飛行機に衝突する鳥をドローンで自動的に追い払う技術の研究が進む
By stekelbes
離着陸の段階にある飛行機が鳥に衝突してエンジンの中に吸い込んでしまう「バードストライク」は、飛行機の運航の中でも最も危険なアクシデントの一つとされています。このような問題を避けるために、自律飛行が可能なドローンを使って鳥の群れを効率的に空港から遠ざけるための技術の研究が進められています。
Robotic Herding of a Flock of Birds Using an Unmanned Aerial Vehicle
Engineers teach a drone to herd birds away from airports autonomously
https://techxplore.com/news/2018-08-drone-herd-birds-airports-autonomously.html
この研究は、カリフォルニア工科大学(Caltech)のチャン・スンジョ准教授らの研究チームによって進められているものです。Chung氏は、集団で飛ぶ鳥の群れをドローンを用いて効率的に操るアルゴリズムを開発し、特定エリアに鳥が侵入しないようにすることで、航空機の運航の安全性を高めることを目指しています。
Chung氏がこの研究に関わるようになったきっかけは、2009年にニューヨークで起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故だったそうです。別名「ハドソン川の奇跡」とも呼ばれて映画化もされたこの事故は、ニューアーク空港から離陸直後の旅客機がバードストライクを起こして2つあるエンジンが両方故障してしまい、完全に推力を失って「グライダー」状態になってしまうという、飛行機の運航上では最も危機的な状況に陥ったものでした。
この時に操縦桿を握っていたチェズレイ・サレンバーガー機長が、元アメリカ軍の大尉だったことが、全ての幸運の鍵となっていました。豊富な飛行経験を持つサレンバーガー機長は事態に対して冷静に判断し、人が多く住むマンハッタン島を避けてそのすぐ横を流れるハドソン川に機体を不時着させることを決意。エンジンの力を失い、みるみる高度を落とす機体をサレンバーガー機長は巧みに操り、狙い通りの川の中に不時着させることに成功しました。
この事故を目にしたチャン氏は大きくインスピレーションを受け、自らの研究分野であるロボット工学を使った空域保護の研究に着手しました。チャン氏は「飛行機の搭乗者が無事だった理由は、パイロットが非常に熟練した人物だったということにつきます。もし次に同じようなできごとが起こった場合、このようなハッピーエンディングは二度と起こらないと思ったことから、私は自分の研究分野である自律制御とロボット工学をいかして空域を鳥から守る方法を探り始めました」と述べています。
鳥を特定の空域に近づけないためには、その場所が鳥にとって魅力的でないと考えさせることが重要になってくるとのこと。そのために、既存の方法ではタカなどの大きな鳥を放って威嚇したり、空砲で大きな音を立てることで鳥を追い払ったりする手法が用いられます。しかしこれらの技術は専門性が求められ、費用もかかるためにその運用には一定の限界が存在します。
そこでチャン氏が着目したのが、大きく進化する時期を迎えようとしていたドローンでした。最初は、タカなどと同じように翼を羽ばたかせて鳥を威嚇する「鳥型ロボット」の開発を目指していたチャン氏でしたが、4つのローターを回して飛行するドローンを使っても十分な効果が期待できることがわかったため、方針を転換してドローンの活用を決めたそうです。
鳥を威嚇して追い払う際に最も難しいポイントが「適切な距離を見極めること」であるとのこと。群れで飛ぶ鳥は、互いに近くにいる鳥の動きを見極めながら集団の中で場所を決めるという習性があります。このとき、もし威嚇用のドローンが群れから遠すぎると全く威嚇の効果が発揮されないことになり、逆に群れに近づきすぎると、今度は恐怖心をあおられた鳥がパニックを起こし、群れがバラバラになってしまいます。そのため、最も効率良く群れを追う払うためには、群れから最適な距離を保ちながら、群れを向かわせたい方向にうまく追いやる位置取りが重要になってきます。
その位置取りを行うアルゴリズムの開発のために、チャン氏と元インペリアル・カレッジ・ロンドンの大学院生であるアディタヤ・パランジャープ氏らは、群れの形成と維持、そして反応の様子を研究しました。なお、この際には羊飼いが羊を追う様子が参考にされており、3次元ではなく2次元における挙動が考えられているとのことです。Caltechの航空宇宙分野のポスドクであり、論文の共著者であるキム・キュナン氏は「群れのダイナミクスと追跡者との相互作用を注意深く研究し、自律型ドローンを使用して群れを安全に再配置する数学的に機能する群集アルゴリズムを開発しました」と述べています。
群れの動きを数学的に再現することに成功した研究チームは、次にそのアルゴリズムを使って群れをコントロールするための手法の研究を実施。その結果をもとにチャン氏は、韓国国内の広い畑を使ってドローンによる鳥の追い払いの実証実験を行いました。その結果、1機のドローンによって数十羽の鳥の群れの動きを操り、特定の空域に近づけないようにできることが確認されたそうです。
チャン氏によると、このアルゴリズムの有効性は鳥の数と大きさによって決定されるため、より高い効果を得るためには今後のさらなる研究が必要であるとのこと。まだしばらくの間は従来どおりに大型鳥類や「バードさん」と呼ばれる空砲を持った空港スタッフによる管理が行われることになりそうですが、ドローンが休みなく鳥を追い払うことが可能な時代が訪れると、危険なアクシデント「バードストライク」は大きく減少することも期待できそうです。
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