性的虐待を受けた子どもが経験する精神疾患と肉体的疾患はリンクしている
性的虐待を子ども時代に経験した人は、その後の人生で虐待の影響がさまざまな形で現れます。新たな研究では、性的虐待から数年後に虐待経験者が精神疾患で病院を訪れる傾向と、生殖器・泌尿器の問題で病院を訪れる傾向がリンクしていることが示されました。この研究により、精神あるいは肉体のいずれかを治療するのではなく、より包括的なアプローチの必要性が浮かび上がっています。
Childhood sexual abuse, girls’ genitourinary diseases, and psychiatric comorbidity: A matched-cohort study. - PsycNET
https://doi.apa.org/record/2020-69513-001
Childhood sexual abuse: Mental and physical after-effects closely linked | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-09/uom-csa092120.php
子ども時代に性的虐待を受けた人が長期的な影響を受けるということは、近年になって研究で示されてきました。児童虐待の長期的影響について最初に示したのは2018年の研究で、児童虐待の経験を持つ1764人の女児を被験者としたところ、対象群に比べて2.1倍も泌尿器の問題を抱えていることと、1.4倍も生殖器の問題を抱えていることが明らかになりました。
性的虐待を経験した子どもはメンタルヘルスの問題も抱えやすいことから、モントリオール大学心理学部の博士号候補であるPascale Vézina-Gagnon氏はIsabelle Daigneault博士の監督のもと、生殖器・泌尿器の問題がメンタルヘルスの問題と関連していると仮説を立て、調査を行いました。
Vézina-Gagnon氏は、カナダ・ケベック州の公衆衛生当局から医療データを提供してもらい、1歳から17歳の性的虐待を経験した女児と、性的虐待を経験していない女児661人について比較を行いました。調査の対象は、1996年から2013年までに診察や入院をした子どもたちで、全てデータは匿名化されていたとのこと。また、性的虐待には、性器を触ること、オーラルセックス、性交、盗撮、売春への誘導などが含まれます。
分析の結果、性的虐待を受けた女児は対照群に比べて不安や気分障害、統合失調症、薬物乱用といった精神医学的な問題で病院を訪れることが多いと判明しました。また、この傾向は、虐待経験者が虐待の数年後に生殖器・泌尿器の問題で病院を訪れる傾向と一致していたとのこと。複数の精神疾患で病院を訪れたり入院したりするほど、生殖器や泌尿器の問題を報告しやすくなるそうです。一方で、生殖器の問題を報告したのは62%、泌尿器の問題を報告したのは23%であり、この違いは研究では考慮されなかった要素が関連している可能性があるとして、さらなる研究が必要だとVézina-Gagnon氏は述べています。
「今回の発見が説明する感情的・行動的な原因には、2つの仮説があります」とVézina-Gagnon氏。1つ目は、性的虐待を経験しメンタルヘルスに問題を抱える人は、生殖器や泌尿器の違和感や問題に敏感になり、病院に行きやすくなるというもの。もう1つは、逆に「回避行動」により、症状があっても人に聞いたりできず、問題が悪化して病院を訪れるというものです。婦人科での診察は、衣服を脱ぐ、医師との間の力関係に不均衡がある、痛みが伴うといった点で虐待経験を思い起こさせることも多く、虐待経験者にとって耐えがたいとVézina-Gagnon氏は説明します。
今回の研究結果を受けて、肉体とメンタルヘルスの関係を考慮することが重要だと、Vézina-Gagnon氏は強調しています。虐待経験者がトラウマから回復するためには、体と心のどちらかだけを治療しようとするのではなく、全体論的なアプローチが必要とのことです。
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