サイエンス

世界的な鎮痛薬が人々の「リスク認識」を弱めて危険な行動を誘発する可能性がある


解熱鎮痛剤の一種であるアセトアミノフェンは、アメリカやヨーロッパで最も多く使われている鎮痛剤です。そんなアセトアミノフェンは痛みを抑えるだけではなく、人々の「リスク認識」を弱めて危険な行動を誘発する可能性があると、オハイオ州立大学の研究チームが報告しています。

Effects of acetaminophen on risk taking | Social Cognitive and Affective Neuroscience | Oxford Academic
https://academic.oup.com/scan/article/15/7/725/5897711

A pain reliever that alters perceptions of risk
https://news.osu.edu/a-pain-reliever-that-alters-perceptions-of-risk/

The Most Common Pain Relief Drug in The World Induces Risky Behaviour, Study Suggests
https://www.sciencealert.com/the-most-common-pain-relief-drug-in-the-world-induces-risky-behaviour-study-finds

アセトアミノフェンはアメリカで最も一般的な医薬品成分であり、600種類以上の市販薬や処方薬に含まれているとのこと。2010年の研究では「アセトアミノフェンが、人の心を傷つけることへの感受性を低下させる」と報告されているほか、2016年の研究では共感性を低下させることが示唆されているなど、アセトアミノフェンは鎮痛作用の他にもさまざまな影響を与えることが知られています。

オハイオ州立大学の神経科学者であるBaldwin Way氏らの研究チームは、アセトアミノフェンが「リスク認識」に与える影響を調査するため、3回に分けて合計545人の学部生を対象にした実験を行いました。いずれの試行でも、研究チームは被験者に対してランダムで、成人への頭痛薬の推奨量と同じ1000mgのアセトアミノフェンを投与し、残りの被験者には偽薬が投与されたそうです。


実験では、アセトアミノフェンまたは偽薬を服用した被験者が、「コンピューター画面上のバルーンにポンプで空気を送りこんで膨張させ、送りこんだ空気の分だけ仮想のお金を得る」という試行を繰り返すタスクに従事しました。被験者はいつでもポンプで空気を送りこむのをストップし、仮想の銀行にお金を預けて次の試行に進むことができます。しかし、バルーンが一定以上まで膨らむと爆発してしまい、その試行で得た仮想のお金は得ることができず、強制的に次の試行へ進まなくてはなりません。

Way氏は、「バルーンに空気を送りこむとコンピューター画面上でバルーンがどんどん大きくなり、より多くのお金を稼ぐことができます。しかし、バルーンが大きくなるにつれて、『バルーンが割れたらお金を失うとわかっていながら、もっと多くの空気を送りこんでお金を稼ぐべきか?』という決断を下す必要に迫られます」とWay氏は述べています。


実験の結果、アセトアミノフェンを服用した被験者は偽薬を服用した被験者と比較して多くの空気を送りこみ、バルーンを割ってしまう割合も高かったことが判明しました。つまり、偽薬を服用した被験者はより保守的で慎重なアプローチを取ったのに対し、アセトアミノフェンを服用した被験者はよりリスクの高い行動を選択したといえます。

研究チームはこの結果について、「偽薬を服用した被験者はバルーンのサイズが大きくなると、バルーンが割れる可能性を不安に思うかもしれません。不安が大きくなりすぎると、人々は試行を終了します。アセトアミノフェンはこの不安を軽減するため、リスクを冒すことにつながる可能性があります」と述べました。


また、バルーンに空気を送りこむテストに加え、各実験ではさまざまな状況でのリスクについて被験者に評価してもらいました。被験者に提示されたシナリオの中には、「スポーツイベントへの賭け」「高い橋からのバンジージャンプ」「シートベルトを着用しない状態での運転」「治安の悪い地域で夜に出歩く」「30代半ばでキャリアを変更する」などがあったとのこと。

アンケートの結果を分析したところ、全ての実験で一貫した結果が確認されたわけではなかったそうですが、平均よりアセトアミノフェンを服用した被験者の方が、全体的にリスクを小さく見積もる傾向があったと研究チームは結論づけています。

今回の結果はアセトアミノフェンが直接的にリスク認識を弱めることを示しているのではなく、不安の軽減といった他の心理的なプロセスを介し、結果としてリスクを低く認識することにつながっている可能性があります。Way氏は、「アメリカの人口の25%近くが毎週アセトアミノフェンを服用しているため、リスク認識の低下とリスクのある行動の増加は社会に重大な影響を与える可能性があります」と指摘。

リスク認識の低下は本人の人生を左右するだけでなく、「新型コロナウイルス感染症の症状があるのに『どうせ大丈夫だろう』と考えて不用意に出歩く」といった行動につながる可能性もあるとWay氏は述べ、アセトアミノフェンや他の市販薬が人々の選択やリスクに及ぼす影響をさらに調査する必要があると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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