潜水艦はどうやって見えない敵を探るのか、元アメリカ海軍のベテランソナーマンが語る
海中に潜って任務を遂行する潜水艦には窓がないため、周りの状況を目で見て判断することができません。そのため、潜水艦には音によって敵の位置や地形を把握するソナーが搭載されており、ソナーを使って海中のあらゆる音源を探知する専門官の「ソナーマン」が乗艦します。潜水艦のソナーとはどういうものなのかを、アメリカ海軍の元ソナーマンだったアーロン・アミック氏が解説しています。
How Submarine Sonarmen Tirelessly Hunt For Enemies They Can't Even See - The Drive
https://www.thedrive.com/the-war-zone/35603/veteran-submariner-on-how-sonar-crews-tirelessly-hunt-enemies-they-cant-even-see
ソナーはおおまかにわけて、アクティブソナーとパッシブソナーの2種類があります。アクティブソナーは発した探信音の反射を利用して相手の位置や動きを探るものです。対して、パッシブソナーは聞き耳を立てて相手の音をキャッチして分析するものです。いずれにしても、ソナーシステムで重要なのは、ハイドロフォンを配置したソナーアレイです。ハイドロフォンとは水中の音を聞くために開発されたマイクで、圧電素子を使って水中の圧力変化を探知し、音響信号を電気信号に変換することができます。
ソナーアレイによる信号変換は、元の音響信号からいかなる情報も取り除かないように、コンピューターによって注意深く行われます。音響信号は「広帯域ディスプレイ」と「狭帯域ディスプレイ」の二つの一般的なインターフェース上で解析されます。
広帯域ディスプレイは、ソナーアレイが受け取った音響が時間の経過とともに滝のようなビジュアルで表示され、「潜水艦の周囲で音響が大きいのはどこか」が示されます。ソナーを操作する「ソナーマン」はこの広帯域ディスプレイを見ながら各方位の音を聞き、大きく聞こえる音が目標かどうかを判断します。
狭帯域ディスプレイには、ソナーアレイがキャッチした音の全スペクトルが、横断する周波数ごとに分割されて表示されます。狭帯域ディスプレイは、音の正体が何なのかを示すさまざまな情報を集約したものとなります。海中を伝わる音には敵艦の出す音だけではなく、海に住む生き物が出す音や地震による音も存在します。
実際にソナーがキャッチした音とディスプレイに表示された情報を以下のムービーで見ることができます。
Modern Sonar Sounds and other Sounds of the Sea - YouTube
音響分析は海軍作戦において極めて重要な道具です。ソナーマンは、リアルタイムで膨大な音響情報を管理する必要があるため、潜水艦に乗り込む前に、陸上で十分な訓練を受ける必要があります。
しかし、海は刻一刻と変化し、ソナーに大きな影響を与えるため、訓練と違って実際の海中の音は常にクリアに聞こえるわけではありません。海中では、音はエネルギーをほとんど失うことなく何百キロメートル先にまで伝わるため、不必要な音もソナーで拾ってしまいます。
例えば沿岸地域では、絶えず発生する川の流れや融雪の音がまるで反射壁のような役割を担うとのこと。そのため、沿岸地域の航海中はまるで音の鏡の中を航海しているようになっているとアミック氏は語っていますまた、氷が多い海域は氷がこすれたりぶつかったりする音が騒音となり、さらに氷に海中の音が反射するため、音を判別しづらくなるそうです。
膨大な音響情報を管理して分析するために、ソナーマンとは別の人員が監視員としてソナーマンの背後に立ち、ディスプレイをチェックするとのこと。この人員はソナーマンが見逃した可能性のあるものを探す「第2の目」として機能します。
監視員は生の音響データと「アプローチオフィサー」との間を取り持つ連絡役としても機能します。アプローチオフィサーは、通常は艦長が務めますが、任意の士官が務める場合もあるとのこと。監視員は、潜水艦の外部での実際の戦術状況を明確に示し、それが射撃統制システムの報告書と一致することを確認しなければなりません。もちろんコンピューターも使ってデータを分析しますが、それとは別に監視員も独自に分析を行うそうです。
アミック氏は「ソナーの仕事は狩りです。相手は自分が狙われる側であることはわかっていて、こちら側と同じような道具をそろえて待ち伏せを計画しています。このゲームは盤面が常に変化する戦術ゲームで、従うべき手順やチェックリストはありません。ソナーマンは主体性と直感力、そして個人の能力を駆使して相手を捉える必要があります。潜水艦で狩りをするとはそういうことなのです」と語りました。
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