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新型コロナの「接触確認アプリ」は本当に役に立っているのか?


2021年2月に、日本の接触確認アプリ「COCOA」のAndroid版に「約半年間にわたって接触通知が届かない不具合があった」と厚生労働省が発表するなど、接触確認アプリにはその有効性が疑問視される場面もあります。科学誌Natureが、世界各国で使用されている接触確認アプリの事例から、「接触確認アプリの有効性や問題点」についてまとめました。

Contact-tracing apps help reduce COVID infections, data suggest
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00451-y

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが本格化するにつれて、世界の多くの国々で接触確認アプリが使用されるようになりました。しかし、プライバシー保護の必要性から、接触確認アプリのデータは高度に匿名化されているため、「本当に接触確認アプリが有効なのか?」の裏付けを行うのは困難とされてきました。

しかし、いくつかの国で収集されているデータからは、アプリが感染拡大の防止に役立つ公衆衛生対策ツールだということが分かり始めているとのこと。スイスの接触確認アプリ「SwissCovid」の検証を行っているチューリッヒ大学の疫学者であるビクトール・フォン・ウィル氏は、Natureの取材に対し「接触確認アプリの研究で集められたデータは、アプリを採用すべきか否かの意志決定には大変役立つものです」と述べています。


実際に、接触確認アプリの有効性を示す研究も発表されています。イギリスの研究者は2021年2月9日に、2020年9月にイギリスでリリースされた接触確認アプリ「NHS COVID-19」についての検証結果を論文として発表しました。この論文はまだ査読を受けていませんが、論文の中で研究者らは「接触確認アプリは2020年10月~12月の間に22万4000人への感染拡大を防ぎました」と述べています。

研究チームの一員であるオックスフォード大学のルカ・フェレッティ氏は「イギリスの接触確認アプリは、これまで2100万台以上の端末にダウンロードされ、約1650万人が継続して使用しています。これは人口の28%、携帯端末の所有者の49%に相当します」と述べて、イギリスで接触確認アプリの普及が進んでいることが、アプリの有効性に寄与しているとの見方を示しました。

しかし、フォン・ウィル氏によると、アプリが利用されたからといって、そのことを感染拡大の抑制と結び付けるのは難しいとのこと。「暴露通知を受けた人がいたとしても、その人が通常の接触者追跡調査で特定される可能性もあるため、アプリのおかげとは限らないわけです」と、フォン・ウィル氏は述べています。


イギリス以外の地域からも、アプリの有効性を示すデータが報告されています。2021年1月に発表された、スペインの接触確認アプリ「Radar Covid」に関する論文には、「2020年7月にカナリア諸島で実施された試験により、接触確認アプリは通常の追跡の2倍の割合で感染者を特定することができると結果が得られた」と報告されています。また、フォン・ウィル氏らの論文にも、「SwissCovidはチューリッヒで検査を受ける人を5%増加させ、増加した分の17%が実際に陽性だった」と書かれています。

この結果はあまり目覚ましいものではないと感じる人もいますが、フォン・ウィル氏は「1回でも拡散が防げれば、その後の感染拡大が抑制されるため、意義はあります」と述べています。

接触確認アプリの強みは、通常の追跡調査より「非同居者の接触」を確認しやすい点にあります。フォン・ウィル氏によると、「SwissCovidで同居していない感染者との接触を知らされた人」が検査を受けるまでの期間は、同様のケースを対象とした通常の追跡調査での通知に比べて「1日分早い」とのこと。オックスフォード大学の研究チームも、「NHS COVID-19による通知は、接触者が検査を受けるまでの時間を1~2日短縮している」と評価しています。


接触確認アプリに関する研究では、アプリの有効性がどのような要因で妨げられているかの課題も浮き彫りになっています。例えば、スイスでは検査で陽性の結果が出た場合、地域の保健当局がコードを発行し、ユーザーがそれをSwissCovidに入力することになっています。コードの発行や入力を手動で行うという仕様は、「2020年末にスイスで感染が爆発的に増加し保健当局がパンクした際に、SwissCovidも機能不全になってしまった」という結果を招きました。

スペインでも、同様の事例が報告されています。Radar Covidの検証を主導したクイーン・メアリー大学のルーカス・ラカサ氏は、「スペインには17の自治州がありますが、すべての州がRadar Covidの使用を促進しているわけではありません。これは、感染にさらされた人がせっかく接触確認アプリをインストールしていても、その人に通知が届かないこともあるということを意味しており、大変残念です」とコメントしました。


一方、接触確認アプリに新たな活用法を見いだす研究にも注目が集まっています。アメリカ・アリゾナ州の接触確認アプリ「Covid Watch Arizona」の効果を検証しているアリゾナ大学ツーソン校のジョアンナ・マゼル氏は「COVID-19患者の感染性に応じたリスクを測定できる機能を検討しています。例えば、アプリにはユーザーが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株を保有しているかどうかのデータを盛り込むことが可能です」と述べました。

ただし、フォン・ウィル氏は「プライバシーへの懸念が高まっているため、より多くのデータを収集しようとすれば、かえって多くのユーザーを失うおそれがあります」と述べており、アプリが収集するデータを拡大させることに対しては、専門家の間でも賛否が分かれているとのことです。

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in モバイル,   ソフトウェア, Posted by log1l_ks

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