リモートワークの増加に伴って「文章によるコミュニケーション」を推進するにはどうすればよいのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって多くの人々がリモートワークに移行しており、コミュニケーションのあり方が変化してきています。スタートアップで3年にわたってリモートワークに従事してきたMaarten Claesさんが、リモートワークを成功させる上で重要な「文章によるコミュニケーション」を推進する方法についてまとめています。
Encouraging a Culture of Written Communication – mcls
https://www.mcls.io/blog/encouraging-a-culture-of-written-communication
アメリカの実業家であるアンドルー・グローヴは、物事を文章に書き記すことは自己を訓練する手段だと述べています。文章を介したコミュニケーションは口頭のコミュニケーションよりも正確であり、より明確に問題を思考できるとのこと。
また、Amazonでは「会議では必ず、出席者の1人が6ページのメモを準備し、会議の最初に出席者全員がメモにじっくり目を通す」という文化が存在します。このメモは議論に「文脈」を作り出して前提を共有するためのものであり、箇条書きや走り書きではなく、物語のようによく練られた構成になっているそうです。書き手はテーマについて深く理解してメモを書き上げなければならず、相手に要点を的確に伝える技術も必要とされるため、素晴らしいメモを作るには1週間ほどかかるはずだと、Amazonのジェフ・ベゾスCEOは述べています。
しかし、こういったストーリーに基づき、「自分の会社でも社員に高い基準を要求し、文章によるコミュニケーションを充実させよう」と考えるのは間違いだとClaesさんは指摘。文章のクオリティを高く設定することは、迅速なアイデアの共有や意見の活発なやり取りを阻害してしまうため、チーム内でのコミュニケーションに高い文章力を要求するべきではありません。
質の高いライティングスキルを要求するべきなのは、社内全体といった広範囲に向けた文章であったり、上流工程におけるコミュニケーションだとClaesさんは述べています。こういった場面では文章のやり取りに必要なのはスピードよりも明快さであり、多くの人に向けて自分の意見をわかりやすく伝えるために、何度も文章の修正を繰り返す価値があるとのこと。文章の基準を高く設けるべき場所を見誤らないことが重要だとClaesさんは主張しました。
リモートワークを進めるにつれ、社内で共有するべき知識を文書にして、社内のサーバーに保存するという場面も出てきます。この際、「ほかのメンバーが求めるドキュメントを探しやすいように、情報を保存する階層構造を厳密に定める」という考えを持つ人もいるはずですが、Claesさんはドキュメントの保存場所にはこだわらない方がいいと指摘。
ドキュメントの保存場所が階層構造に基づいて決められていると、ドキュメントの作成者が「このドキュメントはどこに保存すればいいんだろう?」と悩む時間が発生してしまいます。これはドキュメントの作成者にとって負担となるため、Claesさんはドキュメントの保存場所を厳密に定めるよりも、サーバー内のドキュメントを検索する優れた検索機能を持つツールを導入するべきだと考えています。
同様に、1つの事柄について記された大量のドキュメントがあると、後でその事柄について調べた人が混乱してしまいます。その結果、Slackなどの社内チャットで「このトピックについてのドキュメントが複数あるけど、結局どれを読めばいいの?」という質問が飛び出し、ドキュメントの作成者の手をわずらわせてしまうそうです。このような事態を避けるため、1つの事柄に関するドキュメントは1つのまとめ、情報があちこちでバラバラに見つからないようにするべきだとのこと。
また、文章でのコミュニケーションを促進しようとすると、「相手と自分の時間を合わせなければならないビデオ通話は悪だ」という考えに傾きがちです。しかし、文章によるディスカッションは非常に長くなる傾向にあるため、何度もやり取りが繰り返されて議論が長くなり過ぎたと感じた時には、ビデオ通話を開始して口頭で議論の内容をまとめることをClaesさんは推奨しています。
文章による非同期のコミュニケーションには多くのメリットがありますが、特に企画が動き出して間もなかったり共有できている前提が曖昧だったりする場合、ビデオ通話でのやり取りが有効だとのこと。もちろん、基本的には文章によるコミュニケーションを優先するべきであり、何かを議論する初期段階で必ずビデオ通話による同期的なコミュニケーションを取る必要はありません。しかし、同期通信と非同期通信の適切なバランスを見つけ出すことは有益であり、効率の悪いやり方に固執するべきではないとClaesさんはアドバイスしました。
リモートワークで文章による非同期のコミュニケーションが主流になると、どうしてもチーム内でのやり取りが減少してしまいがちです。しかし、スタートアップ・スポーツクラブ・軍隊といった種類にかかわらず、優れたチームはコミュニケーションを密に取ります。そこで、特定の個人に宛てたメッセージではなく、チーム内で共有のスレッドやチャンネルを構築し、気がついたことを頻繁に投稿して共有する文化を作り上げることが有益だそうです。
「本番環境でオプションを変更したり、データベースの移行を検討したり、パフォーマンスグラフで何か気がついたことがあったりしたら、チャットに投稿してください」と、Claesさんはアドバイスしています。これには単に情報を共有するだけではなく、日本の列車で車掌が行う指さし確認のように、重要な変更を行う前に意図的にアクションを起こし、何かの間違いを引き起こす危険性を減らす意味もあるとのこと。また、何か不明な点や問題点がチーム内で密に共有されている状況は、チーム内の信頼関係を強化するだけでなく、いざ問題が発生した場合でもそこに至る過程を把握しやすいという利点があります。
「信頼関係が築かれ、情報が共有チャンネルでプッシュされていれば、プライベートメッセージやビデオ通話で話す必要はありません。これは仕事を邪魔する中断が少なく、一般的に快適で生産的な労働日を生み出します」と、Claesさんは述べました。
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