人間関係を破壊せずにフィードバックを行うにはどうすればよいのか?
仕事などのパフォーマンスに関するフィードバックは、相手のいい点だけでなく悪い点も指摘する場合がありますが、時にはフィードバックを受けた側が反発し、フィードバックを与えた側との人間関係が壊れてしまうケースもあります。フィードバックのやり取りに関するアンケートや実験の結果、人間関係を破壊せずにフィードバックを与えるには「過去ではなく未来に目を向ける」ことが重要だと判明しました。
The future of feedback: Motivating performance improvement through future-focused feedback
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0234444
Future focus has the power to transform the practice of feedback
https://www.psypost.org/2020/07/future-focus-has-the-power-to-transform-the-practice-of-feedback-57383
フィードバックの目的は行動の変化を促すことであり、従業員のマネジメントやコーチング、子育て、教育、問題解決などにおいて重要だと考えられています。しかし、相手のためを思ったフィードバックは裏目に出る場合が多いことも経験的に知られており、フィードバックが人々の行動を改善をできないばかりか、人間関係を破壊してしまう場合もあります。
アメリカやニュージーランドの研究者からなるチームは、フィードバックがなぜ失敗に終わってしまうのか、どうしたらうまく機能するのかを突き止めるため、聞き取り調査や実験に基づいてフィードバックの影響や効果について研究しました。
まず、研究チームはシカゴ・バルセロナ・シンガポールのエグゼクティブMBAコースに在籍する中・上級管理職419人に対し、最近関わった仕事で提供した、あるいは受け取ったフィードバックに関するアンケートを行いました。いずれの回答者も現場での実務経験を持っており、全体の18%が女性だったとのこと。
研究チームは各回答者に質問する内容を、ランダムで「肯定的なフィードバックを与えた時」「否定的なフィードバックを与えた時」「肯定的なフィードバックをもらった時」「否定的なフィードバックをもらった時」のいずれかに割り当てました。回答者は「送受信したフィードバックがどれほど正確だったのか」について評価し、フィードバックをやり取りした案件の結果について、「運と実力が占めた割合」についても回答しました。
回答を分析したところ、フィードバックを送信した人と肯定的なフィードバックをもらった人は、「フィードバックの内容が正確であり、案件の結果は実力によるものだった」と回答する傾向が強いことが判明しました。その一方で、否定的なフィードバックをもらった人は「フィードバックの内容が不正確であり、案件がうまくいかなかったのは運が悪かった」と回答する傾向が明らかになったそうです。
続いて研究チームは、オーストラリアに住む380人のビジネスマンとMBA課程の学生を対象に、「フィードバックを与える上司とフィードバックを受ける部下」に分かれたロールプレイを行わせたとのこと。それぞれの参加者には架空の職務経歴や業務の成績、問題行動が記された人事ファイルが与えられ、両方が内容を読み込んでからフィードバックに関する議論を行いました。
当初は、「パフォーマンスやフィードバックの内容について話し合うことが、部下がフィードバックを受け入れる可能性を上げるのではないか」と予想されていましたが、実際には議論を行ってもフィードバックに関してお互いの合意は形成されませんでした。それどころか、議論によって両者の食い違いが大きくなってしまい、部下の側はフィードバックを受ける前よりも、「成功は個人的な能力や努力といった内的要因によるもので、失敗はリソース不足や不運といった外的要因によるものだ」という考えを強めたそうです。
重要な点として研究チームが指摘するのが、部下側の人々が「フィードバックを有益かつ理にかなったものだ」として受け入れる最高の予測因子は、彼らがどれほど「フィードバックは将来に焦点を向けたものだ」と考えているかどうかだったという点。フィードバックの議論が将来の成功に目を向けたものだと両者が合意していた時、部下側がフィードバックを受け入れ、将来の行動を改善する意欲が高まったとのこと。
研究チームはその後の実験で、「フィードバックは将来に焦点を向けたものである」と伝えるガイドラインを作成し、別の162人の被験者たちを対象にして同様のロールプレイ実験を行いました。被験者らは議論の前にガイドラインを読みましたが、残念ながら部下側がフィードバックを受け入れる割合が高くなることはありませんでした。しかし、やはりこの実験でも、部下側の「『フィードバックは将来に焦点を当てたものである』という考えの強さが、フィードバックの受け入れと行動を改善する意欲に関連している」という結果が再現されたと研究チームは述べています。
フィードバックを与える方法に関する従来のアドバイスは、「否定するだけでなく肯定的な点も指摘してフィードバックの痛みを軽減する」「具体的な指摘を行い、有益な情報を与える」といったものが主流でした。しかし、今回の結果から従来のアドバイスは最適ではなく、「過去の出来事を分析するのではなく、将来に焦点を当てること」がより有効であることが示されたと研究チームは主張。フィードバックを与える、または受ける際に気を付けるべき点として、以下のアドバイスを行っています。
・「将来のために物事を改善したい」という目標を共有する。
・目指したい理想を指定する。
・過去にうまくいったことを称賛し、パフォーマンスが不満だった点のみを指摘する。過去の出来事に関する原因や詳細な説明は避ける。
・フィードバックを受ける側に改善するモチベーションと能力があると考える。
・将来に目を向けて、潜在的なチャンスや価値のある行動について議論する。
・お互いが一緒になって解決策を模索する。
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