メモ

数千件のバードストライクを調査した「羽毛探偵」ロキシー・レイボーン


1960年、乗客乗員72人の乗った旅客機がバードストライクのため墜落し、62人が死亡するという「アメリカ航空史上最大の犠牲者が出たバードストライク事故」が発生しました。この事故の調査などを通して、「法医鳥類学」を確立したのが、「羽毛探偵」ロキシー・レイボーン氏です。

Roxie Collie Laybourne - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Roxie_Collie_Laybourne

Meet Roxie Laybourne, the Feather Detective Who Changed Aviation | At the Smithsonian | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/smithsonian-institution/meet-roxie-laybourne-feather-detective-who-changed-aviation-180971803/


Roxy Laybourne's eagle eye The nation's bird lady: If the FBI or the FAA wants to solve a case involving birds, they turn to the Smithsonian's Roxy Laybourne. Her investigation of Chinese duck feathers once led to a murder conviction. - Baltimore Sun
https://www.baltimoresun.com/news/bs-xpm-1996-04-02-1996093029-story.html

レイボーン氏は1910年生まれ。1932年からノースカロライナ州立自然史博物館に勤め、1944年からは国立博物館の水産研究所、1946年からは合衆国魚類野生生物局の鳥類・哺乳類研究所に勤めました。キャリアは1960年まで「15年にわたり、剥製師をしている」という状況だったそうです。


転機となったのは、1960年10月4日に発生した、イースタン航空375便墜落事故です。乗員5名、乗客67名を乗せたロッキード L-188 エレクトラは、ボストンにあるローガン国際空港を離陸して6秒後、大きく左に旋回してウィンスロップ湾に墜落。62人が死亡しました。

事故調査に呼ばれたレイボーン氏は、この事故をヨーロッパムクドリの群れによるバードストライクが原因であると結論づけました。ヨーロッパムクドリは1羽の体重はわずか85gほどですが、数百羽~数千羽単位の群れをなすため、この事故では第1エンジン、第2エンジン、第4エンジンがそれぞれ少なくとも1羽以上のムクドリを吸い込んで停止。事故が発生したのは高度わずか120フィート(約37m)のところで、一度は200フィート(約61m)まで上昇し、第2エンジンと第4エンジンも持ち直しましたが、墜落を回避することはできませんでした。ウィンスロップ湾に落ちた機体は2つに折れて海中に沈み、多くの乗客は機体が沈む前に座席から離れることができず犠牲となりました。離陸開始から機体が水中に没するまで、わずか1分未満の事故でした。

レイボーン氏はこの事故調査を皮切りに「法医鳥類学」の先駆者となり、合計で数千件のバードストライク事故の調査を行うに至りました。航空業界は、レイボーン氏による「法医鳥類学」の進展により、バードストライクを起こしやすい種類の鳥を特定し、事前に追い払うなどの対策を講じることができるようになりました。

レイボーン氏がバードストライクのときに行うのが「ロキシー法」と呼ばれる調査です。「ロキシー法」のステップ1は「すべての物的証拠を広範に見て、バードストライクが発生したタイミングから羽が集められたときまでのすべてについて考察する」というもの。レイボーン氏に学んだマーシー・ヒーカー氏は「鼻が樹皮にくっつくぐらい木に近いと、それが何の木なのか見分けることができません。一歩下がって、全体像を見るんです」とレイボーン氏に教わったとのこと。

ステップ2は「羽毛をきれいにする」、そしてステップ3は「羽の微細な構造を顕微鏡で見て、鳥の種類を探る」。このとき、何千種類ものサンプルと比較することもあるそうです。

by Smithsonian Institution

顕微鏡で見るためのスライドは自分たちで作りますが、レイボーン氏は教師としても厳しく、ヒーカー氏の作成法がまずいときは顕微鏡で見ることなく「次のスライドを作って」と言われたとのこと。

そして、ステップ4で2~3種に絞り込みます。

のちに、法医鳥類学にはダヴ氏やヒーカー氏により、DNA分析が取り入れられていきました。レイボーン氏もキャリア後半に出てきたDNA分析のことは知っていたものの、高価で特別なラボが必要だったためあまり好んでいなかったとのこと。

ところが、DNA分析も完璧ではないことを示す事例も現れています。2008年に戦闘機がバードストライクに遭遇する事故がありました。損傷した部位の近くで「スナージ」と呼ばれる、血液や脂肪、羽毛が固まった塗抹標本が採集され、DNA分析にかけられましたが、結果は「オジロジカのものである」という結論でした。しかも、再検査したにもかかわらず、3回とも同一の結果でした。

これに対してダヴ氏らは、ロキシー法の原点に立ち返り、羽の構造の調査に注力。スナージには確かに鹿の毛が混じっていましたが、ほかに、クロコンドルの毛を発見しました。これは「鹿の死骸を食べたクロコンドルが戦闘機と衝突」した結果、DNA分析でコンドルではなくシカのDNAが検出されていたものであると考えられています。

また、バードストライク以外の事件捜査に協力したケースもあります。アラスカ州で起きた妻殺し事件で、当局は犯人が遺体を海に遺棄したと推測しました。残念ながら遺体は見つかりませんでしたが、妻が着用していたとみられるダウンジャケットが岸に漂着。FBIから連絡を受けたレイボーン氏は、ダウンジャケットのアヒルの羽と、夫の車から採取された羽が一致すると結論づけました。「夫が車に何かを積み込んでいる」という目撃証言が寄せられていたことと合わせて、レイボーン氏の分析結果は有罪判決の助けになったとFBI捜査官は述べています。

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in メモ, Posted by logc_nt

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