インタビュー

映画「ミッシング・リンク」クリス・バトラー監督インタビュー、常に新たな要素に挑むスタジオ・ライカはどう最新作を生み出したのか


これまでに制作した4作品のうち3作品がアカデミー賞長編アニメ部門にノミネートされた経験のある、ストップモーションアニメ制作スタジオ・ライカの最新作「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」が2020年11月13日(金)に公開されます。本作は、これまでのライカ作品をさらに上回る規模で制作されており、パペットたちが世界中をいきいきと大冒険します。監督を務めるクリス・バトラー氏にインタビューする機会を得たので、ライカ最大の作品をどのように作っていったのか、いろいろな質問をぶつけてみました。

映画『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』公式サイト
https://gaga.ne.jp/missing-link/

GIGAZINE(以下、G):
本作「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」を作るまでに、どのような作品にするかという企画がいくつもあったと思います。最終的にこの企画にゴーサインを出す決め手になったのはなんでしたか?

クリス・バトラー監督(以下、バトラー):
僕たちは常に今までやったことがない新しい要素の紡ぎかたを考えているスタジオです。新作を作るとなったときに、僕の手元には3つの企画がありました。その中からプロデューサーのトラヴィス・ナイトがこの作品を選びました。この作品が一番「パラノーマン ブライス・ホローの謎」などの過去作と比べて違っている作品だったというのが理由だったのかもしれません。僕たちはいろんなスタイルやジャンルであるとか、多様なものを作っていきたいと考えています。そんな中、「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」は初めて大人が主人公です。もしかしたら、僕たちの作った作品の中で一番大胆かもしれませんね。かなりスケール感もありますし、アドベンチャーもすごいし、パレットもカラフルだし。これまでの作品は夜景が多かったと思うんですが、本作は昼間のシーンが多くて。そういった意味で新しいというのが1つありました。クリエイティブな意味でも、そういう「新しいものを作る」っていうことはわくわくするものです。

本作のメイキング風景


G:
なるほど。エンディングに流れるスタッフロールを見ると、脚本の部分に名前がたくさん並んでいました。どれぐらいの時間をかけて完成させたのですか?

バトラー:
いい質問ですね(笑)。もともとアイデアが浮かんだのは20年前なんです。

G:
20年!

バトラー:
その中で、例えば、キャラクターとか状況とか、いろいろなものにインスピレーションを受けてはアイデアを膨らませて……という感じでした。アメリカでは脚本は3章立てて描くことが多いんですが、「パラノーマン ブライス・ホローの謎」が公開されて1年後、温めてきたアイデアのうち第1章を書き上げた段階でトラヴィスにそれを提出したんです。そこから、まず企画開発に1年かけました。その間も改稿を続けて、プリプロダクションに入ってからも改稿し続けて……。

G:
おお……。

バトラー:
本作はプレスコで先に声を録音しているので、俳優のパフォーマンスによって脚本を変えることができました。Mr.リンクを演じているザック・ガリフィアナキスなんかは特にそうなんですが、いろいろなニュアンスを加えてくるので(笑)。彼らの声を録音してはセリフを変えたり、ということをしていて、キャラクターは1年を通してしっかりと進化していったような感じでした。なので、「脚本にかかった期間は?」に対する答えは、開発に入ってから数えて2年とみるか、20年前に浮かんだアイデアをもとに作られていったから20年とみるか、どちらにするかはお任せします(笑)

G:
(笑) ライカのYouTube公式チャンネルを見ると、本作のメイキングムービーが多数公開されています。

Missing Link | LAIKA's Most Advanced Puppet - YouTube


G:
その中で、各キャラクターのデザインについて、「最初にコンセプトアートからスタートして、それから実物の彫像をつくって、その後、2Dアニメーションの動きを見ていく」と話が出ていました。

Missing Link | Animating Faces - YouTube


バトラー:
そうなんです。昔から色んなアイデアを常にメモしているノートがあるんです。その中にはたくさんのスケッチもあって、本作では、そこに描いた早期のスケッチが、ほとんどそのまま最終的なデザインになっています。いつもはキャラクターデザイン担当をもう1人いれてデザインが変わっていくことが多いんですが、本作では、僕が最初に描いたラフスケッチがそのまま最後まで残りました。本作では、すごく才能あふれたチームと一緒に作業しています。例えば、コミックスアーティストで大好きなウォーウィック・ジョンソンさんなんかも関わってくれています。

A concept art piece of Sir Lionel’s study for Laika’s Missing Link (it’s in the Art Of book) pic.twitter.com/YzBOSaXPeQ

— WJC2020 (@WarwickJC)


バトラー:
僕のバックグラウンドは手描きアニメーションなので、実はキャラクターデザインはパペットのことを想定していないんです。シルエットだけだったり、作品のドラフトだけ見て「どういう風に面白いものが作れるかな」と考えてキャラクターを作るので、ライカのスタッフたちは、キャラクターデザインに関しては僕のことを嫌ってると思います(笑)

G:
そんな(笑)

バトラー:
たとえばMr.リンクなんか、毛がぼうぼうのアボカドみたいなデザインじゃないですか。曲線だらけで、しっかりと「これが首、これが肩」というところがないから、実際に工学的に機能するパペットとして作るのはすごく難しいんです。あのMr.リンクのデザインは、スタジオのみんなに挑戦状を突きつけているようなものです。でも、僕が求めているのは、パンチ力のある際立つデザインなんです。

監督がこだわったMr.リンクの造形


G:
なるほど。本作の予告編にも出てくる氷の橋のメイキング映像も公開されていて、それを見ると、あれがCGではなく、実際にパペットが橋の上を歩けるサイズで作られたものだとわかります。こうしたセットは、かなりの大きさですが、撮影後は保管しているのですか?それとも、使い終えたら破棄するのですか?

