サイエンス

「なぜ冷たい物で歯がしみるのか」という謎がついに解明される


アイスなどの冷たい食べ物を口にした際、歯に鋭い痛みを感じた経験がある人は少なくないはず。痛みを感じる仕組みについては、歯の主成分である「象牙質」が関係しているとされていましたが、2021年3月26日に公開された論文から、より詳しい原理が明らかになっています。

Odontoblast TRPC5 channels signal cold pain in teeth | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/7/13/eabf5567

Cold Tooth Pain's Mysterious Molecular Culprit - The New York Times
https://www.nytimes.com/2021/03/26/science/tooth-pain-cold.html

How teeth sense the cold -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/03/210326151348.htm

歯の表面は厚さ1mm~2mm程度のエナメル質で覆われており、その下に歯の主体をなす象牙質があり、さらにその下にいわゆる「歯の神経」である歯髄などと続く構造をとっています。冷たさを含む何らかの刺激によって歯が痛む理由としては、象牙質の中にある細い管「象牙細管」内の組織液の流れが外来の刺激によって変化し、それにより歯髄内の知覚神経が興奮し痛みが生じるというが有力でした。


しかし、これまでこの説を裏付ける明確な原理は分かっておらず、不明な点も多くありました。

約15年前、ドイツにあるフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク大学の生理学教授、カタリナ・ジマーマン博士らが、TRPC5と呼ばれるイオンチャネルが寒さに敏感に反応することを発見しました。イオンチャネルは生体膜にある膜貫通型タンパク質で、刺激によって活性化すると特定のイオンを通し、その際の電位差により感覚神経が興奮することで人は痛みなどを感じます。


TRPC5などのイオンチャネルは人の体の至るところに存在し、例えば寒さによって角膜のイオンチャネルが活性化されると、目が冷たく乾燥するといった現象を引き起こします。しかし、TRPC5のような冷たさを感じるイオンチャネルが体のどの部分で作用するのかは詳しく分かっていませんでした。

ジマーマン博士の研究パートナーであり、マサチューセッツ総合病院病理医であるヨッヘン・レナーツ氏は、人間の歯にイオンチャネルがないか調査したところ、TRPC5が歯に存在することを確認。

ジマーマン博士らは歯のTRPC5の働きを調査するため、マウスの損傷した臼歯から伝わる神経信号を測定する方法を構築しました。そして、正常なマウスと、TRPC5の働きを阻害するように改変したマウスが刺激にどのように反応するかを測定しました。正常なマウスは氷のような冷たい溶液が歯に触れた時にTRPC5が働き、神経信号が記録されましたが、TRPC5の働きが阻害されたマウスは神経信号が記録されなかったとのこと。


さらにジマーマン博士らは、TRPC5が象牙質と歯髄の間にある「象牙芽細胞」に存在することを確認します。象牙芽細胞は知覚を助けるのではなく、象牙質を形成することで知られていたので、ジマーマン博士らにとっては驚きの発見だったとのこと。ジマーマン博士らは最終的に「冷たいという信号が象牙質に到達すると、TRPC5が活性化し、感覚が脳に伝わる」と結論付けています。

また、ジマーマン博士らはTRPC5の働きを阻害する物質の1つとして、チョウジ油の主成分であるオイゲノールを挙げています。オイゲノールは歯痛の伝統的な治療法として良く使用されているものであるとのこと。ジマーマン博士らは「歯痛の原因がTRPC5によって引き起こされるという知識は、より良い治療法の開発に役立つでしょう」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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