ハードウェア

Appleが満を持して発表した独自開発の「M1」チップについて、Apple幹部がその経緯や将来について語る


イギリスのニュースメディアであるThe Independentが、Appleが発表した独自開発のMac向けチップ「M1」について、同社のソフトウェア・ハードウェア・マーケティング部門の担当者にインタビューしています。既存のチップと比べCPU・GPUパフォーマンスが最大2倍という大きな飛躍を遂げたM1チップについては「誇張表現ではないか」という声もあがっているそうですが、いかにしてそのパフォーマンスを実現したのかや、今後Macがどのような道をたどるのかが詳細に語られています。

Apple executives on new MacBook, M1 chip and the future of its products | The Independent
https://www.independent.co.uk/life-style/gadgets-and-tech/apple-m1-interview-macbook-release-specs-ports-reviews-b1721844.html

Appleは2020年6月に、WWDC 2020の中でMacにIntel製のプロセッサではなく独自開発の「Apple Silicon」を採用する計画を発表。そして、2020年11月11日(水)に初のApple Siliconとなる「M1」チップを発表しました。M1チップは市場初の5nmプロセスで製造されたPC用チップで、「ワット当たりのパフォーマンスで世界最高のCPU」および「世界最速の統合型グラフィックス」を備えています。AppleはM1チップによる革新について、「これほど重大なチップのアップグレードがMacで行われたことは今までありません」と語っています。

初のApple Siliconとなる「M1」チップが登場、5nmプロセスで製造された世界最速のCPU搭載 - GIGAZINE


The Independentのインタビューに答えたのは、プロダクトマーケティング担当ヴァイスプレジデントのグレッグ・ジョスウィアック氏、ソフトウェアエンジニアリング担当ヴァイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏、ハードウェアエンジニアリング担当ヴァイスプレジデントのジョン・テルヌス氏という3名。テルヌス氏は、M1チップは単なる「未来的なデザインの結晶」ではなく、「これから登場するAppleのすべてのテクノロジーの基盤となるもの」だと語りました。また、M1チップはAppleの未来を支えるだけでなく、過去の功績の結晶でもあるとのこと。iPhone登場以降、あるいは1984年のMacintosh登場までさかのぼり、何十年も続いてきた「コンピューティングとはどうあるべきか?」というAppleの試行錯誤が詰め込まれたものが、M1チップであると語られています。

Appleはこれまで最大の収益源であるiPhoneに注力してきたため、一部から「Macをあきらめた」などと非難されてきました。しかし、AppleがMacをあきらめたわけではないことは、今回発表したM1チップとそれが描く未来像からも明らかだとThe Independentはつづっています。

一方で、AppleによるM1チップの発表を「誇張」と捉える人も。通常、新しいPCがリリースされてもCPUやGPUの処理速度は前モデルと比較して20~30%程度速くなる程度ですが、AppleはM1チップを既存の最新ノートPC向けチップと比較すると、CPUパフォーマンスとGPUパフォーマンスの両方が最大2倍(200%)も優れていると主張しています。


そのため、AppleのM1チップに対して懐疑的な目を向ける人も少なくないはずです。なぜなら、多くの人々がコンピューターがそれほど大きなステップアップを踏むことを「期待していなかったから」だとThe Independentは指摘しています。実際、Apple社内でもM1チップの進化は驚きをもって受け止められたそうで、ジョスウィアック氏は「信じられなかった」と、フェデリギ氏は「オーバーシュートしてしまいました」と表現しました。テルヌス氏によると、当初は一部のチームだけで開発がスタートしたM1チップですが、開発が進むにつれ、予期せぬ情熱と興奮が他のチームにも伝播していったそうです。

フェデリギ氏はM1チップの発表を一部のユーザーが誇大広告のように捉えていることを理解しながらも、「我々がM1チップを初めて体感して驚いたのと同じ経験をユーザーの皆様に体験してもらいたいと考えています。私たち自身も自らの仕事の成果であるM1チップには正直驚きましたし、これをお客様にお渡しできることを本当に嬉しく思っています」と語り、M1チップの出来栄えにかなり自信がある様子をうかがわせています。

M1チップはMacに初めて搭載されるApple独自開発のチップであるため、「ユーザーの一部は1世代か2世代はApple Silicon搭載Macを購入するのを控える可能性がある」とThe Independentが指摘したところ、ジョスウィアック氏が「昨日の時点ではM1チップを搭載するMacを購入する反応に問題はなかった」と語り、フェデリギ氏は「Apple Storeにうちの従業員が殺到したのかも」と冗談で返しました。


フェデリギ氏によると、「M1」というチップ名の考案にはマーケティングチームが1年もかけたそうです。M1という名称について、ジョスウィアック氏は「M1という名称は、Mac用のチップにとして非常に理にかなっていると思います。iPhoneやiPadのAチップが登場して以来、Appleはチップの名称に意味のあるものを採用しようとしてきました」と語り、ヘッドホン用のチップに「H」を使用していることも挙げました。また、「M1」と名付けたことで、今後、「M2」「M3」とチップがシリーズ展開していくであろうことを明確にユーザーに伝えることができるという利点もあります。