Missing Link | Building the Ice Bridge - YouTube


バトラー:
氷の橋については、ちょっとズルをしています。実は、氷の橋は複数あるんです。本作はミニチュアでセットを作っていますが、氷の橋はまず全体を撮影できるようなミニチュアを作りました。それから、予告編で橋の崩れるシーンがありますが、あの崩れるシーンを撮影できるように、フルサイズのパペットに合わせた「崩れかけた氷の橋」も作っています。氷の橋の上でキャラクターが会話するシーンについては、また別に、部分的に作った氷の橋で行っています。

G:
なるほど。

バトラー:
さらに本作では、ミニチュアのミニチュアといえるぐらいのサイズのセットを作りました。中の骨組みもしっかりあって、3Dプリンターで小さな像を作っています。小さいとカメラで撮ったときに粗が見えてしまうので、これまであまり使わなかった手法ですが、今のライカの技術なら可能だということで取り入れました。それら、いろいろなスケールの氷の橋が、編集の力によって1つになっています。これらの橋はすべて残っています。ライカのスタジオの裏側に、「レイダース」に出てくるような倉庫があって(笑)、そこにほとんどのセットが残っていて、いろんな学校やミュージアムに展示用として貸し出したりしています。とはいえ、「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」に出てくるセットの数は65、ロケーション数は110あって、すべて倉庫に入れるにはスペースが足りないため、解体するものもあります。

G:
セット数65、ロケーション数110という数字でも示されるように、本作は世界のあちこちを巡るストーリーになっていて、過去作よりも規模がはるかに大きなものになっています。セットやロケーションは、撮影する順に作るのですか?

Missing Link | Realizing Potential - YouTube


バトラー:
その点は、アーティストのスケジュールにもよります。作業してくれるスタッフはかなりの数がいますが、製作費のことを鑑みると、ジグソーパズルのようにスケジュールを組み合わせる必要があります。特に撮影のパートに関しては、パペットをいつどうやって作るのか、セットをいつどうやって作るのか、アーティストのスケジュールがどのくらい空いているのか、パペットは何体もあるわけじゃないのでどうやって撮影するのか、ということを組み合わせる必要があり、大変な作業でした。つまり、シーンの順番通りに撮影することは絶対できないということなんです。

G:
なるほど。

バトラー:
なので、「複雑な撮影がある」と分かっているセットから先に作ってしまいます。先ほど話題に出た氷の橋のセットはかなり初期の段階でできあがっていました。本作は撮影期間が1年半あったんですが、氷の橋のシークエンスはまさに撮影に1年半はかかるものだったので、氷の橋のセットは最初に作らなければいけなかったんです。その作業中に他のセットができあがってきて、撮影に組み込んでいくような感じでしたね。コストの観点からすると、重要なのは絵コンテ作りです。脚本が「これでいこう」となった段階で、すぐに絵コンテに着手するんですが、絵コンテをいい状態にもっていかないと、セット作りにかかるお金も時間も無駄になってしまうんです。なので、絵コンテをしっかり作り上げて、なるべく早めにアニマティックを作るようにしています。

G:
最後の質問です。監督の立場にあると、作品を作っていて不安になるようなさまざまなことが襲いかかってくると思います。本作の場合、最も恐ろしかったのはどういったことですか?

バトラー:
それはもう「毎日が恐ろしかった」です(笑)。この企画の当初、脚本を書いているときから「これが大変な作品になる」というのは分っていたし、実際に毎日が大変でした。大きな意味では、やっぱりスケール感が怖かったですね。ストップモーションの作品でこんなにたくさんの場所に行く作品は、ほぼないですし、本作では同じロケーションを繰り返し使うことがほとんどなくて、キャラクターたちは常に新しいところに行きます。そのロケーションを全部作らなきゃいけないのは怖いものでした。大好きだからあまり言いたくないんですけど、一番怖かったのはMr.リンクです……。パペットとして技術的にとても難しくて、撮影が始まった段階でも、Mr.リンクのパペットはうまく機能せず、ドキドキハラハラでした。Mr.リンクは、造形がまるくて、毛だらけで、動き方もブヨンブヨンするような感じを僕が求めていたので、通常の骨組みに比べて複雑な機構だったんです。Mr.リンクの動きを自然で、かつ、ちょっと機械的な感じにしたかったのですごく大変でした。粗がないようにと頑張りましたが、非常に怖かったです。でも、いつもそんな感じですよ(笑)。できるかどうか分からなくて、ドキドキしながら、なんとかやり方を見つけて進んでいます。


G:
なるほど。とうとう日本でも公開されるということで、多くの人に見てもらえたらと思っています。本日はいろいろなお話をありがとうございました。

映画「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」は2020年11月13日(金)公開。探検家ライオネル・フロスト卿の声を「X-MEN」シリーズや「グレイテスト・ショーマン」のヒュー・ジャックマンが担当しているほか、ビッグフットのMr.リンク役を「ハングオーバー!」「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇蹟)」のザック・ガリフィアナキス、アデリーナ役を「アバター」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のゾーイ・サルダナが担当しています。

【公式】スタジオライカ最新作!『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』本予告/11.13公開 - YouTube

© 2020 SHANGRILA FILMS LLC.
配給:ギャガ

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in インタビュー,   動画,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

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