしくはアルファベットで8文字以内だったかな。それを指定したものに描く。一番大きいものは壁、小さいのはスケボーの裏だったかな?サンプルも提示してあって。人が殺到しすぎて無理になるんじゃないかと思ったら、案の定あっという間に、人が集まりすぎて破綻してしまった。

みんないろいろと質問しているんですけど、FAQのコメント欄がおもしろくて、「僕の家はウクライナにあるんだがウクライナまで来て、僕のスケボーの裏に描いてくれるだろうか」「行くよ!」と書いてあるんですよ(笑)

村治:
おおー。それ、リターン額はいくらですか?

G:
描くものの面積によって価格が決めてあって、一番大きいものでいくと壁が一番高くて……それでも100ドル(約1万円)ぐらいですかね。

村治:
ええー!

G:
シッピング(送料)の部分が旅費になっていて、その分を計算して足してくれ、という方式ですね。

村治:
その人は単純に旅行がしたいんじゃないですか(笑)

G:
かもしれません(笑)それで、1年くらいで終わる計画だったのが、3年くらい旅行しないといけなくなってしまった。でも逆にアーティストは開き直っていて、本当は予定していなかったけれども「もう俺はこういうアーティストになる」と言って、作品集を3年後に出すと決めたという。

村治:
なるほど。

G:
完全に逆転ですよね。それが自分の人生を変えた、と。「こんなに重大なことだとは思わなかった」と言っていました。

村治:
音楽についても、「この曲が聴きたいからコンサートに行く」というのはすごく近代的な新しいもので、昔はそうじゃなかったんですよね。1対1だったりとかしたわけだけど、そこに戻って、これからはもっと小規模なコンサートも増えていくと思うんですよね。

G:
はい。

村治:
だから何かそういうものがクラウドファンディングでできるかもしれないし……。

G:
あり得ますね。

村治:
今の話で言うなら、「僕はクラウドファンディングであなたの家まで弾きに行きます」というスタイルでミュージックをやれますよね。


G:
それはもう、絶対にお金が集まりますよ。

村治:
それで例えば「1万円でコンサートしに行きます」として、月に30人集めれば30万円で、生活ができるじゃないですか。

G:
確かに。音楽のイベント系のものはそれがかなりあって、あとはどこかの交響楽団が行っていたクラウドファンディングですごかったのは、最高額の出資枠のリターンで、「あなたの家の前に行って弾く」というのがありました(笑)

村治:
それ逆に邪魔じゃないかな(笑)

G:
プロジェクトで村治さんはお分かりだと思いますが、値段が高いものが実は結構いけてるという。

村治:
うんうん。

G:
その通りなんですよ。だから、「クラウドファンディングでお金を集めやすい出資金の金額はいくらなのか?」という分析結果によると、10万円から100万円の高額帯、極端なことを言うと1000万円とか2000万円とかいうのを必ず1個用意する必要性があるそうなんですね。

村治:
ほぉー……。

G:
成功しているプロジェクトの半分近くはそのたった1個が売れただけで実は目標にいってしまっているんですよね。だからもうとんでもない内容でいいんだという。

世の中にはお金を持っている人が結構いて、その人達は要するに、その辺にある普通のスーパーとか家電量販店とか、そんなところで売っていないものを欲しがっていて、そういう人は実はざらにいるんですよね。

村治:
まさにそうなんですよ。今回僕がやって分かったことの1つは、純粋に支援したいと思ってくれている層がいるということ。それからもう1つは、ちょっと言いにくいですけど、本当にお金を持っていて、何かお金を使いたいんだけどその魅力的な使い道が見つけられないという人がいる、ということ。

G:
見ていると、本当にもう出資というより投資に近い感じの人がいますね、投資先が見当たらないという。

村治:
そう。僕が今回調べたポップシンガーの人でも1人いましたよ。10万円出してくれたらあなたのために曲を作ります、という人が。

G:
それはすごいですね!

村治:
しかもそれを演奏会で弾きますと。それで、録音したものを楽屋で手渡します、という。それが10万円で。

G:
それは出しますよ!

村治:
だから共通して言えるのは、作り手と求める人というか……クラウドファンディングは需要と供給の間に何も垣根がないわけじゃないですか。レコード会社もないしプロモーターもないし。だからこそ双方向性が大事になってくるわけで、それが出来るのがクラウドファンディングなのに、リターンが一方的なものとか、たとえば映画であなたの名前を付けてあげますとか、そういうのは成功しないんですよね。

あと、クラウドファンディングを始めて、講演会を聞きに行った時に、これって何か原点に来ちゃったなという感じがしたんですよ。物作りというか、何か全ての原点に当たるものだなと思いました。

G:
見ていると確かに、「なるほど、こういう人達が世の中にいたんだ!」という人がいます。例えば、近所の町工場みたいなところにいる人は、日本のクラウドファンディングではほとんど見ないんですけど、海外では特にデザイン系で、ものすごく多いんですよ。

村治:
はい。

G:
要するに、何かの下請けのものを普段は作っているけれども、手遊びで作った「こんなの売っても一体誰が買うんだ」というようなフルメタルの物に対して出資を募っているとか。フルメタルといっても、素材が選べて、真鍮・黄銅・銀・金・チタンとか、カーボンファイバーとかの素材で……例えばペンを作ってやると。中の芯は作れないから市販されているハイテックCを入れてくれ、とかそういうのが結構あるんですよね。

