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新型コロナウイルスの影響で止まった社会経済はいつ・どのように再開していけばいいのか?


新型コロナウイルスの猛威にさらされる中、各地で都市封鎖や社会的距離を保つことが求められています。そんな中、「いつ・どのように社会経済を再開していけばよいのか?」についてまとめた「Roadmap to Pandemic Resilience(パンデミックからの回復力ロードマップ)」を、ハーバード大学のEdmond J. Safra倫理センターが公開しました。このロードマップの作成に携わった数学者でありMicrosoftの研究員でもあるVi Hart氏が、自身のYouTubeチャンネル上でロードマップをわかりやすく解説しています。

How We Reopen - YouTube


2020年4月20日付けで公開された「パンデミックからの回復力ロードマップ」は、全国の経済学や公衆衛生、テクノロジー、倫理などの専門家グループが作成した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機真っ只中にあるアメリカ経済を再開するための包括的なロードマップです。このロードマップについてHart氏は「すべての政治家や人々のコンセンサスを得るための現実的なもの」と説明しています。


ロードマップの作成者の中にはHart氏の名前も。


新型コロナウイルスのパンデミックに対処する方法はいくつかあります。ロードマップが公開された4月20日時点ではアメリカにおける1日当たりの新型コロナウイルス感染者数は以下のグラフのように増加を続けていますが、都市封鎖などの効果で感染者数の増加傾向は緩やかになりつつあります。そこで多くの人々が考えるのが「パンデミック前の生活にいつになったら戻れるのか?」という点。


感染者数の推移がどのようなものになるかは正確にはわかりませんが、「6月には事態が収束する」といった考えは「あまりに甘く非現実的」とHart氏。


また、スペインのように都市封鎖の一部緩和を早く行ってしまうと、再び新型コロナウイルスの感染者数が増加し、厳重な都市封鎖を再開しなければいけなくなる可能性があります。


一定期間の都市封鎖の後、規制を緩和し経済状況を回復させ、再び都市封鎖を行い……という封鎖と緩和を繰り返すという提案もありますが、これには未知の要素が多く、通常時のような経済に戻すことはできません。また、社会の至る所でクラスターが発生する可能性があり、そうなると将来の計画を立てることがより難しくなり、社会の安全を守ることも困難になります。


そこで、すべての人に納得してもらえるようなロードマップを作成しようということで、Hart氏らが集まり「パンデミックからの回復力ロードマップ」が作成されることとなったわけです。このロードマップは都市封鎖以降に4つの段階に分けてパンデミックに対応していくことが求められています。このロードマップ通りに対処を続けることで、感染者数は減少し続け、2020年夏には経済を「回復力を持てる状態」にまで復活させることが可能とのこと。


そのために必要なのは、まず「検査」です。1日数百万回という現行の検査実施数よりも多い検査の必要性をロードマップは訴えています。検査を続けることで、検査結果が出るまでの時間は短縮されていくはず。


2つ目は「追跡」です。新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性のある人物を追跡調査し、感染の可能性がある人にはその旨を通知することが「追跡」です。これはAppleとGoogleの「新型コロナウイルス追跡システム」が提案するものと同じもので、感染の可能性のある人物を追跡・通知することで、感染者を素早く隔離することが可能となり、感染拡大を防ぐことにつながります。


3つ目は「隔離のサポート」です。新型コロナウイルスの検査で陽性と判定された人、あるいは検査の結果を待っている人は、ヘルスケア・消耗品・仕事といった面でサポートを受ける必要があるというもの。


この3つを合わせた「TTSI」を大規模に実施することをロードマップは提案しています。Hart氏は「今夏は新型コロナウイルスを迅速に終息させるためにTTSIを行うようにしてください」と語りました。


さらに、ムービーでは「パンデミックからの回復力ロードマップ」の施策を4段階に分けて解説しています。


まず第1段階目は、都市封鎖の次に取るべき施策。医療従事者や食料品店で働く人々などの「社会を回すために必要不可欠な労働者」にサポートを提供することで、感染者数を減少させていくことが目的です。この段階は経済の40%が解放された状態とのこと。


具体的には都市封鎖時から働く医療従事者のほかに、公益事業の保守員や警察、消防、食料品店、配達業者などで働く人々が、この段階での労働を求められることとなります。この段階で働く人々は新型コロナウイルスのパンデミックの中で最前線で戦うことを求められるわけですが、食料品店や配達業者などで働く人々は元々そのような状況を想定していない人々と言えます。そのため、この段階で働く労働者をサポートするためのリソースを増やし、パンデミックに強い基盤を形成することで限られた経済をいかに支えるかが重要であるとHart氏は主張しています。さらに、Hart氏はTTSIを厳格に実施することで、第1段階で働く人々が「新型コロナウイルスが拡散しているのでは?」という疑念を持つ必要がなくなるとも述べました。


