サイエンス

「今どきの若者は精神的にもろい」という主張は本当に正しいのか?


2020年7月、オーストラリア放送協会の議長を務めるIta Buttrose氏が、「若年労働者は私たちが若かったころよりもレジリエンス(精神的な回復力)に欠けているようです」と発言して議論を巻き起こしました。実際に今の若者が精神的にもろいのかどうかについて、クイーンズランド工科大学で経営学を研究するピーター・オコナー教授が解説しています。

Yes Ita, younger workers might actually be less resilient. But all workers should be thanked
https://theconversation.com/yes-ita-younger-workers-might-actually-be-less-resilient-but-all-workers-should-be-thanked-143277

78歳のButtrose氏は「若年労働者のために職場環境の改善が必要だ」と主張する文脈で、「若年労働者は精神的な回復力に欠けている」と発言しましたが、それ以外の場でも「今どきの若者は精神的な回復力に欠けている」という主張は広く聞かれます。それと同時に、実際に若者の精神的な回復力が以前よりも弱っているのか、それとも中高年の人々がそう思い込んでいるだけなのかも議論の的になっています。


オコナー氏は、若者の精神的な回復力に関しては、数十年にわたってさまざまな研究が行われてきたと指摘。その上で、「ほとんどの調査では、若者は平均して高齢者より精神的な回復力が低いことが明らかに示されています」と述べ、若者は高齢者よりもストレスを感じやすく、感情的に安定しておらず、不確実さへの許容度が低いと主張しています。

2018年にオコナー氏らが行った(PDFファイル)研究では、若い労働者は高齢の労働者と比較して曖昧な状況に対処する能力が低く、不確実性に対して不安を覚えやすいことが示されました。年齢による不確実な状況への対処や精神的な回復力の違いをもたらす原因はハッキリしないものの、人は年齢を重ねるにつれて成熟するため、若年層よりも高齢層の方が回復力が高い可能性もあるとのこと。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生し、人々の労働環境が大きく変わっている中で、オコナー氏は労働者たちが労働環境の急変にどう対処しているのかを調査しています。予備的な分析では、若い労働者が年上の労働者よりも大きなストレスを感じており、満足度が低いことが示唆されているとのこと。これらの結果は、若い労働者の給与が低かったり、小さな子どもがいたりすることが原因ではないとオコナー氏は主張しています。

しかし、オコナー氏は、確かに多くの研究が年齢と精神的な回復力の間に有意な差があることを報告しているものの、その差は比較的小さい点にも留意するべきだと指摘。オコナー氏の調査でも、若くても精神的な回復力が非常に高い人々がいた一方、精神的な回復力が低い高齢労働者もいたそうです。


より重要な問題は、「今の高齢者が若かった時、今の若者たちよりも精神的な回復力が高かったのかどうか」という点です。これについては明確な答えが出ていないとオコナー氏は指摘していますが、いくつかの研究結果は現代の若者が数十年前の若者より精神的な回復力が低く、不安を感じやすいことを示しています。

たとえば1952年~1993年の期間でアメリカに住む子どもの精神状態を調査した研究では、1950年代の子どもよりも1980年代の子どもの方が不安を感じやすいことが報告されています。また、2004年~2008年の大学生と1987年以前の大学生を比較した研究でも、2000年代の大学生は精神的に不健康であり、精神的な回復力が低いことが示唆されたとのこと。オーストラリアで実施された研究でも、現代の若者は以前の若者より神経症的性格が強く楽観的でないことが報告されました。

心理学者のJonathan Haidt氏とGreg Lukianoff氏は自著の中で、過保護な親や他人からの影響で、子どもたちが乗り越えるべき課題やストレッサーにさらされにくくなったことが、若者の精神的な回復力が低下している理由ではないかと述べています。また、過保護な親などの影響で、「全か無か思考」に陥りやすくなっている可能性もあるとのこと。

オコナー氏は、確かに若年労働者が高齢の労働者よりも精神的な回復力が低いという研究結果が示されているものの、労働環境の改善とは別の問題として考えるべきだと指摘。Buttrose氏は「職場の透明性向上や仕事をして感謝される経験が必要」と発言しましたが、それは若年労働者だけでなく高齢の労働者にとっても重要であり、労働環境の改善は若年労働者の精神的な回復力に関係なく行われるべきだと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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