生き物

食べるとLSDをキメたような幻覚を見ることができる魚とは?


大西洋の東部や地中海になどに広く生息する「サレマ・ポーギー」という魚は、奇妙な生態を持つわけでも変わった見た目をしているわけでもない普通の魚です。しかし、そんなサレマ・ポーギーには、食べると幻覚を見てしまうという不思議な特徴があります。

(PDF) Hallucinatory Fish Poisoning (Ichthyoallyeinotoxism): Two Case Reports From the Western Mediterranean and Literature Review
(PDFファイル)https://www.researchgate.net/publication/7163931_Hallucinatory_Fish_Poisoning_Ichthyoallyeinotoxism_Two_Case_Reports_From_the_Western_Mediterranean_and_Literature_Review

Meet the Hallucinogenic Fish That Can Give You LSD-Esque Nightmares - Atlas Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/meet-the-hallucinogenic-fish-that-can-give-you-lsdesque-nightmares

Eating this fish could give you three days of nasty, LSD-like hallucinations
https://www.zmescience.com/other/feature-post/fish-lsd-hallucinations-04012017/

サレマ・ポーギーは、南はアフリカ大陸の東海岸、北はイギリス近海まで広い分布域を持つタイ科の魚です。控えめなしま模様があるだけで毒があるようには見えず、事実ローズマリーとコショウでホイル焼きにする伝統的な地中海料理などで食用にも供されています。

by Arthur Harrow

一方で、サレマ・ポーギーはアラビア語で「夢を生む魚」とも呼ばれており、ローマ帝国で娯楽用のレクリエーショナル・ドラッグとして用いられていたという記録や、ポリネシアで宗教的な儀式に用いられていたという歴史もあります。また、近代でも査読付きの臨床毒性学専門誌Clinical Toxicologyでサレマ・ポーギーが原因と見られる幻覚症状が複数報告されています。

◆症例1:40歳の男性(1994年4月)
会社の役員を務めていた当時40歳の健康な男性は、1994年4月にフランスのリゾート地カンヌでバカンスを楽しんでいる最中に、夕食として焼いたサレマ・ポーギーを食べました。しかし、食べてから2時間後に吐き気を覚え、さらに翌日まで視力障害・筋力低下・おう吐などの症状に悩まされたため、急ぎバカンスを切り上げることに。

自宅へ向かう車の運転中に症状はさらに悪化し、うなり声を上げて暴れ回る動物の幻覚を見てしまって運転に集中できなくなったほか、最後には「車の周りを巨大な節足動物に取り囲まれているので運転ができない」と救急車を呼んで病院に運び込まれました。しかし、検査ではも特に異常は認められず、サレマ・ポーギーを食べてから36時間で症状は完全に回復しました。なお、幻覚のことは何も覚えていませんでした。

◆症例2:90歳の男性(2002年3月)
高齢ながら健康的な第2の人生を送っていた90歳の男性は、2002年3月にフランスのリゾート地サントロペで漁師からサレマ・ポーギーを購入。サレマ・ポーギーを食べることには慣れていた男性ですが、この日に限って食べてから2日間にわたり「人間の叫び声や鳥の鳴き声」などの幻聴に悩まされてしまいました。重い精神障害になってしまったのではないかとおそれた男性は、誰にも幻聴のことを言いませんでしたが、症状が和らいだ3日後になって以前魚市場で「幻覚を見る魚がある」と耳にしたことを思い出し、保健当局に連絡して症状を報告したとのことです。

◆症例3:ナショナルジオグラフィックの写真家ジョー・ロバーツ氏
この症例は、上記の2件とは違い学術的に分析された事例ではありませんが、著名な人物がサレマ・ポーギーで幻覚を見た例としてよく知られています。かねてからサレマ・ポーギーの幻覚を体験したいと思っていたロバーツ氏は、焼いたサレマ・ポーギーとカボチャの料理をシェフに作ってもらいました。料理を食べたロバーツ氏は実際に幻覚を見ましたが、幻覚はそれほど鮮明ではなく、副作用もなくむしろポジティブな体験だったとのこと。

ロバーツ氏はその時の様子を「まるでSF小説の世界でした。飛行機のような操縦桿(そうじゅうかん)で運転する、見たこともない空飛ぶ自動車を見ました。そして、私は人類が初めて宇宙旅行をしたことを祝う記念碑の写真を撮ったんです」と話しました。


これらの症例は、プランクトンの毒素で汚染された魚介類を食べることで発生する食中毒シガテラの一種で、特に幻覚を引き起こすものは専門用語で「ichthyoallyeinotoxism」と呼ばれています。サンゴ礁保護団体Reef Ball Foundationの海洋生物学者キャサリン・ジャド氏は「この種の食中毒は神経系の障害を発生させ、薬物のLSDと同様の効果をもたらす可能性があります」と話しています。しかし、詳しいことは分かっていないとのこと。

一説には、特定の藻類や植物プランクトンが合成するインドールアルカロイドがLSDに似た症状を引き起こすことがサレマ・ポーギーの幻覚の原因だとされています。また、南米で飲まれている幻覚剤入りの飲料アヤワスカの成分であるジメチルトリプタミン(DMT)が原因ではないかとする説もあります。2012年に発表された研究では、地中海に固有のPosidonia oceanicaという海草の上で生育する植物プランクトンを食べている魚は、内臓に幻覚性の毒物を高レベルで蓄積している可能性が高いと報告されていますが、原因物質は特定できなかったとのこと。


原因物質は不明ですが、サレマ・ポーギーの頭を食べると幻覚を見る可能性が高いということは既に判明しています。また、サレマ・ポーギーがとれた季節も関係が深いとされており、2012年の研究では「秋」が最も危険性が高い時期だ報告されました。ただし、2006年の研究で報告された2つの事例は、いずれも「春」から「夏」にかけて発生していることから、危険性が高いとされる季節にも振れ幅があります。ジャド氏は「ichthyoallyeinotoxismを引き起こす魚や原因となる物質、そられが人体に与える影響などについては、十分な研究が行われていないのが現状です」とコメントしています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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