アラスカ氷河の融解が過去類を見ない規模の「超巨大津波」を引き起こすと科学者が警告
近年、地球温暖化の影響で多くの氷河が融解しており、1961年から2016年までの55年間で地球上から失われた氷河の総量は9兆トンにも及ぶことが明らかになっています。特に融解する氷河の量が多いといわれているのがアメリカのアラスカで、この地域で氷河の融解が進めば今後20年以内に超巨大で壊滅的な威力の津波が発生する可能性があると科学者たちが警告しています。
A recently discovered unstable slope in Barry Arm could lead to a landslide-generated tsunami
(PDF)https://dggs.alaska.gov/hazards/download/Barry_Arm_Landslide_Working_Group_2020_05_14.pdf
Ice Melt in Alaska Threatens to Unleash Unprecedented 'Mega-Tsunami', Scientists Warn
https://www.sciencealert.com/ice-melt-in-alaska-threatens-to-unleash-unprecedented-mega-tsunami-scientists-warn
2020年5月、科学者グループがアメリカ合衆国アラスカ州天然資源局(ADNR)に宛てた公開書簡の中で、アラスカ州南岸にあるプリンス・ウィリアム湾に差し迫った災害の可能性を警告しました。科学者グループによると、氷河が融解した土地は地滑りのリスクが非常に高まっており、今後20年以内に巨大な津波を引き起こす可能性が指摘されています。
科学者グループが同地域の衛星写真を分析した結果、プリンス・ウィリアム湾のバリー氷河が融解するにつれ、アラスカ州アンカレッジから東に約97kmの位置にある山の斜面で「スカープ」と呼ばれる斜面の侵食が起きていることが確認されています。このスカープは「動きの遅い地滑りがすでに起きていることを示している」とのことで、山の岩壁が突然崩れることとなれば、より悲惨な結果が起こる可能性もあると科学者グループは指摘しています。
なお、スカープが起きているバリー氷河はクルーズ船や商業船が頻繁に運行する地域でもあります。
by Lauren Dauphin/NASA Earth Observatory/USGS
ADNR宛ての公開書簡を作成した科学者グループの一員であり、オハイオ州立大学の地球物理学者でもあるChunli Dai氏は、「最初は数字を信じることができませんでした。水面上の堆積物の高さや滑落した土砂の量、傾斜の角度に基づくと、今後起きる可能性のある地滑りは1958年にアラスカのリツヤ湾で起きた地滑りの16倍の破片と11倍のエネルギーを放出すると試算されています。つまり、巨大な津波が起こるというわけです」と語りました。
科学者グループの試算が正しければ、その結果は想像もつかないほど悲惨な結果を引き起こすこととなります。なぜなら、1958年にリツヤ湾で起きた地滑りは原子爆弾の爆発に例えられるほど巨大な津波を引き起こしており、その高さは524メートルにも達したと見られているためです。なお、1958年にリツヤ湾で起きた津波は「現代で最も高い津波」のひとつと考えられています。他にも、2015年にアラスカのターン・フィオードで起きた地滑りは、193メートルの高さの津波を引き起こしました。
科学者グループは、「このような地滑りは、いくつかの原因により発生し、ゆっくりとした動きから速い動きの地滑りに変化する可能性があります。多くの場合、地滑りは大雨や長引く雨が原因で、地震が地滑りを引き起こすこともあります。また、永久凍土や雪、氷河の氷の融解を促進する暑い天候も、地滑りの引き金になる可能性があります」と語っています。
また、氷河の融解が急速に進んでいるのはアラスカだけではないため、世界中の多くの土地で同様の地滑りや津波が起きる危険性が高まっているという点も考慮しなければいけません。ADNR宛ての公開書簡を作成した科学者グループの一員であり、非営利団体・Ground TruthAlaskaの一員でもある地質学者のBretwood Higman氏は、「これは本当に恐ろしいことです。おそらく我々は、火山と同じように氷河を危険なものであると認識を新たにする必要があります」と語りました。
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