新型コロナウイルス感染症についての議論は「科学と政治の区別がなくなっていて危険」という主張
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に対して、世界中の科学者や専門家が研究を行い、いろいろな見解を述べています。こうしたCOVID-19に関する議論について、オレゴン健康科学大学の血液学者であるVinay Prasad氏とハーバード大学医学部の元学部長であるJeffrey Flier氏が、医療と統計に関するニュースを扱うサイト・STATで意見を表明しています。
Let's hear scientists with different Covid-19 views, not attack them - STAT
https://www.statnews.com/2020/04/27/hear-scientists-different-views-covid-19-dont-attack-them/
Prasad氏とFlier氏は「COVID-19パンデミックのように、科学的に不確かなことが多い中で重要な決定をしなければならないとき、異端的な見解を持つ専門家を黙らせたり、悪者扱いしたりする余裕はありません。さらに悪いことに、私たちは科学、医学、公衆衛生の問題を政治的議題にすり替えることを許してはならず、これまで以上に活発な学術的討論が必要です」と主張しています。
COVID-19に関するさまざまな情報が世間に広まっていますが。病原体である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が研究室で作られたという陰謀論や、ヘビの油で治療できるといった話など、インターネットには根拠のない有害な主張があふれています。
2020年3月、スタンフォード大学医学部のジョン・ヨアニディス教授は、「COVID-19の感染拡大と致死率に関する十分な情報がない状態であり、世間に出回っている情報は誇張されたものがほとんどだと主張。また、「ワクチンの製造や治療法の開発には何カ月あるいは何年もかかることを考えると、長期的なロックダウンが正解とはわからない」とも主張しました。
新型コロナウイルスに関する情報は誇張されまくったものばかりが注目を浴びているという指摘 - GIGAZINE
「長期にわたるロックダウンの効果は不明」と主張し、報道されているデータを疑問視したヨアニディス教授に対して、ソーシャルメディアでは多くの人が個人的な攻撃や中傷的なコメントを行いました。しかし、「COVID-19の問題に取り組むためには、一見すると間違っていると思うような意見にも進んで耳を傾けて考えるべきだ」とPrasad氏とFlier氏は説いています。
COVID-19ならびにSARS-CoV-2はいまだにわからないことが多く、完璧に理解している専門家はこの世に存在していません。多くの優秀な科学者が、これまでの医学や生物学、疫学に基づいて、「ウイルスはどれだけ速やかに感染拡大するのか」「致死性はどれだけ高いのか」「感染者は何人いるのか」「免疫はどうなっているのか」「どんな薬が効果的なのか」「政府は布マスクの着用を義務づけるべきなのか」などの問いに対して、答えを模索しているところ。COVID-19がどういうもので、私たちはどう対応すべきなのかを完全に理解するためには、何年もの歳月と多くの科学者の努力が必要だといえます。
例えば、COVID-19の致死率は0.2%~0.3%程度だと主張する人もいれば、1%前後だという人もいます。可能な限り厳格なロックダウンを施行する国や自治体もあれば、社会的距離を定めてはいるもののほとんどロックダウンを実施していないスウェーデンのような国もあります。「科学者は幅広い解釈と意見を表明できなければならなず、さまざまな意見を聞き、検討し、議論することが重要です」とPrasad氏とFlier氏は述べています。
「さまざまな考えに耳を傾けるべきだ」という両氏の主張に対して、「間違った考えに価値を見いだしてしまうことで、命が失われる可能性がある」という反論があることもPrasad氏とFlier氏は認めています。しかし、「最善の行動には多くの不確実性があります。別の見解を抑圧したり無視したりすることで、より多くの命が失われるかもしれません」と述べ、「公の場で誠実に別の立場について議論しようとする学者を抑圧したり無視したりすることのハードルは非常に高くなければならない」とPrasad氏とFlier氏は主張しています。
さらに両氏は「社会はCOVID-19よりもさらに有毒で致命的なリスクに直面しています。それは、科学が政治と区別をつけられなくなっているということです」と指摘。多くのメディアに対して、科学的な複雑な問題を「共和党と民主党の意見の相違」などと両極端な政治の問題に単純化して報道していると批判しています。
Prasad氏とFlier氏は「COVID-19に関する重要な決定は、政治哲学や政党の所属とは無関係に、科学的な考察に影響されるべきです。そして、学問の世界では異なる見解を持つ人を侮辱することは許されず、自由に議論されなければなりません」と述べました。
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