新型コロナの流行によりウェアラブル端末を用いた追跡に注目が集まる
2020年11月に入って日本でも再び感染者数が増加している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。アメリカでは学生がCOVID-19に感染しているか否かを追跡するために、皮膚温度やその他のバイタルサインを継続的に測定することができるウェアラブルセンサーの導入を検討している大学もあるそうで、他にも複数の企業や団体がCOVID-19を追跡するためのウェアラブルデバイスを活用しようという動きを進めています。
The Hot New Covid Tech Is Wearable and Constantly Tracks You - The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/11/15/technology/virus-wearable-tracker-privacy.html
ミシガン州ロチェスターにあるオークランド大学は、COVID-19の初期兆候を特定するために、学生に「1分に1回もしくは1日1400回以上の頻度で皮膚温度を記録するウェアラブルデバイス」を配布する計画を進めています。また、テキサス州プラノにある家具・電子機器のレンタル業者であるRent-A-Centerは、従業員同士の接触情報を記録するために、従業員にウェアラブル端末を配布しました。さらに、テネシー州ノックスビルにあるテネシー大学のアメリカンフットボール部では、学生が追跡装置が埋め込まれた肩パッドを装着して試合に参加します。これにより、チームの医療ディレクターはチームメイトや対戦相手の近くで15分以上過ごした可能性のある選手を追跡することが可能となるそうです。
これらの事例にあるようなウェアラブル端末を用いて装着者を追跡するプロジェクトは、COVID-19の拡散を防止するための最新の取り組みです。すでに一部のスポーツリーグや工場、老人ホームではウェアラブル端末を使った追跡が行われており、一部の大学や企業はウェアラブル端末を活用するための動きを加速させています。
市場調査会社であるInternational DataCorporationのマネージャーであるLaura Becker氏は、「今はウェアラブルデバイスを用いたCOVID-19追跡の初期段階にあります。誰もが正常な感覚に戻りたいと考えているため、この取り組みが上手くいけばウェアラブルデバイスの市場はさらに巨大なものとなる可能性があります」と語り、COVID-19追跡にウェアラブルデバイスを活用することは、ウェアラブルデバイス市場にとってもチャンスであるとしました。
International DataCorporationだけでなく、複数の企業やアナリストが「ウェアラブル端末はパンデミック下における安全性のギャップを埋めるのに役立つ」と考えています。企業や大学はユーザーの症状をチェックするためにアプリや体温測定カメラを導入し、スクリーニングに努めています。しかし、これらの対策ではCOVID-19の感染者の40%を占めるという無症状者の追跡を行うことはできません。
一部のオフィスではユーザー同士の接近を検出するためにスマートフォンのウイルス追跡アプリを活用していますが、例えば労働者が携帯電話を持ち込むことができない工場のような職場や、スマートフォンを持ったまま活動するのが困難なスポーツチームなどでは、アプリベースの追跡は不可能。その場合に役立つのが、スマートフォンよりコンパクトで身につけても邪魔にならないウェアラブルデバイスを用いた追跡です。
2020年春以降、アメリカではプロのアメリカンフットボールチームやバスケットボールチームなどが、ドイツのウェアラブルセンサーサービス企業であるKinexonのウェアラブルセンサーである「SafeTags」を導入しています。KinexonのSafeTagsが注目を集めたのは、新型コロナウイルスの流行に際して、いち早く濃厚接触を記録・警告できる「SafeZone」という機能を開発したためです。
SafeZoneは、同社のセンサーを使用する選手たちが6フィート(約1.8メートル)以内に近づくと、警告灯が点灯するというもので、NFLは2020年9月に新型コロナウイルス対策として、選手やコーチ、スタッフに対してSafeTagsの着用を義務付けています。
SafeTags導入後にもNFLプレイヤーやNFL所属チームの中でCOVID-19の集団感染が報告されていますが、NFLの医療ディレクターであるトム・メイヤー氏は「SafeTagsが追跡の役に立った」と語っています。なお、メイヤー氏によると、COVID-19に感染した同僚の近くで15分未満というわずかな時間しか過ごしていない人を、COVID-19感染の疑いがある人物のリストから除外するのにSafeTagsは非常に役立っているとのことです。
他にも、サウスイースタン・カンファレンス所属のテネシー大学のカレッジフットボールチームであるテネシー・ボランティアーズでもSafeTagsが導入されています。テネシー大学の主任医師であるクリス・クレンク氏は、SafeTags経由で収集される接近に関するデータは「アスリートが15分以上誰の近くで過ごしたのか?」を認識するのに役立つと語りました。クレンク氏によると、アメリカンフットボールの試合中にある選手が15分以上特定の選手の近くで過ごすということはめったにないそうですが、ベンチで過ごす控え選手の場合はそういったケースがしばしば見受けられるとのこと。
ただし、公民権団体やプライバシーの専門家たちは、パンデミックに際してウェアラブルデバイスが普及することで、新しい形態の監視が広まる可能性を危惧しています。マンハッタンの非営利団体であるS.T.O.P.でエグゼクティブプロデューサーを務めるAlbertFox Cahn氏は、「これらの侵襲的で証明されていないデバイスが、仕事を続けたり学校に通ったり公共の生活に参加したりするために必須の条件となる可能性があることは恐ろしいことです」「さらに悪いことに、警察やアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)が、学校や雇用主に対してウェアラブル端末の収集したデータを引き渡すように要求してきた場合、これを止めることはできません」と語り、COVID-19のパンデミックによりウェアラブルデバイスが普及し、公共の監視が加速することを危惧しています。
なお、COVID-19の追跡に役立つウェアラブルデバイスを販売するKinexonなどの企業は、プライバシー侵害に対処するための策を講じていると述べています。近接検出センサーを製造するMicroshareのトラッカーは、Bluetoothを用いて10~15分以上の濃厚接触があったユーザーを検出・記録するというものですが、このセンサーがユーザーの位置情報を正確かつ継続的に監視することはありません。
デトロイト近郊にあるオークランド大学は、24時間年中無休で装着者の体温・呼吸数・心拍数などを測定することが可能なウェアラブルセンサー「BioButton」の導入を検討しています。若くて大部分が健康な学生に、そのような24時間体制の追跡の必要があるのか否かは不明ですが、大学の関係者は「社会的距離を保つ戦略や、マスクの着用に加えて、BioButtonを導入することが大学内でのCOVID-19拡散防止に役立つ」と結論付けたそうです。
また、オークランド大学の関係者によれば、BioButtonは学生の体温測定結果などの特定のデータを受け取ることはないとのこと。つまり、あくまで学生に感染の可能性を通知するためだけにBioButtonは利用されており、その他の情報を大学側が受け取ることはないというわけです。加えて、BioButtonの開発元であるBioIntelliSenseでCEOを務めるJames Mault氏は、「プライバシー面で不安を感じる学生は、BioIntelliSenseが収集するデータから個人情報を削除するように依頼することができます」と述べています。
オークランド大学では同大学に所属するアスリートと寮の居住者にBioButtonを配布し、着用を義務付けることを計画していました。しかし、2500人近くの学生と職員からが、この方針に反対する嘆願書に署名したため、BioButtonは利用したい学生だけが着用できるオプションとして提供される予定となっています。
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