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社会的距離を取る施策の経済的ダメージと救われた命の費用対効果を計算すると約560兆円の利益になると研究者が主張


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の被害を可能な限り抑えるため、各国では不要不急の外出を控える政策がとられたり、強制的な都市封鎖が実施されたりしています。社会的距離を取る戦略については「経済へのダメージが大きすぎる」との非難もあり、アメリカでは各地で都市封鎖に対する抗議デモが行われています。しかし、アメリカの研究チームが行った新たな分析では、「社会的距離を取ったことによる経済的ダメージと救われた命の価値の費用対効果を計算すると、およそ560兆円の利益になる」との結果が示されました。

The Benefits and Costs of Using Social Distancing to Flatten the Curve for COVID-19 by Linda Thunstrom, Stephen Newbold, David Finnoff, Madison Ashworth, Jason F. Shogren :: SSRN
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3561934

The value of lives saved by social distancing outweighs the costs | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/04/the-value-of-lives-saved-by-social-distancing-outweighs-the-costs/


ウイルスの感染を防ぐためには社会的距離を保つことが重要ですが、社会的距離を取ることで従来のような経済活動が不可能となり、経済へのダメージが深刻化するとの指摘もあります。国際労働機関(ILO)のガイ・ライダー事務局長は「先進国でも発展途上国でも、労働者や企業が壊滅的状況に直面している」と述べ、2020年末の全世界における失業者数が2500万人を大幅に上回る可能性が高いと報告しています。

そこでワイオミング大学の研究チームは、社会的距離を取る戦略で「救われた命の価値」を金額に換算し、都市封鎖による損失と比較するという分析を行いました。人の命に値段を付けることは気分がよくないかもしれませんが、現実として社会は人々の命を守るために多額のコストを費やしており、社会が人の命にかなり高い価値を付けていることは明らかだとのこと。

自動車など時に人の命を奪いかねないものに関するポリシーを定めるに当たって、アメリカ合衆国連邦政府は「命の価値」を付ける必要があります。リスクの高い職場において、労働者1万人当たりの死亡者が1人増えるにつれて全体の給与額は1000万ドル(約11億円)増えるそうで、連邦政府機関は「統計的生命の価値」を1人当たり1000万ドルと見積もってさまざまな政策に反映しているとのこと。研究チームはこの「1人当たり1000万ドル」という命の価値を用いて、社会的距離を取ったことによる損失との比較を行いました。


いくらパンデミックによって社会的距離を保ったとはいえ、対人の接触を完全になくすことはできません。研究チームは人々が社会的距離を取ることにより、人と人の接触が従来より38%減少したシナリオを想定し、多数のベンチマークから「社会的距離を保つことにより、アメリカ全体で124万人の命が救われる」と算出しました。統計的生命の価値が1000万ドルだとすれば、124万人の命が救われることによって12兆4000億ドル(約1330兆円)もの節約ができることになります。

続いて研究チームは、社会的距離を取ることによる経済へのダメージを算出するために、ゴールドマン・サックスの「社会的距離を取ったことにより、アメリカにおける2020年の年間GDPはマイナス6.2%に落ち込む」との予測を元に計算を行いました。この場合、社会的距離を取ったことで発生する年間の損失は13兆7000億ドル(約1470兆円)になるとのこと。

さらに研究チームは、「COVID-19への対策として社会的距離を取らずにパンデミックを乗り越えた場合の損失」についても計算しています。COVID-19のパンデミックが発生した状況下で社会的距離を取らなければ多くの人々が亡くなったり入院したりして、場合によっては医療崩壊も起きてその他の病気や外傷の治療にも影響が出るため、経済へのダメージがゼロになるわけではありません。多くの研究者らはノーガード戦法でCOVID-19のパンデミックに立ち向かった場合、年間のGDPは1.5~8.4%の損失になると算出していますが、研究チームはやや小さめに「2%の損失」で計算を行いました。この場合、年間の経済的損失は6兆4900億ドル(約700兆円)となります。

以上の計算を元に、まず「社会的距離を取った場合の経済的損失(13兆7000億ドル)」から「社会的距離を取らなかった場合の経済的損失(6兆4900億ドル)」を引いて、社会的距離を取ったことによる実質的な損失は7兆2100億ドル(約770兆円)と算出。続いて社会的距離を取ったことで救われた命の価値(12兆4000億ドル)から社会への損失(7兆2100億ドル)を引いて、研究チームは「社会的距離を取ることにより、全体では5兆1600億ドル(約560兆円)の利益になります」と結論付けています。


もちろん、COVID-19のパンデミックは進行中の事態であり、今回の計算に使われた数値は常に変動していることを研究チームは認めています。社会的距離を取らなかった最悪のケースではアメリカ国内の死者が220万人近くに上るとの試算もあり、経済への本当の影響も依然として不明確です。

なお、1918年に流行したスペインかぜの事例を元に行われた分析では、「積極的に社会や市民の活動を制限する取り組みをした方が、規制解除後の経済成長が大きくなる」と指摘されました。この結果から、パンデミックそれ自体が経済への深刻なダメージを与えるものである以上、パンデミックへの対策と経済は単純なトレードオフではなく、パンデミックを積極的に抑える取り組みが結果的に経済にも好影響を与える可能性が示唆されています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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