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新型コロナウイルスの流行によって各国間の不平等が拡大するとの指摘

by World Bank Photo Collection

新型コロナウイルスのパンデミックは多くの人々の生活を変化させており、中には仕事や学習の機会を失ってしまったという人もいます。国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)の所長を務めるKunal Sen氏が、「パンデミックは発展途上国における既存の経済的・社会的不平等を大幅に増大させている」と述べ、新型コロナウイルスが不平等を拡大する5つの分野について解説しています。

Five ways coronavirus is deepening global inequality
https://theconversation.com/five-ways-coronavirus-is-deepening-global-inequality-144621


◆1:仕事
「パンデミックは労働者間の不平等を拡大しました」とSen氏は述べ、ウイルスの流行を抑制するために各国の政府が行った都市封鎖が、特に発展途上国の貧困層にダメージを与えたと指摘。臨時的な労働で得られる日々の賃金に依存している貧困層の労働者にとって、職場へ行くこと自体が制限されることは大きな収入の損失と生活不安をもたらしました。

そして、都市封鎖による仕事への影響には、労働者間で格差が存在します。たとえば、発展途上国の街中で野菜などを売る露天商は都市封鎖によって仕事の機会を失いましたが、在宅で働ける高収入の専門家は都市封鎖の中でも仕事を続けて賃金を得ることができました。また、発展途上国に住む貧困層の多くは非公式の仕事に従事しており、政府からの保障を十分に受けられず、社会保護措置が貧困層にまで行き届いていないとSen氏は主張しています。

◆2:デジタル環境への移行
パンデミックは技術的な変化を促進しており、一部の企業はデジタルでの作業環境を整え、より多くの人々が在宅で勤務できる状態を作り上げました。市民がインターネットへ容易にアクセス可能であり、高い教育を受けている先進国では、デジタル環境への移行が利益をもたらし得るとのこと。一方、デジタル環境やインターネットへのアクセスが整っていない発展途上国では、パンデミックの最中でもデジタル環境への移行が進まず、先進国との格差が拡大するとみられています。


◆3:ジェンダーギャップ
都市封鎖によって男性も女性も家にとどまることを余儀なくされましたが、男女が同じ時間だけ家にいるとしても、女性は男性よりも家事や育児にかける時間が長くなる傾向があります。また、女性はリモート勤務ができないサービス業に従事する可能性が男性より高いため、都市封鎖によって仕事を失いやすいことも指摘されているとのこと。

さらに学校や保育所が閉鎖されたことを受け、女性が育児のために仕事を辞めざるを得ないケースも危惧されています。加えて、発展途上国において経済的負担が増加した際には、働く母親の代わりに娘が家事を負担する場合も多いため、パンデミックにより女子学生の教育機会が失われるリスクもあるそうです。

◆4:保護貿易主義の台頭
新型コロナウイルスが流行する以前から、アメリカと中国の間での貿易戦争が過熱したりイギリスがEUから脱退したりするなど、国内の労働や資本形成を重視する経済ナショナリズム保護貿易主義の動きが強まっていました。Sen氏はこの傾向がパンデミックにより強調されると述べており、先進国における保護貿易主義の高まりは発展途上国との格差を広げると指摘。

先進国が自由貿易主義から保護貿易主義に転換すると、発展途上国が先進国の豊かな市場から締め出されてしまい、世界貿易から利益を得る機会が失われてしまいます。グローバル経済はここ数十年における東アジア諸国の所得増大を推進してきましたが、パンデミックにより保護貿易主義の傾向が強まることにより、パンデミック後は富裕層と貧困層の格差を縮小する能力が制限されてしまう可能性があります。


◆5:ワクチンへのアクセス
各国がパンデミックから立ち直って経済活動を回復させるには、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが必要です。しかし、ワクチンの配布は研究開発に多額の投資を行っている先進国に優先される可能性が高く、「ワクチンへのアクセス」が先進国と発展途上国の格差をさらに拡大するかもしれません。

すでにパンデミックの初期段階で、一部の国が医療用品を独占しようとする動きがみられていることから、ワクチンが開発された後も同様の動きが起きる可能性は十分にあります。もし先進国が医療用品やワクチンを自国民へ優先的に割り当て、発展途上国への支援を削減した場合、発展途上国が負担する人的・経済的コストが増大すると考えられています。


パンデミックが不平等に与える影響がどれほど持続するかは、発展途上国の政府がどれほど協調して行動できるかにかかっているとSen氏は指摘。貧困層の労働者に対する支援や、長期的な教育およびデジタルインフラストラクチャーへの投資、さらに国際社会からの支援が、先進国と発展途上国の格差を解消するために重要とのことです。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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