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【訃報】チャレンジャー号爆発事故でNASAの隠ぺいを告発した技術者のアラン・マクドナルド氏死去


1986年にスペースシャトルのチャレンジャー号が打ち上げ直後に空中分解し、7名の乗組員が全員死亡した「チャレンジャー号爆発事故」で、「技術的な懸念から打ち上げに反対したにもかかわらず、NASAが打ち上げを強行した」と告発した技術者のアラン・マクドナルド氏が2021年3月6日に、転倒による脳挫傷で亡くなりました。享年83歳でした。

Allan McDonald, Who Refused To Approve Shuttle Challenger Launch, Dead At 83 : NPR
https://www.npr.org/2021/03/07/974534021/remembering-allan-mcdonald-he-refused-to-approve-challenger-launch-exposed-cover


1986年1月28日、フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられたチャレンジャー号は、打ち上げから78秒後に空中分解しました。全米を揺るがす大事故として大きな注目を集めたチャレンジャー号の空中分解の瞬間は、以下のムービーから見ることができます。

Space shuttle Challenger exploding during launch - YouTube


その後の分析から、事故の直接的な原因が「スペースシャトルに取り付けられていた固体燃料補助ロケット(SRB)のOリングの破損」であることが判明しました。燃料漏れを防ぐためのOリングが弾性を失って破損し、気密性が損なわれてしまったために、打ち上げ直後のSRBから高圧・高温のガスが漏れ出てしまい、各所の構造崩壊を招いたことがチャレンジャー号の空中分解につながったというわけです。

SRBの設計・製造を担当したロケット製造企業のモートン=サイオコール(現ATKランチ・システムズ)の主任技術者だったマクドナルド氏をはじめとする技術者チームは、「気温12℃以下だとOリングが気密性を十分維持できるだけの弾性を有しているとは断言できない」と以前から主張。打ち上げ前夜にSBRが冷えてしまうことで、Oリングの弾性が確実に失われると予想し、打ち上げには強く反対していました。

打ち上げ当日の早朝に撮影された発射台の写真が以下。技術者たちの予想通り、当日は氷点下の気温で打ち上げ台が凍りつき、スペースシャトルには霜がつき、打ち上げ台の手すりにはつららが垂れています。


マクドナルド氏は打ち上げを認可する書類へのサインを拒否した上で、気温が12℃を下回る状態で発射するべきではないという意見を技術者チームと共同で書面にまとめ、NASAに提出しました。しかしNASA上層部は、それまでのスペースシャトルの打ち上げでも問題がなかったこと、またOリングの破損を示すデータが不足していたと主張。「スペースシャトルの安全性は極めて高い」と判断し、技術者チームの意見を無視しました。

事故が起こった当時、NASAは情報公開に消極的であったため、透明性が欠如していると批判されました。そして、NASA自身による事故調査は信頼性に乏しいという理由から、チャレンジャー号爆発事故を調査するための「スペースシャトルチャレンジャー号事故調査大統領委員会(ロジャース委員会)」が発足することになりました。


事故の12日後にロジャース委員会が開催した非公開の公聴会で一通りの証言陳述が終わった時、傍聴席に座っていたマクドナルド氏は「NASAはまだすべてを話していない!」と声を挙げました。委員長のウィリアム・P・ロジャース上院議員から証言を促されたマクドナルド氏は、モートン=サイオコールの技術者たちがOリングの硬化を以前から指摘していたこと、さらに反対意見が完全に無視されて打ち上げが強行されたことを告発しました。

マクドナルド氏は証言席ですべてを訴え終わったあと、両手で顔をおおい、号泣したとのこと。また、同じくNASAの打ち上げ強行について証言した他の技術者も皆マクドナルド氏と同じように涙を流したそうです。


マクドナルド氏は、ロジャース委員会に参加していた理論物理学者のリチャード・ファインマン氏や他の技術者と共に、低温で弾性を失ったOリングが空中分解の原因となったことを示すデータをまとめました。ファインマン氏は委員会の席上で、SBRに使われたOリングと同じ物質を氷水につける実験を行い、マクドナルド氏らの主張を実証してみせたそうです。

その後の調査で、NASAのずさんな安全管理と情報伝達が事故の根本的な原因であることが明らかになりました。本来NASAは打ち上げを進めるためには技術者チームに対し「高い安全性の根拠」を示す義務がありましたが、NASAはこれを軽視していました。また、NASA上層部の科学的理解が浅かった上に、NASA上層部と技術者の間で情報の連絡が正しく行われておらず、技術者チームらのOリングへの懸念がNASA内部で周知されていなかったことも、事故を招いた一因として指摘されています。

さらに、主任技術者であるマクドナルド氏がサインを拒否した署名には、モートン=サイオコールの上司が勝手に署名をし、チャレンジャー号の打ち上げが強行されたことも判明。このことから、ロジャース委員会はNASAに対し新しい安全管理体制を整えるように命令しました。しかし、2003年に発生したコロンビア号空中分解事故で、NASAは「あいかわらず安全を軽視する風潮にあった」と強く批判されています。

なお、公聴会において飛び込みで告発を行ったマクドナルド氏ら技術者は、モートン=サイオコールから左遷させられたとのこと。しかし、ロジャース委員会のメンバーがこの報復人事を問題視し、「モートン=サイオコールが今後NASAと契約することを禁じざるを得ない」と警告。その結果、マクドナルド氏は逆に昇進し、SRBの接続部の再設計を担当することとなりました。マクドナルド氏は2001年までモートン=サイオコールに勤務し、退職後にチャレンジャー号についての論文を著しています。

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in メモ,   乗り物,   動画, Posted by log1i_yk

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