加えて、この段階で働く人々の中から新型コロナウイルス検査で陽性と判定される人が出た場合には、病気休暇を与え、その同僚を保護するための施策を実施する必要性が挙げられています。この段階で発症が明らかになった場合であっても、TTSIを厳格に実施していれば感染者および感染の可能性のある人を素早く特定・隔離することで、感染拡大を防ぐことが可能。さらに、感染拡大を未然に防ぐことで病床不足にも対処できます。


TTSIにおける「追跡」が地域ごとに上手く機能することで、第1段階から第2段階に進む速度は速くなります。なお、第1段階では社会の半数以上が自宅隔離を続けているため、「実際に現場で働く人々を安全に保つだけに十分な検査」を確保することが容易になります。


第2段階目は第1段階で働いていた人々に加えて、社会全体の30%を復帰させます。都市封鎖時や第1段階の時点で働いていた労働者の負担を軽減することが第2段階目で社会復帰する労働者たちの目的です。


具体的には医療従事者の負担を軽減するための薬局や……


ベビーシッター


修理業者


清掃業者などが、第2段階で社会復帰することとなります。


公共交通機関などもこのタイミングで復活することとなる模様。第2段階では第1段階で社会復帰させた職種をサポートしながら、追跡システムの構築を進めます。ただし、社会的距離を保つための措置として、公共の場での大規模集会を禁止するなどの施策は続ける必要があるとのこと。また、この段階で社会復帰した人々が感染した場合であっても、TTSIが正しく実施されていればPCR検査および濃厚接触者の隔離が迅速に行えるはずであり、感染が拡大するリスクを最小限に抑えることができるはずです。


第3段階は非常に短く、該当する労働人口も少ないです。この段階で社会に復帰するのは「社会にとって必要不可欠ではないものの、家で働くことはできない業種」の労働者(全体の10%)です。この段階は1~2週間ほどで終わり、それ以降は新型コロナウイルスによって引き起こされる失業はなくなることとなります。


第3段階で社会復帰するのは、美容室やネイルサロンなど。当然ですがマスクの着用など安全対策を講じての再開が求められます。Hart氏は「おそらく必要不可欠な職種で働く労働者を優先して美容室などが再開することになる」と述べています。また、美容室などの場合、1度に1人の顧客しか受け入れないなどの施策を取ることで、より安全な新型コロナウイルス対策を取ることが求められます。


なお、テレワークが可能な会社員や数学者などは、第3段階の時点でも在宅勤務することが求められます。この段階で社会復帰すべきなのは「どうしても在宅での仕事が不可能」な、マッサージ師などの職種であるとHart氏。そして、第3段階では失業者・ホームレスなどのサポートも強化し、公共の場での小規模な集会は許可されることとなる模様。


そして第4段階。残りの「社会にとって必要不可欠ではない、家で働くことのできる業種」の労働者が、再び会社へ出社できるようになります。この段階になって、初めて家族や友人と一緒に外でバーベキューを行う計画などを立てることが可能に。また、レストランでは席と席の間隔を開けることが求められるものの、店内での飲食も可能となります。


この第4段階にきてようやく学生たちは学校へ行くことが可能となります。サッカー・ホッケー・バスケットボールなどの試合もこの段階になってから再開することをロードマップは推奨しており、「この段階であればプロスポーツ組織が選手を検査するために十分な検査枠の空きがあるでしょう」とHart氏は述べました。


第4段階で生活はほとんど正常な状態に戻りますが、元の状態に戻るというわけではありません。人々は公共の場でのマスクの着用を義務付けられ、大規模なイベントはオンライン上で開催されることが求められ、通常時より人との距離を空けることが求められます。


ロードマップの推奨する「4段階に分けた労働人口の社会復帰」は、長期的に見れば大きな利益を社会にもたらし、将来のパンデミックに対しても強い対策となりうるとHart氏。


ロードマップの推奨する段階的な社会復帰を実施するためにはTTSIを行う必要がありますが、これには強力ではあるものの狭い権限しか持たないパンデミック検査委員会を設立する必要があるとのこと。そしてこの委員会に2年間で500億~5000億ドル(約5兆4000億~54兆円)もの予算を割り当て、効果的にTTSIを実施する必要性をHart氏は訴えています。


この投資は非常に大規模なものですが、経済の再開と都市封鎖を交互に続けるよりもはるかに少ない費用で社会を元の状態まで回復させることが可能です。


Hart氏は「さまざまな分野やイデオロギーに属する人々がこの計画に賛同しています。我々はこれを実施することが可能です」「この計画は現実のものです。私はこの計画にとても励まされたし、とても希望に満ちたものと感じました」と述べ、これまで決して不可能と思っていた方法でロードマップの作成に取り組み、信じられない施策が誕生したと主張。


加えて、「このロードマップは奇跡のようなものであり、私は多くの人にこのロードマップの存在を知ってほしいと思いました」と声を震わせながら語りました。


なお、パンデミックからの回復力ロードマップには「#HowWeReopen」というハッシュタグとPandemicTestingという公式サイトも用意されているため、「地元の指導者や選挙で選ばれた役人などに、人々が取るべき行動について知らせましょう」とHart氏は視聴者に訴えかけています。

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in 動画, Posted by logu_ii

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