村治:
へぇー。

G:
あと、映画の撮影で使う小物を下請けで作っているところがあって。たとえば、「ダークナイトのバットマンがシュッて投げたあれは俺が作った」とか(笑)あとは「ロード・オブ・ザ・リングで持っているあの剣は俺が打った」とか、そういう人がアメリカにはいて、その人はYouTubeに、どうやって作ったかというチャンネルを持っているんですよね。その人はそれだけだったら注文が不定期なので、普段はいろいろな鉄の作品、アートでご飯を食べているんです。で、自分が暮らしていく分には足りているんだけれども、もう少しいろいろするための設備を整えたいということで、その人がKickstarterに出してきたのがあって、「そんな技術を可能にする機械がお金さえあれば手に入るのか!」と驚きました。

村治:
なるほどね~、すごいおもしろいなぁ。

G:
さらにお金がいっぱい集まったので、今度はプロジェクトのためにレンタルしていた機械を「買うよ!」ということになりましたね。「みんなありがとう、これでまた作れる幅が広がるよ!」となったわけです。

村治:
でも本当、その広がり方はすごく健全ですよね。

G:
非常によくできている。見ていると、そんなケースは多いですね。

村治:
間に何も入らないことがすごいんじゃなくて、物作りってもともと多分そうあるべきで、すごく自然な流れじゃないですか。

僕がクラウドファンディングをやった目的にはデザイン的な自由だったりとか、あとプロモーションにもなると思ったんですね。これは今だけだと思うんですけど、クラウドファンディングをしてCDを作るということ自体がまだ少ないので。あとはやっぱりお客さんとの繋がり。こういうことをして、単純にこういう作品ができた、そしてお客さんが買ってくれました、というだけだったものが、強い結びつきによってファンが残っていくという。

G:
クラウドファンディングにしろソーシャルネットワーク活動にしろ何にしろ、いろいろな人を巻き込んで「盛り上げる」ということがあって、あれって成功するパターンと失敗するパターンがありますよね。

村治:
そうですね。

G:
インディーズCDの音楽ショップCD Babyの創業者デレク・シヴァーズは「権威が嫌い」「音楽が好き」というような非常にシンプルな人なんですが、インターネットの可能性を限りなく信じているんです。彼はTEDで「『盛り上げる』ということの成功するパターンと失敗するパターンの差は自分が見たところこれしかない」というのをたった3分のプレゼンテーションでやったんですよ。「社会運動はどうやって起こすか」という講演です。これが、内容がすごい上に分かりやすくて、しかもおそらく真実であろうものなんですよね。

村治:
それは何なんだろう。

G:
要するに、重要なのはリーダーではない、フォロワーである。それも、一番最初の、1人目のフォロワーであると。「一番最初に支援してくれた人が大切」と言われると、みんな「ああなるほどね」となります。ただ、それがどれぐらい重要かというのを本当は分かっていない、ということを分かりやすく講演したんですよ。

村治:
それは見たいな。

デレク・シヴァーズ 「社会運動はどうやって起こすか」 | Video on TED.com


G:
ぜひ見てみて下さい。「なるほどー!」となるし、事実その通りだったので、あれは本当に真なりだと思いますよ。

何がすごいのっていうと、その人自身がどれぐらい最初のフォロワーが重要かということを、ほんの短時間で実践したんですよ。重要なのは一番最初にフォローする人、そしてその次の人。もっと言うと、フォローしてくれたその次の人、この次の人という風にしてどんどん重要度が上がっていくと。そしてある1点、ティッピングポイントを越えると、そこから後はぶわーっと広がっていく、というのを最もビジュアル的に示したんです。あの人は本当に勇者だと思います。

話がずれてしまいましたが、何かインタビューで伝えておかないといけない、言っておかないといけないことは他にありますか?

村治:
では、せっかくなのでGREENFUNDINGを選んだ理由を。そんなに大したものではないんですけど、今はREADYFOR? (レディーフォー)とか、CAMPFIRE(キャンプファイヤー)とか、クラウドファンディングのプラットフォームがかなり増えているじゃないですか。

G:
ええ。

村治:
いろいろなサービスを見てみると、やっぱり数は多いんだけど、何かこう……自分のピンとくるものが少なかったりとか、あと厳選しているんだけど、寄付ばかりだったりとか。海を綺麗にしましょうみたいな(笑)

G:
なるほど(笑)

村治:
あとはたとえば寄付とかじゃなくてチャリティーに寄っているのが多くあります。その中で、実際にGREENFUNDINGの社長さんに会いに行ったんです。そうしたら自分と同じ30代ぐらいの方で、彼のサービスに対する思い入れもすごく良かったし、共感するところが多かったんですよね。それでGREENFUNDINGを使おうと思い至りました。実際に厳選されていて、雑誌社や映画社とのタイアップでファンディングとつなげていっているところも、今後の可能性を一番感じるな、と。それで選びましたね。

G:
今のお話を聞くと、クラウドファンディングのプラットフォーム選びというのもなかなかおもしろいですね。

村治:
でもやっぱりそういう意味では、日本はまだ少ないですよね。きっと海外だったらGREENFUNDINGのようなサービスが長い年数をかけて続いているんだと思うんだけど。


G:
なるほど。

G:
質問としてはこれで全部なんですが、最後に締めのようなことを言ってもらえると(笑)

村治:
うーん、そうですねぇ、僕もだいぶ話せたので……特にないですかね。

G:
分かりました、長い時間ありがとうございました。

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in インタビュー,   動画,   ピックアップ, Posted by darkhorse

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