初のApple SiliconeとなるM1チップは、MacBook AirMacBook ProMac miniという3つの製品に搭載されます。ラインナップの中でMac miniは独自の位置づけとなりますが、MacBook AirとMacBook Proが全く同じチップを搭載しているということを考えると、これらをどのように区別するべきかは頭を悩ませるところです。

これについてフェデリギ氏は「熱容量」がカギであるとしています。MacBook Airはファンレス構造ですが、MacBook Proには「アクティブクーリング」と呼ばれるファン内蔵の冷却システムが採用されています。M1チップのCPUおよびGPUのパフォーマンス(縦軸)と電力使用量(横軸)を記したグラフを見るとわかるように、使用する電力が増えると、M1チップのパフォーマンスは向上します。使用電力が増えることでチップが発する熱が増えるので、MacBook Airよりも優れた冷却システムを搭載しているMacBook Proでは、M1チップがより高いパフォーマンスを発揮できるようになるわけです。


AppleはApple Siliconへの完全移行には「2年を見込んでいる」と発表しています。2年の移行期間は、従来通りのIntel製プロセッサを搭載したMacが引き続き販売されることを意味します。今後の絶滅が予想されるIntelチップ搭載のMacに需要があるのかというThe Independentの直球な質問に対して、ジョスウィアック氏は「Macはこれまでで最高の年を迎えている」と語り、2020年第4四半期にはMacの売上が前年同期比で約30%増加したと語っています。

加えて、フェデリギ氏はApple Silicon搭載MacとIntelチップ搭載Macが別々の道をたどり、Intelチップ搭載Macだけが取り残されるということはないとしています。フェデリギ氏は「これらはどちらもMacであり、macOSで動作します。macOSの最新版であるmacOS Big Surのリリースは、すべてのMacにとって素晴らしいものです」と語り、どちらのMacも同じOS、同じアプリを実行すると主張しています。


チップの移行にAppleが自信を持っている理由は、過去に同じことを行った実績があるためです。Appleは2005年にMacに搭載するプロセッサをPowerPCからIntel製のものに移行しています。フェデリギ氏は「業界の他の人々が同じような移行を行うのを見てきましたが、それほど成功はしていません。しかし、我々はこの種の移行を本当の意味で完成させることができると信じています。そして、開発者の開発を本当に簡単にするためにどのようなツールを生み出すべきか正確に把握しています」と語っています。

チップの移行をスムーズにするための開発ツールのひとつが「Rosetta 2」です。RosettaはIntelチップを搭載するMac用に作成された既存のアプリを、新しいApple Silicon搭載Macでも使用できるようにするためのものです。前回の移行時にも同じ名称のRosettaが同じ役割を担いました。さらに、今回のApple Silicon搭載MacはIntelチップ搭載のMacだけでなく、iPhoneのアプリも実行できるようになります。開発者は1つのバージョンを作成するだけで、複数のプラットフォーム向けにアプリをリリースすることが可能になるので、開発者にとっては本当に素晴らしい移行となるはずです。


しかし、Intelチップ搭載のMacとApple Silicon搭載Macは同時に同じように動作するため、チップの移行はそれほどエキサイティングなものにはならない可能性があります。The Independentが「移行は退屈なものになるのでは?」と質問したところ、ジョスウィアック氏は「退屈」を「シームレスである」と言い換えたそうです。また、テルヌス氏は「我々はApple Siliconへの移行をM1チップから始めます。そして、M1チップは移行の途方もない基盤になると思います」と語りました。

AppleはWWDC 2020でmacOS Big Surを発表しました。Big Surはこれまでよりもボタンを大きくデザインし直したため、iPhoneやiPadのようなOSに近づいたと専門家は指摘しました。そのため、Apple Silicon搭載MacはiPadのようにMacをタッチ操作可能なものに変化するのではと予測されました。しかし、実際にはそのようなMacがリリースされたわけではありません。フェデリギ氏は、Big Surのリリース時に多くのユーザーがタッチ操作可能なMacが出ると予測していたことについて、「なぜ?」と疑問に思っていたそうです。

AppleはM1チップについて、「使い始めた瞬間から、その違いをすぐに実感できる」と語っており、さらにバッテリーのパフォーマンスも向上しているため、iPhoneのように1日中使用することも可能と主張。そんな進化したM1チップのベンチマークスコアについては、以下の記事にまとめられているので気になる人はチェックしてみてください。

Appleの独自SoC「M1」チップのベンチマークが公開される、果たしてその実力とは? - GIGAZINE

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
AppleがMacでも独自開発のプロセッサに移行する「Apple Silicon」を発表、iPhone&iPadのアプリがMacでも利用可能に - GIGAZINE

初のApple Siliconとなる「M1」チップが登場、5nmプロセスで製造された世界最速のCPU搭載 - GIGAZINE

M1チップ搭載の13インチ「MacBook Pro」が登場、CPU性能は最大2.8倍グラフィックス性能は最大5倍も向上 - GIGAZINE

「Mac mini」がM1チップ搭載でグラフィックス性能が6倍向上、「Mac miniでできるとは夢にも思わなかったことが可能に」 - GIGAZINE

Apple Siliconを搭載した初のMac「MacBook Air」が登場、M1チップでグラフィックス性能が最大5倍向上 - GIGAZINE

Appleの独自SoC「M1」チップのベンチマークが公開される、果たしてその実力とは? - GIGAZINE

in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.