女性の上司は部下からの否定的な反応に直面しやすい

by Tim Gouw

上司から呼び出されて「正直に言って、最近のあなたの勤務態度や実績には失望しています」と伝えられた場合、今後は注意を受けないように心掛けて気合を入れ直す人もいれば、やる気をなくして転職先を探し始める人もいるはず。もしも上司が女性であった場合、注意やフィードバックを受けた部下は男女を問わず否定的に反応しやすいことが判明しました。

Do Workers Discriminate against Female Bosses? - dp12611.pdf
(PDFファイル)http://ftp.iza.org/dp12611.pdf

Bosses face more discrimination if they are women – from employees of any gender
https://theconversation.com/bosses-face-more-discrimination-if-they-are-women-from-employees-of-any-gender-125292

ミドルベリー大学で経済学の准教授を務めるMartin Abel氏は、「上司が女性だった場合」と「上司が男性だった場合」で部下の反応がどう違うのかを調べるため、実際に労働者を雇って実験を行いました。

被験者はインターネット上で募集され、合計で2714人の被験者が在宅勤務で領収書を転記する仕事を与えられました。被験者の内訳は53％が男性、47％が女性であり、平均年齢は35.6歳でした。この仕事を依頼した企業も業務内容も架空のものでしたが、Abel氏の研究チームは被験者に対し、「あなたの業務はリモートで上司がモニタリングしています」と伝えたそうです。被験者に与えた仕事が半分ほど完了した時点で、研究チームは「架空の上司」の名前を使い、被験者の仕事についてのフィードバックを与えました。この際、上司の名前に男性の名前、女性の名前がランダムで割り当てられたとのこと。

フィードバックを与えた後で、研究チームが被験者の満足度について調査したところ、女性の上司からフィードバックが送られた被験者は、男性の上司からフィードバックが送られた被験者と比較して、仕事の満足度が大幅に低下していることが判明。また、女性の上司から批判的なフィードバックを受けた被験者は他の被験者と比べて、同じ依頼主からの仕事を継続することに関心を持たなくなることがわかりました。

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Abel氏は近年の取り組みによって男女における雇用機会の差が是正されつつあり、S＆P 500に含まれる大企業では従業員の45％が女性であると述べています。その一方で、中間管理職に占める割合は37％、上級管理職では26％、CEOでは5％となっており、職場のリーダーとなる女性が少ないと指摘。

既存の研究によると、管理職の採用において男女差別が行われている証拠はないそうで、管理職に占める女性の割合が少ないのは「企業内部からの昇進が少ない」点が原因だとAbel氏は考えています。昇進における男女差別を分析することは、従事する仕事などの相互作用が関係してくるため、研究者にとっても容易ではないとのこと。

今回の研究で判明した、「部下が本人の性別を問わず女性上司に対して否定的な反応を見せる」という事実は、女性が管理職として成功しづらい点を説明できる可能性があります。自身のフィードバックが部下に悪影響を与える可能性が高い場合、女性の上司は管理職としてのマネージメントに消極的になるか、管理職としての地位を維持することに関心を持たなくなるかもしれません。

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研究チームによって雇われた被験者らは、決して女性上司のフィードバックを無視したわけではないとAbel氏は述べています。被験者らは女性の上司から受けたフィードバックを、男性の上司から受けたフィードバックと比較してわずかに長時間読む傾向があったとのこと。

「女性より男性の方が仕事ができるはずだ」といった偏見も、今回の差別を説明するものではありません。実験の被験者は平均的に男性を「キャリア」に、女性を「家族」に結び付ける傾向がアンケートでわかったものの、個人の被験者が持つ男性観や女性観は、女性の上司から受けたフィードバックに対する反応を左右しなかったそうです。

また、「これまでの仕事で女性の上司と関わった経験が少なかったため、女性の上司から受けたフィードバックに否定的だった」というわけでもない模様。「過去の職場で女性の上司を持っていて、その上司は有能だった」と答えた被験者であっても、他の被験者と同じ割合で女性の上司からフィードバックを受けた場合に否定的な反応をしたとAbel氏は述べています。

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では、一体何が女性上司への差別を引き起こすのかという疑問について、Abel氏は「上司の性別に基づく管理スタイルの期待」が、今回の差別を引き起こしたと主張しています。過去の研究では、労働者は女性の上司に対して「部下への称賛」を期待する傾向が男性上司より3倍高く、男性上司は「部下への批判」と結び付けられる傾向が女性上司より2倍高かったとのこと。つまり、「女性の上司からの批判やフィードバック」は部下が期待するものではなかったため、反応が否定的になってしまったとAbel氏は考えています。

今回の研究結果がどれほど多くの職場環境に一般化できるのかは不明ですが、実験と同じオンラインでの雇用は急速に拡大しており、女性上司に対する同様の否定的反応が発生する可能性は高いといえます。いくつかの企業では女性上司への偏見を抑えるため、「上司の性別ではなくフィードバックの内容に集中するように」と指導しているほか、「人々が持つ偏見について伝えること」が部下の偏見を減らすという研究もあります。

希望が見出せた点としてAbel氏が挙げているのは、「女性上司への差別は若い労働者の間で少なく、20代の労働者ではほとんど見られなかった」という点です。年齢を重ねるにつれて差別傾向が増す可能性も否定はできないものの、この傾向は世代による違いで、将来的に女性上司への差別意識は解消されていくかもしれないとAbel氏は見解を示しました。

by Helena Lopes