裕福な人ほど社会的距離を保ったりマスクを着用したりする割合が高いとの研究結果
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴って、各国では社会的距離を保ったりマスクを着用したりする衛生対策が奨励されましたが、全ての人々がパンデミックに対する防御行動に従事したわけではありません。アメリカやイギリスの研究チームが発表した論文では、「収入が高い人ほどパンデミックの初期に自分を守る防御行動に従事する割合が高かった」ことが判明しました。
Socio-demographic factors associated with self-protecting behavior during the Covid-19 pandemic | SpringerLink
https://link.springer.com/article/10.1007/s00148-020-00818-x
The Richer You are, The More Likely You’ll Social Distance, Study Finds « News from The Johns Hopkins University
https://releases.jhu.edu/2021/01/14/the-richer-you-are-the-more-likely-youll-social-distance-study-finds/
パンデミックが起きた際に社会的距離を取ったりマスクを着用したりすることは、自分自身の感染リスクを下げるだけでなく、他人に感染させるリスクも軽減します。しかし、全ての人々がこうした防御行動に従事しているわけではなく、一部の人々はパンデミック後も推奨される行動に従わない場合があります。
そこで、ジョンズ・ホプキンス大学で経済学の准教授を務めるNick Papageorge氏が率いる研究チームは、アメリカでCOVID-19のパンデミックが起きていた2020年4月に、テキサス・フロリダ・カリフォルニア・ニューヨークに住む1000人の人々を対象にアンケートを実施しました。アンケートでは、パンデミックによってどれほど普段の行動が変化したのかや、収入・性別・人種・仕事や住宅の質といった項目について尋ねたとのこと。
以下のグラフは、アンケート回答者を年収で5つのグループに分割し、それぞれのグループがどれほどパンデミックに応じて防御行動を取ったのかを示したもの。1番左のグループは年収平均が1万3775ドル(約150万円)となっており、右に行くにつれて次第に年収平均が上がり、1番右のグループは年収平均が23万3895ドル(約2550万円)だとのこと。黒い丸が「全般的な行動変容(Changed Behavior)」、黒い三角が「手洗いやマスクの着用(Increased Hand Washing-Mask Wearing)」、黒い四角が「社会的距離の増加(Increased Social Distancing)」を示しており、年収が高くなるにつれて防御行動を取る割合が増える傾向が見て取れます。
研究チームによると、年収の平均が最も高い裕福なグループは年収平均が最も低いグループと比較して、何らかの防御行動を取る割合が54%も高かったとのこと。パンデミックに応じて防御行動を取ることは自身の感染リスクを下げるメリットがありますが、それにもかかわらず年収によって行動変容の差が出た理由について、研究チームは「裕福な人々の方が防御行動を取ることが簡単だからではないか」と考えています。
たとえば社会的距離を保つかどうかを予測する最も大きな因子として、研究チームは「在宅勤務ができる仕事についているかどうか」が浮上したと指摘。パンデミック前と変わらず通勤し続けた人に対し、在宅勤務に移行することができる人々は、24%も社会的距離を保つ可能性が高かったとのこと。
そして、在宅勤務ができるかどうかは個人の年収に関連しています。最も裕福なグループは「自宅で仕事をすることができる」と回答する割合が高く、職を失うことなく在宅勤務に移行することができた可能性が高い一方、年収が低い人々は在宅勤務ができる割合が低かったそうです。
さらに研究チームは、「自宅の敷地内に庭などの屋外空間があるかどうか」も、社会的距離を保つかどうかの予測因子になっていることを発見。庭などがあるため自宅内で屋外へアクセスできる人は、そうでない人に比べて20%も社会的距離を保つ割合が高かったとのこと。Papageorge氏は、「快適な家に住んでいない人がより多く家を離れることは、驚きではありません」とコメントしました。
以上の結果から、研究チームは収入が最も多い人々にとって社会的距離を保つことは簡単だったものの、収入が低い人はパンデミック後も在宅勤務に移行したり庭で遊んだりすることができず、社会的距離を保つことが難しかった可能性があると指摘。政策立案者は年収によって人々の行動が変わる点も考慮に入れ、病気の拡大や対策を立てる必要があると訴えました。
なお、今回のデータからは「女性の方が男性よりも社会的距離を保つ割合が23%高い」「既存の健康状態はパンデミックに伴う行動変容の増加と関係していない」といった結果もわかったとのことです。
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