メモ

新型コロナウイルス対策が直面する倫理的課題とは?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年3月12日についに世界保健機関(WHO)からパンデミックと認定されました。新型コロナウイルス感染症については、世界中で治療薬やワクチンの開発が進められているだけでなく、人と人との接触をなるべく避けることでウイルスの拡散を防ぐ取り組みが活発に行われています。しかし、新型コロナウイルス感染症の対策には「広範な倫理的課題が存在する」とオーストラリアの学術系ニュースサイトThe Conversationは指摘しています。

The coronavirus pandemic is forcing us to ask some very hard questions. But are we ready for the answers?
https://theconversation.com/the-coronavirus-pandemic-is-forcing-us-to-ask-some-very-hard-questions-but-are-we-ready-for-the-answers-132581

WHOによると、2020年3月11日時点で114カ国・11万8000人が新型コロナウイルスに感染しており、4291人が命を落としています。また、新型コロナウイルスは2020年2月中旬までは中国国内で感染が拡大していたものの、2020年3月に入って世界中で流行しつつあることが明らかになっています。

以下はジョン・ホプキンス大学のシステム科学工学センターが公開する新型コロナウイルス感染症に関するデータを基に作成されたグラフ。症例数(縦軸)を時系列(横軸)で示すだけでなく、症例が報告された国が色別で示されています。


このような状況を受け、Microsoftの創業者であるビル・ゲイツ氏が創設したビル&メリンダ・ゲイツ財団が、新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発を加速するための取り組み「COVID-19 Therapeutics Accelerator」を発表。WellcomeやMastercardと共に、最大1億2500万ドル(約130億円)の資金を投入することを明かしています。

130億円超の資金で新型コロナウイルス感染症の治療薬開発を加速する「COVID-19 Therapeutics Accelerator」をビル&メリンダ・ゲイツ財団が発表 - GIGAZINE


新型コロナウイルス感染症に関する研究に多額の費用が投じられることとなったわけですが、治療薬や治療法の開発における問題は資金だけではないとThe Conversationは指摘しています。The Conversationは新型コロナウイルス感染症の治療薬開発における倫理的課題として以下の3つを挙げました。

◆1:新薬を迅速かつ安全に開発する
新薬の開発では「治療薬の開発に関する未知のリスク」と「ウイルスの拡散を制限するために十分に迅速な対応を取ること」という2つのバランスを取る必要があります。その中で最も重要なのには、新薬の開発を加速させながらも「臨床試験の十分な監視を保証すること」です。

The Conversationは臨床試験の精巧なフレームワークとして、オーストラリアの国立保健医療研究評議会が策定した「The National Statement on Ethical Conduct」を取り入れることを推奨しています。


「緊急事態というプレッシャー環境の下、官僚主義と赤字削減をベースに意思決定を迅速化し、システムの応答性を高めることは可能かもしれません。しかし、国立保健医療研究評議会のフレームワークを取り入れることは、『通常時のビジネス』に戻った際にも大きな役に立つ可能性があります」とThe Conversationは記し、同フレームワークの導入を勧めています。

◆2:個人の自由をどの程度認めるか?
感染病の流行を食い止めるには、「居住移転の自由」や「患者の権利」など、個人の自由をどの程度認めるかが問題となります。

新型コロナウイルス感染症の発生源である中国では、広東省深セン市のスーパーマーケットで買い物中の女性客がマスクの着用を拒否したことを理由に逮捕されるという事態が発生しました。

中国でマスクの着用を拒んだ女性が逮捕される事件が発生 - GIGAZINE


また、オーストラリアでは新型コロナウイルスにさらされた可能性のある人々を拘束あるいは隔離することを容易にするための法律案が議会に提出されており、個人の自由を縛る取り組み方法は国によってさまざまです。それに対して、医療従事者は自身の身を危険にさらしたとしても、勇気と献身を持って患者に奉仕し続けています。

The Conversationは「我々は個人的な自由をどれだけ諦めることができるでしょうか?自宅での自発的な検疫や、医療施設での隔離を受け入れますか?当局が人々の家に入り、感染した人々を逮捕することを許可しますか?」と記し、感染症の流行が終息したのちに、行き過ぎた規制がそのまま残る可能性を危惧しています。

◆3:乏しいリソースをどのように割り当てるか?
世界的に症例数が増加するにつれ、薬・集中治療室・研究資金などの限られたリソースをどのように割り当てるかは、大きな問題となります。希少な薬や治療法は「誰が優先的に受けるべきか?」という問題は長らく医療専門家の間で議論の的となってきました。

「個人の自由をどの程度認めるか?」や「乏しいリソースをどのように割り当てるか?」といった倫理的課題については、専門家や政府当局の判断に任せるのではなく、一般市民が関与して熟議民主主義の基で決定される必要があるとThe Conversation。


最後に、The Conversationは「我々は互いに尊敬・責任・公正さといった倫理的価値を守りながら、社会の脆弱な人々を守るために努力する必要があります。これは現在の厳しく妥協のない時代では難しいかもしれません。すべての人々を満足させる簡単な解決策はありませんが、少なくともこれらの問題について話し始めることはできます。そして、今のところそれこそが我々にできる最善の方法です」と記し、社会全体が直面する問題について、ひとりひとりが考え始めることこそが重要としています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
WHOが新型コロナウイルス感染症をパンデミックと認定、2009年の新型インフルエンザ以来11年ぶり - GIGAZINE

WHOが新型コロナウイルス感染症をパンデミックに認定すると何が変わるのか? - GIGAZINE

130億円超の資金で新型コロナウイルス感染症の治療薬開発を加速する「COVID-19 Therapeutics Accelerator」をビル&メリンダ・ゲイツ財団が発表 - GIGAZINE

スペインかぜから学ぶパンデミックの教訓4つ - GIGAZINE

新型コロナウイルスの流行の勢いを国別で可視化・比較できる「COVID-19 data explorer」 - GIGAZINE

in メモ, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.