16人のヴァイオリニストに同時に演奏させて見えてきた「人間の行動の同調性」とは?
人間は他人と一緒に行動すると、時々他人と行動がシンクロ(同調)することがあります。
コンサート会場で拍手する時、全員がバラバラに手のひらを打ちあわせているのに、時折拍手の音がぴたっと同調して1つにまとまるといったケースはその一例です。また、人間に近いチンパンジーでも動きの同調が観察されているとのこと。そんな人間の行動の同調性について、そんな人間の行動の同調性について調べるため、複数のヴァイオリン奏者に同時にヴァイオリンを演奏させる実験が行われました。
Synchronization of complex human networks | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-17540-7
Frustrated? Human patterns of synchronization may be the reason - study - The Jerusalem Post
https://www.jpost.com/health-science/human-networking-ability-whats-the-secret-638305
Synchronized violin players reveal uniqueness of human networks | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/01/synchronized-violin-players-reveal-uniqueness-of-human-networks/
「人間の行動の同調化」はこれまでにも研究が行われており、「橋の力学」に関する研究が注目されています。例えば、橋が横に揺れ始めると、人は本能的に歩幅を調整し、橋の揺れに合わせようとします。しかし、歩幅を調整しながら歩こうとすると、さらに小さな横揺れが発生し、橋の揺れは増幅することになります。つまり、揺れが増幅する正のフィードバックがループして起こるというわけです。
実際にイギリス・ロンドンで2000年6月に開通したミレニアム・ブリッジの開通イベントで、橋を渡った何千人もの人が橋の小さな揺れに合わせて無意識に歩調を同調させた結果、歩行による荷重が分散せずに周期的なものとなり、橋の揺れが激しくなり、一時閉鎖するに至ったという事例もあります。
また、この人間の行動の同調は金融市場における投資家の行動にも見られると、2011年に発表された研究で報告されています。この研究では、投資家が1日にオンラインのチャットで情報をやり取りする頻度が高いほど、その日に損する可能性が低くなると指摘されており、投資家の同調性が金融市場の複雑なシステムの中でリスク回避に役立っていることを示唆しています。
そんな行動の同調について研究を行っている、バル=イラン大学の物理学者であるモティ・フリッドマン氏は、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の音楽大学院生であるエラッド・シュナイダーマン氏らと共同で、ヴァイオリンの演奏の同調についての実験を行いました。
実験に参加した16人の演奏者は、ノイズキャンセリング機能のついたヘッドホンを装着し、コンピューターに接続されたエレキヴァイオリンを演奏しました。演奏者が装着したヘッドホンは、コンピューターを通じてヘッドホンに流れてくる互いのヴァイオリンの音だけを聴くことができ、演奏者は他人のヴァイオリンの音を頼りに、短いフレーズを繰り返し演奏しました。
さらに、研究チームはコンピューター上で操作を行い、他人のヴァイオリンの音にわざと遅延を発生させ、どうやって同調を図るかを観察しました。遅延が発生すると、ヘッドホンから流れる演奏と自分の演奏との間にズレが生まれるため、演奏者は「フラストレーションがたまった状態」になります。
分析の結果、他人と自分の演奏がズレてフラストレーションがたまると、演奏者は演奏のテンポを早くしたり遅くしたりすることで、一緒に演奏している演奏者との同調を改善しようとしたことがわかりました。
実際に2人の演奏者の間で音に遅延を発生させた状態で演奏させた状態を、以下のムービーの2分13秒あたりから見ることができます。2人の演奏者は聴いている音と自分の演奏にズレを感じると、自分の演奏のテンポを遅らせながら演奏を同調させようと模索します。
Sync Variations Documentary on Vimeo
フリッドマン氏はこの実験結果に対して「フラストレーションがたまった状態では、演奏者は入力された信号の1つを選択し、それに同調しようとします」と語り、混雑した部屋の騒音の中から選択的に相手の会話を聞こうとする「カクテルパーティー効果」に似た現象だとしています。
研究チームによれば、人間の行動のモデルをより正確に捉えることで、たとえば新型コロナウイルスの流行下で人々をよりよく制御したり誤情報の拡散を防止したりといった応用も期待できるとのこと。フリッドマン氏は「私たちの研究結果は、自動運転車や高度なネットワーク社会へのAIの導入など、各ノードが意志決定能力を備えているネットワークにも大きく関連します。私たちのモデルは、そのようなネットワークシステムを高精度で予測できます」と語りました。
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