「アメリカでは5200兆円以上を上位1%の大富豪が下層から巻き上げてきた」という研究結果
2021年2月11日時点でアメリカにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の総感染者数は2740万人超、総死亡者数は47万人超。新規感染者数はピークを過ぎて減少傾向にありますが、それでも「1日約10万人」という状況が続いています。こうした惨状について、アメリカの大手紙TIMEが「『上位1%の大富豪が50兆ドル(約5240兆円)を下層から巻き上げてきた』という問題が根底にある」と指摘しています。
America's 1% Has Taken $50 Trillion From the Bottom 90% | Time
https://time.com/5888024/50-trillion-income-inequality-america/
TIME紙の指摘は、ケネス・アローやハーバート・サイモン、ジョン・ナッシュ、ドナルド・ラムズフェルド元国防長官などを輩出したことでも知られるシンクタンクのランド研究所の研究に基づいています。同研究所のカーター・プライス氏とキャスリン・エドワード氏は2020年に「課税所得の不平等が拡大し、所得下位90%は1975年から2018年にかけて総額47兆ドル(約4930兆円)を余計に支払わされてきた」という研究結果を発表しました。この不平等は直近である2018年には2.5兆ドル(約262兆円)だったため、同様の傾向が2019年と2020年にも続いたと考えた場合には、2020年までに総額50兆ドル(約5240兆円)以上を所得下位90%が支払わされてきたという計算になります。
Trends in Income From 1975 to 2018 | RAND
https://www.rand.org/pubs/working_papers/WRA516-1.html
プライス氏らの主張によると、1947~1975年の戦後約30年間は課税所得はほぼ平等で最貧困層も最富裕層も同じ経済成長を享受できたものの、その後は所得上位1%の大富豪のみが経済成長を享受する状況に変遷したとのこと。例えば年収3万5000ドル(約370万円)の典型的な黒人男性の場合は、富の再分配が公平に行われた場合よりも年収が2万6000ドル(約270万円)も少なく、年収7万2000ドル(約750万円)のエンジニアの場合は年収が4万8000~6万3000ドル(約500~660万円)も少ない計算です。2018年時点の格差である2.5兆ドルというのは、アメリカのGDPの12%に相当する額であり、「アメリカの所得下位90%に毎月1144ドル(約11万9900円)を支給する」ことができる額です。
働き盛りと定義される25~54歳がフルタイムで働いた場合の年収について、課税所得がほぼ平等だった最後の年である1975年と2018年、そして現実には起こりえなかった「Counterfactual(課税所得が平等な2018年)」の3つを比較した表が以下。年収のMedian(中央値)は、1975年では4万2000ドル(約440万円)、2018年では5万ドル(約520万円)ですが、仮に課税所得が平等で経済成長を平等に享受できていれば9万2000ドル(約960万円)になり得ていました。一方、Top 1% Mean(所得上位1%の平均値)は、1975年では28万9000ドル(約3020万円)、2018年では138万4000ドル(約1億4500万円)ですが、仮に課税所得が平等だったならば63万ドル(約6600万円)でした。1975年以降は、所得上位1%の人間が不平等な課税所得を追い風に圧倒的に所得を伸ばし続けた時代だったわけです。
所得が低い夫婦の子どもは所得が低くなるという貧困の再生産の問題に加えて、低所得はいまや生死の問題に直結しています。低所得層はCOVID-19の重病化リスクを高める高血圧・糖尿病などの基礎疾患を抱えている割合が多い上に、感染を抑止するリモートワークも行えず、アメリカの高額な医療費ゆえにCOVID-19感染時は適切な治療が受けられないという状況。低所得層の多い黒人やラテン系においてCOVID-19の影響が特に大きいという現状は、こうした社会経済的な格差が原因だといわれています。
TIME紙は2021年1月に大統領に新たに就任したバイデン政権に対し、「歴史を覆すほど大胆に問題に取り組むことを望みます」と告げ、さもなければアメリカの政治システムと経済システムが同時に崩壊するだろうと述べています。
なお、プライス氏らの研究によると、1975年以降に不平等が是正されてきた分野も存在します。その一例が「男女間格差」で、White Men(白人男性)とWhite Woman(白人女性)の1975年の収入は、男性が3万8000ドル(約398万円)、女性が1万5000ドル(約157万円)と女性の収入は男性の31%程度しかありませんでしたが、2018年には男性が4万4000ドル(約461万円)と女性が3万ドル(約314万円)と女性の収入は男性の68%にまで届いています。これと同様に、人種間格差も近年では縮小傾向にあります。
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