トウガラシの辛味成分「カプサイシン」が太陽電池の性能向上に役立つことが判明
トウガラシの辛味成分である「カプサイシン」が太陽電池の電力変換効率を上昇させることが発見されました。この発見について、2014年に豆腐の原材料である「にがり」が太陽電池の製造に役立つことを発見したジョン・メジャー氏が解説しています。
Direct Observation on p- to n-Type Transformation of Perovskite Surface Region during Defect Passivation Driving High Photovoltaic Efficiency: Joule
https://www.cell.com/joule/fulltext/S2542-4351(20)30608-5
Solar panels capture more sunlight with capsaicin - the chemical that makes chili peppers spicy
https://theconversation.com/solar-panels-capture-more-sunlight-with-capsaicin-the-chemical-that-makes-chili-peppers-spicy-152901
中国とスウェーデンの合同研究チームは、ペロブスカイト太陽電池の製造過程で、ペロブスカイト構造の前駆体にカプサイシンを振りかけることにより、光エネルギーから電気への変換効率を19.1%から21.88%に向上させ、世界で最も電力変換効率の高いペロブスカイト太陽電池を開発することに成功しました。さらに、カプサイシンを用いたペロブスカイト太陽電池は、室温で800時間保管した後でも初期の変換効率の90%以上の変換効率を維持したとのこと。
ペロブスカイト太陽電池の電力変換効率を低下させる原因として、「製造時にペロブスカイト構造が崩れてしまう」という問題があります。ところが、カプサイシンを加えるとペロブスカイト膜の崩壊が抑えられて、多くの電荷を輸送できるようになるため、電力変換効率が向上するそうです。
この研究について、メジャー氏は自らの経験を踏まえ、「人々は、研究者たちがトウガラシの成分を太陽電池の製造に役立てようと考えるに至ったプロセスを知りたがるでしょう。僕も同じような研究をして不思議に思われたことがあります」と語り、太陽電池の研究開発と食べ物が結びついた経緯を解説しています。
メジャー氏は、テルル化カドミウム太陽電池の製造に使われる毒性のあるカドミウムの代用として、安全な塩化マグネシウムが使えることを2014年に発見しました。塩化マグネシウムは、豆腐の材料の「にがり」として用いられていたことから、「豆腐の材料が太陽電池の製造に役立つ」と報道され、メジャー氏は研究仲間から「豆腐少年(tofu boy)」と呼ばれる様になりました。
「にがり」で太陽電池製造過程の安全性が向上 | Nature ダイジェスト | Nature Research
しかし、当時、メジャー氏は塩化マグネシウムが豆腐の材料として用いられていることを知らず、試行錯誤を重ね、さまざまな化学物質を用いて実験を繰り返した結果、塩化マグネシウムが有用であることを発見したに過ぎないと語っています。
太陽電池はいくつもの層が積み重なって構成されており、「層A」に変更を加えると、「層B」「層C」といった他の層にも変更を加える必要があるため、1つの変化から生み出される結果を予測することが困難です。そのため、太陽電池に関する研究開発は地道な作業の繰り返しであるとメジャー氏は語ります。
今回の発見も同様の試行錯誤が繰り返された結果、「C18H27NO3(カプサイシン)」の効果が認められ、たまたまカプサイシンがトウガラシの辛味成分であっただけであり、研究者が「トウガラシを使ってみよう!」とひらめいたわけではないとのこと。
最後にメジャー氏は、「もし、近い将来『ナツメグが太陽電池の性能を向上させた』という記事を読んだら、『賞味期限切れのナツメグをいろんなことに使った結果かな?』『退屈だったからナツメグを使ってみたのかな?』といったことは考えず、太陽電池の研究で積み重ねられた情報をもとに、試行錯誤が繰り返された結果だと考えてください」と語っています。
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