サイエンス

「エイズ治療不要」という特殊な遺伝子を持つ人々の体内でHIVが抑制されるメカニズムが判明


ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しても体内でウイルスが増殖することなく、エイズを発症しないという特殊な遺伝子を持った人々のことを「(PDFファイル)エリートコントローラー」と呼びます。エリートコントローラーの人々が具体的にどのようにHIVを抑制しているのかを、ラゴン研究所のジョ・ユウ医師らによる研究チームが総合科学ジャーナルのNatureで発表しました。

Distinct viral reservoirs in individuals with spontaneous control of HIV-1 | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2651-8

Unique HIV reservoirs in elite controllers -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/08/200826110326.htm

How ‘elite controllers’ tame HIV without drugs | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/how-elite-controllers-tame-hiv-without-drugs

エリートコントローラーに該当するのはHIV感染者全体の約0.5%ほどで、極めて貴重な体質であるとされています。ユウ氏のグループは、エリートコントローラーがどのようにHIVを体内で増殖させることなく保持しているのかを調査するため、エリートコントローラー61名に対して次世代シーケシング(NGS)を使用し、ヒトゲノム中にあるHIVの位置を正確にマッピングする調査を行いました。


調査の結果、エリートコントローラーは(PDFファイル)遺伝子砂漠と呼ばれるゲノム中の、ヒトのDNAが活性化しない「不活性部分」にHIVを保持していることが明らかになりました。不活性部分に保持されたHIVは効果を発現することができないため、増殖することもエイズを引き起こすこともできないとユウ氏らの研究チームは説明しています。

ユウ氏らの研究チームはもう一つの発見をしています。過去に一度HIVに感染したエリートコントローラーの細胞を15億個以上分析しても、被験者のうち1人だけはHIVを見つけられなかった、とのこと。この結果から、エリートコントローラーが持つ特殊な免疫システムによって体内からHIVが除去された可能性があることが示唆されているとユウ氏らの研究チームは主張しています。


研究論文の共著者であるカリフォルニア大学のスティーブン・ディークス氏は、「今回の発見はエリートコントローラーが抱える問題の解消にも役立つかもしれません」と述べています。エリートコントローラーは「体内のHIVによって慢性的な症状を起こすではないか」という疑いを持たれることが多く、医師によってはエリートコントローラーでもエイズ治療薬の服用を勧める場合があるとのこと。「体内でHIVが活動しないということは治療をしなくても安全で、エリートコントローラーの多くが薬を服用する必要がないことを証明できる可能性があります」とディークス氏は語っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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