「ビタミンDを摂取すれば病気を防げるわけではない」と医師が指摘

ビタミンD不足により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化する可能性が高いという研究結果が過去に発表されましたが、新たな研究により「ビタミンDの摂取が新型コロナウイルス感染症対策として有効である証拠はない」とも指摘されています。新型コロナウイルス感染症に限らず、がん・高血圧・糖尿病などもビタミンD不足と関係があるとされていますが「相関関係と因果関係を同一視すべきでなく、ビタミンDが持つ効果についてをきちんと知るべきである」と外科医のデバ・ブーン氏が主張しています。

Vitamin D, part 1
https://www.devaboone.com/post/vitamin-d-part-1-back-to-basics

ビタミンDが持つ主な効果として、カルシウムの吸収促進や血中のカルシウム濃度の維持が挙げられます。そのため、カルシウムを摂取しても体内のビタミンDが少なければカルシウム不足になる可能性があり、ビタミンD欠乏によるカルシウム不足はくる病や骨粗しょう症の原因になることが明らかになっています。

ビタミンDはカルシウムの吸収だけに影響を与えるわけではなく、がん・高血圧・糖尿病・肥満・心不全・脳卒中・認知症・自己免疫疾患などとの関連がさまざまな研究で示唆されてきました。多くの研究では、特定の疾患にかかった集団と健康な集団に対して、ビタミンD値を測定することで疾患とビタミンDの関連を調査しています。疾患にかかった集団が低いビタミンD値を示した場合は「疾患とビタミンD欠乏に関係がある」と考えられがちですが、「相関関係と因果関係は違います。2つのものが相関しているという事実は、必ずしも一方が他方を引き起こした原因であるとは言いきれません」とブーン氏は指摘。

例えば、ビタミンDと糖尿病に関しては「糖尿病を発症したことが原因で体内のビタミンD値が低下している可能性」と「ビタミンDが何らかの理由で欠乏したことが原因で糖尿病を発症した可能性」が考えられます。実際、糖尿病を引き起こす危険因子である肥満もビタミンD欠乏と関連している可能性が示唆されています。

「ほとんどの研究者は相関関係が因果関係と等しくないことを理解していますが、相関関係と因果関係を同一視しようとする傾向は強いです。多くの論文では『なぜビタミンDの欠乏が疾患を引き起こすのか』について、もっともらしい生理学的説明を加えています。相関関係と因果関係の結論が飛躍してしまうと、効果が明確でないまま多くの患者にビタミンDの補給を勧めなければなりません。なぜビタミンDの欠乏が疾患を引き起こすのかを突き止めるには、人体におけるビタミンDの役割を理解する必要があります」とブーン氏は語りました。

人間がどのようにビタミンDを使用しているかを解明する研究には、ビタミンD受容体を無効化するよう遺伝子操作されたノックアウトマウスを使い、体の変化を観察した実験があります。実験の結果、ビタミンD受容体を無効化されたマウスはカルシウムの吸収率が悪くなり、骨が成長しにくくなるという悪影響が現れました。なお、ビタミンD受容体を持たないマウスが全くカルシウムを吸収できなくなったわけではなく、カルシウムを大量に与えることで骨の成長が改善されたとも報告されています。他にも、ビタミンD受容体のないマウスは正常なマウスよりも平均して血圧が高く、心臓機能や免疫機能も低下していたとのこと。

人間の中にも、先天的にビタミンD受容体が正常に機能しないという障害を持った人々が存在します。ビタミンD受容体を持たないマウスの実験結果と同様に、ビタミンD受容体に異常を持つ人間も骨に重度の成長障害を抱えるため、ビタミンD欠乏と骨の成長障害に因果関係があると判断されています。

ブーン氏は、人間もマウスと同じように骨の成長障害を発症することから、ビタミンDの欠乏により高血圧や心臓・免疫機能の低下も起こりうると推測しました。しかし、人間におけるビタミンD受容体の遺伝的欠損は非常にまれな症例であり、その他に「人間のビタミンD欠乏」と「高血圧および心臓・免疫機能の低下」の因果関係を示す有力な研究は存在しないとブーン氏は主張しています。

「残念ながら、ビタミンD欠乏症が具体的にどのような疾患を引き起こすかについて、統一された説明はありません。ビタミンDといくつかの疾患に相関関係があること、ビタミンDが複数の細胞や器官に影響を持っていることは多くの研究で示されています。しかし、ビタミンDと疾患の関係は、カルシウムと骨の健康に対するビタミンDの役割ほど単純ではないのです」とブーン氏はコメントしています。