自分のエサとなる藻類を養殖するためにエビを家畜化する魚が見つかる
人間はさまざまな野生動物を家畜化してきましたが、動物を家畜にするのは人間だけではないことが明らかになりました。スズメダイ科のStegastes diencaeusという魚は、藻類を養殖するためにエビを家畜のように扱うことが明らかになっており、これは人間以外の脊椎動物が他の生き物を家畜化する初めての事例であると研究者は報告しています。
Domestication via the commensal pathway in a fish-invertebrate mutualism | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19958-5
Can a coral reef fish help unravel how humans domesticated animals? – Griffith News
https://news.griffith.edu.au/2020/12/08/can-a-coral-reef-fish-help-unravel-how-humans-domesticated-animals/
These Fish May Have 'Domesticated' Shrimp Staff to Help Them Farm Algae
https://www.sciencealert.com/researchers-discover-damselfish-keep-shrimp-to-help-them-farm-algae
生物を家畜化するというのは非常に複雑な行動です。昆虫が真菌を家畜化するという事例はいくつか存在しますが、これまで人間以外の脊椎動物が他の生物を家畜化するという事例は報告されていませんでした。
しかし、グリフィス大学とディーキン大学の研究チームがベリーズ沖にあるサンゴ礁で行った野外研究および行動実験の結果、このサンゴ礁で生活する魚がエビに対して行う行為は「家畜化に関するすべての特徴を有している」ことが明らかになっています。
ベリーズ沖のサンゴ礁に生息するStegastes diencaeusという魚は、自分で藻類を養殖し、それを食べながら生活する魚です。Stegastes diencaeusは基本的に自身が管理する藻類に近づく生き物を追い払うのですが、フクロエビ上目のMysidaという小さなエビだけは追い払わず、藻の養殖に活用することが明らかになっています。
同研究に参加したディーキン大学の生態学者であるローハン・ブルッカー氏は、「Stegastes diencaeusは自身の食料である藻類を養殖するサンゴ礁を守るため、Mysida以外の生物に対しては積極的に行動します。その一方で、Mysidaの群れはStegastes diencaeusにより、サンゴ礁の中に避難所を提供されます。サンゴ礁で生活するMysidaの排泄物は藻類の栄養となり、藻類の品質を改善するため、最終的に藻類を養殖するStegastes diencaeusも恩恵を受けることとなるわけです」「長いひれを持ったスズメダイ科のStegastes diencaeusとMysidaは、お互いに利益をもたらす相利共生関係にあります」と、Stegastes diencaeusとMysidaの共生関係について説明しています。
同じくStegastes diencaeusとMysidaの共生関係について調査したグリフィス大学のウィリアム・フィーニー博士は、「Stegastes diencaeusは、別の種を家畜化する人間以外の脊椎動物に関する最初の事例であり、今回の発表はStegastes diencaeusによるMysidaの家畜化がどのように進化したものなのかについての最初の実験的証拠です」と語りました。さらに、「Stegastes diencaeusとMysidaの関係は、猫・犬・豚・鶏などの身近な種を人間が飼いならした方法について、多くの知見を与えてくれる可能性があります」とフィーニー博士は述べています。
ブルッカー氏は、Stegastes diencaeusがサンゴ礁の中に作った避難所の中でMysidaが繁殖することが、「Stegastes diencaeusによるMysidaの家畜化」につながったと説明しており、「これは人間の入植地に引き寄せられた動物が、人間によって家畜化されていく過程に非常に似ています。動物を人間に引きつけた主な要因は、人間の食べ残しや(人間が動物のために用意した)避難所にあります」と語りました。
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今回の研究結果は「捕食者による保護」が家畜化において重要な役割を担うことを強調しています。実際、Stegastes diencaeusがいない場合、サンゴ礁においてMysidaはすぐに別の捕食者により食べられてしまうそうです。そのため、フィーニー博士は「人間以外の生物間の関係を調べることによって、人間による家畜化への魅力的な洞察が得られます」と語りました。
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