サイエンス

月を歩いて一周するにはどれほどの時間がかかるのか?

by NASA's Marshall Space Flight Center

近年、アメリカ航空宇宙局(NASA)が再び人類を月面に送る「アルテミス計画」を計画するなど、数十年ぶりに人類が月面に着陸する期待が高まっています。そんな中、「月面を歩いて一周するにはどれほどの時間がかかるのか?」という疑問について、科学系メディアのLive Scienceが解説しています。

How long would it take to walk around the moon? | Live Science
https://www.livescience.com/walking-around-the-moon.html

NASAが行った有人月面探査では実際に月の上を歩く宇宙飛行士たちの映像も記録されており、「重力が地球の6分の1」という特殊な環境である月面での歩行がどのようなものかをうかがい知ることができます。

Astronauts falling on the Moon, NASA Apollo Mission Landed on the Lunar Surface - YouTube


月面の宇宙飛行士が荷物を落としてしまい、拾おうとしたところ……


小さすぎる重力のせいで上手に動くことができずコケてしまいました。


一度コケてしまうと立ちあがるのも大変な様子。


普通に歩くよりも跳ねた方が移動しやすいと気付いたのか……


両足をそろえてピョンピョン跳ねながら月面を移動する宇宙飛行士。


それでもコケてしまう時はコケてしまうようです。


両手を前に突き出したままジャンプして移動する様子は、どこかキョンシーを連想させます。


NASAによると、アポロ計画の期間中に宇宙飛行士たちが月面を歩行するスピードは時速2.2kmほどだったそうですが、これは主に機動性が考慮されていない宇宙服が原因だったとのこと。ジェット機内で月面の重力を再現し、トレッドミルを使って歩行速度を確かめた2014年の研究では、被験者らは時速5kmほどの地球上とほぼ同じ速度で歩くことができると判明しました。

ジェット機内で時速5kmの歩行が可能だったのは、被験者が「両手を振りながら歩く」ことができたからだそうで、腕を振り子のように動かすことで重力の欠如を部分的に補うことができるとのこと。そのため、分厚さを軽減して動きやすい宇宙服が採用されれば、月面でも時速5kmほどで歩くことが可能になるとみられています。

月面の円周は約1万921kmであるため、時速5kmで歩き続けることができれば「約91日」で月を一周することができます。もちろん、この計算には食事や睡眠の時間が含まれていないことに加え、実際に月面を歩いて一周するには「物資の輸送」「睡眠する場所の確保」「ルートの選定」「宇宙服の改善」といったさまざまな課題があります。


欧州宇宙機関(ESA)の科学顧問であるAidan Cowley氏は水・食料・酸素などの輸送や睡眠する場所の確保について、「ロジスティクス的には可能だと思います」とコメント。膨大な水・食料・酸素を背負って持ち運ぶことは困難ですが、「睡眠場所や避難所を兼ねた大型のサポート車両」に物資を詰め込み、車両と共に歩行することで物資を輸送することができます。これにより、日中はサポート車両と共に歩き、夜になれば車両の中に入って休むことが可能です。

さらに、月面での機動性を増すには既存の宇宙服をより動きやすく改善する必要があります。これについても、一部の宇宙開発機関は月面で適切に歩くために必要な「振り子のような腕の動き」を可能にする、より薄い宇宙服の開発を進めているとのこと。


また、月面を歩いて一周する際は最短距離を行くことができるとは限らず、数マイル(数km)もの深さがあるクレーターなどは遠回りする必要があるほか、光や温度についても考慮しなければなりません。Cowley氏は、太陽が当たる月の赤道付近は表面温度が100度に達する一方、太陽の光が当たらない夜の部分はマイナス180度近くまで下がることを指摘。特別に設計された宇宙服やサポート車両によって過酷な環境から宇宙飛行士を保護することができますが、温度変化は月面のレゴリスの状態を変え、移動速度に影響を与える可能性があります。

さらに、月面を移動する上で最も危険なのが、太陽フレアコロナ質量放出によって月面に放出される放射線だとのこと。Cowley氏は、月面には放射線を防ぐ磁場がないため、月面一周の際には放射線からの保護も考える必要があると主張しました。


Cowley氏は、重力が小さい月面で長時間にわたり運動し続けるため、月面一周に挑戦する宇宙飛行士には42.195kmを超えて走るウルトラマラソンの選手並の持久力が必要だと考えています。それでも最高速度で歩き続けられるのは1日3~4時間が限界だそうで、1日の歩行距離を20kmと仮定すれば、月面を歩いて一周するのに「約547日」かかるとのこと。

理論的には月面を歩いて一周することは可能であるものの、人類がこの偉業を達成するのに必要な技術や設備を手に入れるのは、少なくとも2030年代後半~2040年代だろうとCowley氏は指摘。「月面一周のようなことを支援する機関はないでしょう。しかし、クレイジーな億万長者がこれを試してみたいと思ったのなら、彼らは成し遂げられるかもしれません」と述べました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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