サイエンス

液体窒素を生成する装置を魔法瓶や金属スポンジを使ってDIYする方法


窒素を極低温で冷却し液化させた「液体窒素」を一般の人が使うことはまずありませんが、皮膚医療などで目にしたことがある人はいるはず。そんな液体窒素を生成する装置を自分自身で組み立ててしまったimsmoother氏が、装置の構造と失敗から学んだノウハウをまとめています。

Homemade liquid nitrogen generator Joule Thomson Throttle
http://homemadeliquidnitrogen.com/

液体窒素を生成する方法は、一般的に「極低温冷凍機を使う方法」「ターボエキスパンダーを利用する方法」「ジュール=トムソン効果を利用する方法」の3つがあり、imsmoother氏が採用したのはジュール=トムソン効果を利用する方法でした。ジュール=トムソン効果とは、気体の圧力をノズルなどを通して急激に低下させると温度が低下するという現象のことで、冷蔵庫での冷却などにも利用されています。ジュール=トムソン効果によって液体窒素を生成する理論は本やインターネットで得られますが、実際に生成装置を作るとなると越えるべき壁があるとimsmoother氏は語っています。


これがimsmoother氏が制作した液体窒素生成装置の全体図。始めに「洗浄塔(Scrubber)」で注入した気体に含まれる融点が高い水や二酸化炭素を取り除き、装置を詰まらせるのを回避します。その後気体はコンプレッサーで200気圧まで圧縮され、氷浴を用いて気体を冷却します。ジュール=トムソン効果だけでは気体の温度が十分に下がらないので、氷浴(Ice Bath)部分であらかじめ気体を冷却しているとimsmoother氏は説明。その後気体は「「極低温スロットル(Cryogenic throttle:以下の図ではCyrogenic throttleと誤表記)」」と表記された過程でジュール=トムソン効果によって冷却され、再生成管(Regenerative tubing)から冷却過程の最初に戻り、再びコンプレッサーへと移動。こうして何度も冷却された気体はやがて液体となり、装置にたまっていくという仕組みになっています。


水や二酸化炭素を取り除く部分には、モレキュラーシーブが使われています。モレキュラーシーブは乾燥剤の一種で、凍結を避けるために水を除去しなければならない極低温操作で非常に有用であるとのこと。


気体を圧縮するコンプレッサーは、RIXのオイルフリーコンプレッサー「SE-3E」を採用。imsmoother氏によると、中古で1500ドル(約16万1000円)ほどで購入できたとのこと。


気体をあらかじめ冷やしておくクーラーはこんな感じで、長いチューブにアルミ板を取り付けて放熱効率を高めています。クーラーを氷浴に沈めたり、氷点下の屋外にさらしたりして冷却することが可能です。


ジュール=トムソン効果を起こす「極低温スロットル」部分にはニードルバルブが用いられており、コンプレッサーによって高圧力をかけた気体をこのバルブから噴出させ、一気に圧力を低下させることで、温度を下げる仕組み。


ジュール=トムソン効果で気体を冷却する際、気体が極低温スロットル部分から噴出します。この気体の噴出速度を低下させ、下側にたまっている液体窒素を乱さないようにするための部品が「バッフル」だとimsmoother氏は説明。バッフルには市販の銅製スポンジが用いられています。


すべての部品で最も悩んだとimsmoother氏が語るのが「液化した気体を入れる容器」だったとのこと。容器は放熱を最小限に抑え、熱容量の低い材料で作られている必要があります。imsmoother氏が最初に考案した方法は、数年前に購入した安価なデュワー冷却器に塩化ビニールのコネクタを取り付ける方法でしたが、容器と液化した気体を装置から取り外したところ、冷却器とコネクタが凍ってしまい失敗に終わったそうです。


厳しい温度環境に耐えるためには、銅やアルミ、ステンレスで容器を作る必要があると考えたimsmoother氏は、銅製の容器を試してみましたが、銅製の容器のサイズは大きすぎ、熱伝導率が高かったため、液体窒素を長時間入れておくことができないと判明しました。


最終的にimsmoother氏が採用した容器が、市販されているステンレスの魔法瓶でした。ステンレスの魔法瓶に液体窒素を入れて数日放置したところ、液体はまだ残っており、気化による損失が低いことがわかったとのこと。上部にテフロン製の自作アダプターを取り付け、液体窒素を取り出せるようになっています。


液化しなかった気体を再び冷却行程へと運ぶための再生成過程では、いかにチューブの熱漏れを防ぐかが問題であったとimsmoother氏。imsmoother氏は画像のようにチューブをセラミックファイバーで覆うことにより、熱漏れを防いだそうです。


こうして極低温スロットルから再生成チューブまでを覆った、液体窒素生成装置の心臓部となる筒状の構造が完成。


液体窒素生成装置に入れる窒素は、空気を取り込んで窒素を生成する装置によって生成しているとのこと。


この液体窒素生成装置を使って実際に液体窒素を生成するムービーがYouTubeに公開されています。

How to make Liquid nitrogen Joule Thomson Effect - YouTube


まずは装置に窒素を注入していきます。注入している気体は1.5%が酸素、98.5%が窒素なので、ほとんど窒素で構成される気体です。


コンプレッサーで圧力をかけると……


気体の温度が極低温に低下。


装置によって窒素が冷却され、液体窒素が出てきました。


最終的に、800CCから900CCの液体窒素を手に入れることに成功しています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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