お互いを信じられない社会が支払うはめになる「不信の対価」とは?
技術の進歩によって現代人の暮らしは急激に便利になりましたが、同時に人と人とのつながりは疎遠になりつつあるとよく指摘されています。人々がお互いを信じられなくなった結果、社会から失われた「社会関係資本」という財産や、人々が支払う事になった「取引コスト」という費用について、教養をテーマとるするブログのFarnam Streetが論じています。
The High Price of Mistrust – Farnam Street
https://fs.blog/2021/01/mistrust/
アメリカの政治学者であるロバート・パットナム氏は、2001年に出版された自著「Bowling Alone」の中で、「相互の信頼関係が希薄になるということは、コミュニティ衰退の原因であり、その結果でもあります。そして、その不信感は高く付きます」と説きました。パットナム氏がBowling Aloneを著してから20年が経過した2021年の社会にも、この法則は色濃く息づいているとFarnam Streetは指摘しています。
Amazon | Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community | Putnam, Robert D. | 20th Century
例えば、隣家と家族ぐるみで付き合いがある家庭は、自分が忙しい時に子どもを学校に迎えに行ってもらったり、逆に隣家が忙しい時にお隣の子どもの面倒を見たりして、助け合うことが可能です。しかし、これができない場合はお金を出して子どもを保育施設に預けたり、子どもが学校から帰ってきた後に何かをするのを諦めたりしなければならなくなります。
このように、社会関係の希薄化によって失われるものを、パットナム氏は「社会関係資本」と呼びました。その意味についてパットナム氏は「工具のような物理的資本も、大学教育のような人的資本も個人や社会の生産性を向上させます。同様に、社会的なつながりも個人や集団の生産性に影響を与えているのです」と説明しています。
社会関係資本が減少すると、逆に増加していくものもあります。それが、「取引コスト」です。例えば、治安が良い地域では路傍の無人販売店で野菜などが売られていることがありますが、人を信用できず野菜やお金を盗まれることを心配しなければならない場合は、売り子を置いて店番をさせたり、スーパーに卸したりすることになります。この時、農家が売り子を雇うための賃金や、無人販売店の価格に上乗せされたスーパーの価格との差額分が取引コストです。
by Franzfoto
こうした取引コストは、生活のありとあらゆる場面で人々にのしかかってきます。隣の人と物を貸し借りできない人は、1度しか使わないような家電や家具を購入しなければならず、従業員が信用できない雇用主は遠隔監視ソフトを購入して従業員のPCにインストールしなければなりません。また家族が信頼できなければ、スマートフォンの検索履歴を盗み見たり、自室に鍵をかけたりしはじめるようになってしまいます。
こうした点からFarnam Streetは、「パットナム氏の本から学べる1つの教訓は、信頼関係を構築することには絶対的な価値があるということです。そして、どうすれば信頼関係が築けるかを知るには、人と交流する以外にありません。既存のコミュニティに参加したり、新しいコミュニティを作ったりすることで、私たちは信頼関係を築くことができます。私たちが人を信じることをいとわなければ、私たちは人に裏切られるリスクより何倍も多くの見返りを得られるはずです」と述べました。
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