人はなぜ休日にも仕事のメールをチェックしてしまうのか?
待ちに待った休日は仕事から離れてのんびり過ごそうと決意したものの、ついスマートフォンやPCで仕事のメールをチェックしてしまい、リラックスできないという経験がある人も多いはず。なぜ休みの日に仕事のメールを確認してしまうのか、どうすればメールを確認しないですむのかについて、シドニー大学ビジネススクールのダン・ケプラー准教授が解説しています。
Here's why you're checking work emails on holidays (and how to stop)
https://theconversation.com/heres-why-youre-checking-work-emails-on-holidays-and-how-to-stop-148720
休日なのに仕事のメールが気になってしまったり、仕事の用件を思い出してメールを送ってしまったりと、どうしても仕事が頭から離れないのは困りものです。ケプラー氏は仕事モードから休暇モードへの切り替えがうまくいかない理由について、「仕事が強いアイデンティティになってしまっている」可能性があると指摘します。
人間は「自分は何者なのか?」という質問に対する答えを切望しており、これに対する答えの1つは日々行っている活動の中にあるとのこと。もちろん、仕事も日々の活動の中に含まれており、自分で選んだ仕事であろうと必要に迫られて仕方なく行っている仕事であろうと、アイデンティティを形成する存在になり得るそうです。
仕事に関連するアイデンティティには、「自分は弁護士である」といった職業そのものに基づく「職業的アイデンティティ」や、「自分はGoogleの従業員である」といった所属する組織に基づく「組織的アイデンティティ」、そして「自分は職場で最も優れた労働者だ」といったパフォーマンスに基づいた「パフォーマンスベースのアイデンティティ」などがあります。
仕事に基づいたアイデンティティを形成すること自体にはメリットも多く、仕事のモチベーションやパフォーマンスだけでなく健康状態の改善にも役立ちます。しかし、仕事に基づいた強固なアイデンティティを持つことは、仕事モードから休暇モードへの切り替えを妨げることにもつながるとのこと。
人々は複数のアイデンティティを持っていますが、アイデンティティの相対的な範囲や組み合わせは人それぞれです。もし、仕事に関連したアイデンティティが自分にとって中心的な位置を占めている場合、勤務中だけでなく終業後や休暇中にも仕事について考える可能性が高くなります。仕事がアイデンティティになっている人は上司によって強制されるのではなく、自分らしくいる仕事以外の方法が想像できず、結果的に休日も仕事をしてしまうとケプラー氏は指摘しています。
仕事がアイデンティティの一部になっている場合、スマートフォンやPCなど仕事を連想させるものを身の回りから遠ざけ、一定の期間デジタル製品の使用を控えるデジタル・デトックスを行うことを検討してもいいかもしれません。新型コロナウイルスのパンデミックに伴う在宅勤務の増加により、多くの人々が職場と自宅の区別を失っているため、デジタル・デトックスなどで仕事とプライベートを分離する努力はますます重要になっています。
また、ケプラー氏は「自分のアイデンティティ」に焦点を当てた対策として、仕事のアイデンティティを刺激する物体を遠ざけた後、「他のアイデンティティを刺激するもの」を身の回りに配置するという対策を提唱しています。たとえば趣味でテニスをやっている人ならテニスラケットを、音楽をやっている人ならギターを目に付く場所に置いておくことで、仕事以外のアイデンティティを刺激できるとのこと。
別の方法としては、仕事以外のアイデンティティを新たに獲得するというものもあります。これまでの自分が得ていないアイデンティティを新たに見つけることは大変ですが、これは仕事に基づいたアイデンティティに悩まされている人にとって、効果的な解毒剤になる可能性があるとケプラー氏は述べています。
一方で、「休暇中は何が何でも仕事のことを考えないようにする」と努力することは、かえって逆効果になる危険があるとのこと。無理に特定の思考を抑制しようとすると、逆にその思考について考えてしまうと研究で示されているため、仕事について考えてしまった場合は一度それを受け入れて、それから自然に別のことへ思考を移すのがいいそうです。
ケプラー氏は、「最終的な目的は自分自身を『仕事以上のもので定義された複雑な存在』と見なすことで、仕事から離れた貴重な時間を最大限に活用できるようにすることです」と述べました。
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