ロシアにおける「アルコール問題」の歴史とは?
「ロシア人はウォッカばかり飲んでおり、アルコール中毒がとても多い」というステレオタイプが存在します。そんなロシア人が抱えるアルコール問題の歴史について、世界のさまざまな不思議を取り扱うYouTubeチャンネルのRealLifeLoreがムービーで解説しています。
Russia's Alcohol Problem - YouTube
ロシアはクリミア問題やチェチェン共和国との紛争などのさまざまな政治的問題を抱えており、1993年以降人口が減少し続けている国です。このようにロシアは多数の問題を抱えていますが、その中でも最たるものが「アルコール依存症」です。
ロシアのアルコールに関するエピソードは枚挙にいとまがありません。一説では、10世紀にキエフ大公として君臨したウラジーミル1世は各国に人員を派遣し、「宗教を集める」という活動を実施。集まった宗教の中から「酒を禁じる」という教義を持つイスラム教を除外し、残った候補の中からキリスト教を国教として導入したという伝説が残されています。
伝説の影響がどれほどのものかは不明ですが、ロシアの中で最も人気のあるものがアルコールです。しかし、アルコールはその人気ゆえに、さまざまな問題を生み出してきました。
世界保健機関(WHO)が2010年に実施した調査によると、「単位人口あたりに最も多くアルコールを消費している国」のランキングでは、ロシアは消費量第4位。さらに、トップ10のうちなんと9カ国(ベラルーシ、モルドバ、リトアニア、ロシア、ルーマニア、ウクライナ、ハンガリー、チェコ、スロバキア)が東ヨーロッパに属する国で、5カ国(ベルラーシ、モルドバ、リトアニア、ロシア、ウクライナ)が旧ソビエト連邦に属していた国でした。
アルコール消費量トップの国の中でも、その人口ゆえにロシアのアルコール問題は最悪です。ロシアの人口は約1億4500万人と、ロシア以外のアルコール消費量トップ10の国々に比べると人口はかなり多め。人口が多い分だけ、アルコール依存症患者の数も多くいます。
ロシアにおけるアルコールの平均摂取量は、年間15リットル。しかし、ひとくちに「平均」といっても、男女でアルコール摂取量は異なります。ロシア人男性のアルコール摂取量はロシア人女性よりもはるかに多く、年間摂取量はなんと26リットル。そして、26リットルのうち51%が蒸留酒(スピリッツ)です。
換算すると、ロシア人男性は毎月スピリッツをショットグラスで23杯飲んでるという計算に。ロシア人男性はこの量のスピリッツに加えて、4リットルものビールやワインも毎月飲んでいるということになります。
この飲酒量は、あくまでロシア人男性の「平均」です。つまり、この量よりもはるかに多くのアルコールを摂取している男性がロシアにはたくさんいます。
ロシア人男性の飲酒量がいかに異常かは、他国と比べるとよくわかります。アメリカ人男性の平均アルコール摂取量は年間9リットル。日本人男性に至っては、年間7リットルしかアルコールを摂取しません。つまり、ロシア人男性はアメリカ人男性の約3倍、日本人男性の約4倍もアルコールを摂取しています。
当然のことながら、ロシアではアルコールが生み出す被害も強烈。ロシアでは死因の約30%がアルコールに直接関連していました。
ロシア人男性の平均寿命はわずか65年。この数値は、紛争が今なお続いているアフガニスタンや、1日あたり57人が殺害されるという南アフリカと同等でした。
2006年にロシアで生まれた男の子の平均寿命は、西欧諸国で生まれた男の子よりも17年も短くなる計算に。
ここまでロシアでアルコールがはびこった原因は、「経済」だと考えられています。ソビエト連邦崩壊後、ソビエト連邦に属していた国はGDPの40%を失い、ロシアの通貨ルーブルは暴落しました。
物価もアルコールの消費を拡大した原因の1つです。1990年12月、ロシアにおける平均月収では10本のウォッカを購入することができました。しかし、4年後の1994年12月には、平均月収で5倍近い47本のウォッカが購入可能という状況でした。
以上のようにロシアのアルコール問題は長年にわたって深刻でした。この問題を打破するため、2010年にロシア政府が「反アルコール政策」を実施。この反アルコール政策では、23時以降のアルコールの販売が禁じられただけでなく、ウォッカの最低価格は2倍に引き上げられ、アルコールに関する広告が禁じられました。
しかし、ウォッカの最低価格が2倍に引き上げられたことが原因で、ロシア国内では「密造酒」が流行。2016年には、国内で消費されるアルコールの約20%が密造ウォッカとなりました。
2016年12月にはシベリア地方のイルクーツク市で、密造ウォッカとして販売されていたメタノール入りの入浴剤を飲んだ住人76人が死亡したことが判明。ロシア当局はさらなる規制に乗り出し、25%以上のアルコールを含む「非飲料品」の販売を禁じました。
以上のような悲劇も生じましたが、2010年以降ロシアのアルコール問題は改善傾向にあります。記事作成時点では、ロシアのアルコール消費量は世界14位。
ロシア政府の公式発表によると、2003年に比べてアルコール消費量は3分の1にまで下がりました。
現在のロシアのアルコール消費量はドイツやフランスに近いものとなり、平均寿命も長くなっています。
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