新型コロナウイルス感染症の死亡率は「人の遺伝子変異の有無」で変わる可能性がある
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全世界における死者数は記事作成時点で100万人に迫っており、世界保健機関(WHO)は「仮にワクチンが開発された場合でも死者数が200万人に達するおそれがある」と警鐘を鳴らしています。イスラエル・テルアビブ大学の研究チームは、COVID-19の死亡率に「一部の人々に見られる遺伝子変異」が関わっているとの研究結果を発表しました。
Ethnic differences in alpha‐1 antitrypsin deficiency allele frequencies may partially explain national differences in COVID‐19 fatality rates - Shapira - - The FASEB Journal - Wiley Online Library
https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1096/fj.202002097
Carriers of two genetic mutations at greater risk for severe illness and death from COVID-19 - American Friends of Tel Aviv University American Friends of Tel Aviv University
https://aftau.org/news_item/carriers-of-two-genetic-mutations-at-greater-risk-for-severe-illness-and-death-from-covid-19/
COVID-19による感染率・重症率・死亡率は国や地域ごとにさまざまな違いが存在し、人口100万人当たりの死亡率が100人を超えている国のほぼ全てが、ヨーロッパまたは南北アメリカに集中しています。一方、東アジアや東南アジア、サハラ以南のアフリカ諸国での死亡率は他の地域より低い傾向が見られるそうです。
この傾向はパンデミックに対する都市封鎖などの対策や社会的距離の保ち方、フェイスマスクの使用率などと関係している可能性があります。しかし、新たな研究では、人の体内でα-1アンチトリプシンという物質が産生されなくなってしまう「α-1アンチトリプシン欠損対立遺伝子」の存在が、COVID-19の死亡率に関係している可能性があると指摘されています。
人体で産生されるα1-アンチトリプシンは、タンパク質やポリペプチドを分解する機能を持つプロテアーゼを阻害する、主要な「プロテアーゼ阻害剤」です。α1-アンチトリプシンは炎症細胞の酵素から人体の組織を保護する他、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に関わるプロテアーゼを阻害し、細胞にSARS-CoV-2が感染するのを防ぐことがわかっているとのこと。
そこで研究チームは、α1-アンチトリプシン欠損対立遺伝子を生み出す主要な2つの遺伝子変異「PiZ」「PiS」について、67カ国における発生頻度のデータセットを用いて、2020年9月時点のCOVID-19による人口100万人当たりの死亡率との相関関係を調べました。
研究チームによると、1000人中17人がPiZ遺伝子変異を持っているベルギーでは、人口100万人当たりの死亡者数が860人となっていたそうです。PiZ遺伝子変異の保因率がベルギーとほぼ同様のスペインでも、人口100万人当たりの死亡者数が640人と高く、1000人中15人がPiZ遺伝子変異を持っているアメリカでの死亡者数は100万人当たり590人となっています。同様の傾向はPiZ遺伝子変異の保因者数が1000人当たり10人を超えるイギリス・イタリア・スウェーデンなどでも見られたとのこと。
一方、PiZ遺伝子変異およびPiS遺伝子変異が比較的まれなアジアやアフリカ諸国では、2020年9月時点のCOVID-19による死亡率が比較的低い傾向があったと研究チームは指摘。日本・中国・韓国・台湾・タイ・ベトナム・カンボジアでは、COVID-19による死亡率がヨーロッパや南北アメリカより低いことがわかっています。
α1-アンチトリプシン欠損対立遺伝子を生み出す遺伝子変異と、COVID-19による死亡率の関係をグラフにした図がこれ。縦軸が人口1000人当たりの死亡者数、横軸が人口1000人当たりのPiZ遺伝子変異およびPiS遺伝子変異の保因者数を示しており、両者が相関関係にあるらしいと見て取れます。
実際に、世界各国のPiZ遺伝子変異およびPiS遺伝子変異の保因率を示した地図(上)と、COVID-19による人口1000人当たりの死亡者数を示した地図(下)を並べてみるとこんな感じ。それぞれの傾向がほぼ一致していることがわかります。
今回の研究結果から、研究チームはPiZ遺伝子変異およびPiS遺伝子変異が、COVID-19の危険因子である可能性があると指摘。今回の発見が臨床試験によって裏付けられた場合、PiZ遺伝子変異およびPiS遺伝子変異の保因者を特定するため、集団全体のスクリーニング検査につなげる必要があると主張しています。スクリーニング検査を実施することにより、遺伝子変異によってα1-アンチトリプシンが欠乏している人に対しては、優先的にワクチン接種を行うなどの対策が可能になると研究チームは述べました。
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