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アメリカはなぜ中国との情報戦争で出し抜かれてしまったのか?


習近平国家主席が率いる中国はもはや経済的にも軍事的にも決して無視できないほどの大国となり、世界のトップを走るアメリカ合衆国を脅かす存在となっています。アメリカと中国は経済だけでなく情報面でも対立しており、米中貿易戦争の影響もあって、トランプ政権は中国のテクノロジー企業を「中国のスパイである」と見なし、アメリカ国内から締め出そうとしました。アメリカが中国との情報戦で苦戦を強いられているようになった経緯について、シンクタンクのアスペン研究所で国家安全保障・サイバーセキュリティを担当するザック・ドーフマン氏が解説しています。

Beijing Ransacked Data as U.S. Intelligence Sources Went Dark in Xi Jinping's China
https://foreignpolicy.com/2020/12/22/china-us-data-intelligence-cybersecurity-xi-jinping/


2013年初頭、習主席が中国の国家主席に就任する準備を進めていたとき、アメリカやヨーロッパでは習主席がどのような指導者なのか全くわかっていませんでした。同年1月、高級日刊紙ニューヨーク・タイムズのベテラン中国特派員だったニック・クリストフ氏は、「習主席が経済改革の復活の先頭に立ち、おそらくは政治的緩和も行うだろう」と書いています

しかし、実際はアメリカ政府でさえ、中国の内情についてほとんどわかっていませんでした。2000年代、アメリカの情報機関は中国の情報をつかむために積極的に行動していましたが、ここ十数年における中国の政局については、アメリカ当局は依然として把握できていないそうです。


元アメリカ国家安全保障担当官の情報筋によると、「連邦人事管理局(OPM)へのハッキング」と「CIAが築いた中国情報ネットワークの抹殺」という2つの中国の作戦は、アメリカの中国に対する情報偵察力に大きく影響を与えたとのこと。2000年代のアメリカと中国の情報戦争については、以下の記事でまとめられています。

CIAやNSAの元職員が語る中国との情報戦争の経緯とは? - GIGAZINE


オバマ政権時代の政府高官によると、当時ホワイトハウスの当局者は、習主席の性格や意図について議論し、新たな対中政策を模索していました。オバマ政権内では、習氏に対する見方が大きく分かれており、「習主席は中国システムの行き過ぎた部分の一部を改善することができる指導者でもある」という意見がある一方で、「習主席は新毛沢東主義者であり、危険な強硬派だ」と主張する者もいました。

CIA内部でも、習主席の台頭について意見が分かれたそうですが、習主席はハト派だという見方についてはホワイトハウスよりも懐疑的だったとのこと。元CIA高官は、「習主席が台頭することで、ある種の継続的な改革が中国で推進されるだろうという希望的観測もありました。しかし、CIA内では、共産党は政権を維持するために再び中央集権化を目指していると見ている人が多数でした」と同関係者は振り返っています。

by Thepeoplesartist/Wikimedia

元CIAの中国担当アナリストであるゲイル・ヘルト氏は、「ワシントンでは、習主席が国内の自由の観点からも、アメリカへのアプローチの観点からも、何を追求するのかについて懸念がありました」「控えめに言っても中国共産党は腐敗していますが、習主席がその腐敗を一掃しようとしているという兆候があり、わずかな希望の光が見えました」と語っています。

しかし、アメリカ当局が中国国内で何が起きているのかを把握しようとしている間に、中国は今まで以上にハッキングに精力を注ぎ、2012年から2014年にかけてアメリカからのスパイ対策としてデジタル防御を強化。さらに、かつてない量のデータをアメリカから盗み出し、多くのスパイを洗練された情報機関にどんどん送り込み、中国が持つ情報量は「アメリカとの情報戦を制した」と言っていいほど、アメリカとは桁違いのものとなりました。

例えば、世界最大のホテルチェーンであるマリオット・インターナショナルは2014年に中国情報機関と関係のあるハッカーから攻撃され、パスポートやクレジットカードのデータを含む3億8300万人分以上の顧客の個人情報を盗まれました。また、大手医療保険会社のアンセムも、中国系ハッカーによって7800万人以上の個人情報を盗まれています。


こうした動きに対してアメリカは中国のサイバースパイ活動により積極的な措置を取り始め、2014年には中国政府と関連のあるハッカー5人を起訴しました。アメリカが公に他国所属のハッカーを起訴するのは初めてのことで、中国政府への制裁の意味もあったとされています。

しかし、この起訴の裏で、G-2構想を抱いていたオバマ政権は「この交渉によって中国政府との相互協力を切り開くことができる」と信じていました。オバマ大統領は、ビザの取得プロセスをより容易にし、ビザの有効期限を1年から5~10年に延長し、米中間の観光と教育による交流を推進しようと考えていました。

CIA高官は当時を振り返り、「オバマ大統領は中国との協定を結ぶことに熱心でした。そして、ホワイトハウスで中国問題について数百回の会議があったにもかかわらず、その議論を大したものとは見ていませんでした。情報機関やFBIの関係者は全員『ホワイトハウスは中国のスパイを増やすつもりだ』と言っていました」と語っています。

また、オバマ政権は、肝心のサイバーセキュリティについても中国と協定を結ぼうと考えていました。実際にオバマ大統領は、2015年9月に習主席が初めて訪米した際に、ハッキングによる企業秘密の盗難を禁止する二国間協定を交わしたと発表しています。


しかし、この二国間協定には違反の罰則はなく、ダグラス・ワイズ元国防情報局副局長は「私たちはこの協定をとてもシニカルに捉えており、どうせ2018年までにはアメリカ当局が『中国が協定を無視して広範囲にわたって違反していた』と公式に表明するに決まっているとみていました」と語っています。なお、ワイズ副局長の予言は2018年11月に的中することとなります。

その後も2016年にロシアからの大統領選挙干渉などを受けたことで、ようやくアメリカは「アメリカが抱える広範な脆弱性」について話し合うことを余儀なくされたとドーフマン氏は述べています。ロシアからの攻撃を受けてもなおアメリカ政府は「中国人は長年にわたって蓄積したアメリカのデータを武器にするのか」という懸念を抱いており、アメリカ政府がかつて冷戦で敵対したロシアよりも中国を恐れていることが表われています。


結果として、オバマ政権末期には対中外交が厳しくなっていきました。すでに当時アメリカの情報機関では、中国企業と中国政府が密接につながっていることを指摘されており、2016年にはアメリカ政府は中国の通信端末メーカーのZTEを強く監視すると発表されました。そして、オバマ大統領からトランプ大統領に政権が移り、アメリカ政府はHuaweiやZTEを含む中国企業を情報戦の敵と見なしてアメリカ国内から排除しようと努めたというわけです。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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