ハードウェア

「走行中の電気自動車をワイヤレス充電する技術」がスタンフォード大学で開発中


「走行中の電気自動車をワイヤレス充電する技術」を実現するために、スタンフォード大学では磁気を用いたワイヤレス電力伝送技術の研究が進められています。このワイヤレス電力伝送技術は、電気自動車だけでなくロボットやドローンなど、さまざまな電子機器の充電問題を解決するカギとなる可能性があります。

Robust and efficient wireless power transfer using a switch-mode implementation of a nonlinear parity–time symmetric circuit | Nature Electronics
https://www.nature.com/articles/s41928-020-0399-7

Wirelessly charging electric cars as they drive | Stanford News
https://news.stanford.edu/2020/05/04/wirelessly-charging-electric-cars-drive/

スマートフォン用のワイヤレス充電パッドは既に社会にある程度浸透しており、充電のためにスマートフォンを1~2時間ほど特定の位置に置いたままにすることは珍しくありません。加えて、スマートフォンの場合、特定の位置に固定したままでもウェブブラウザを開いたりメールをチェックしたり動画を再生したりすることが可能です。しかし、電気自動車の場合、走行用の燃料を補給するために充電スタンドに1~2時間車両を置いたままにすると、その間は一切走行することができないため非常に不便です。そこで、スタンフォード大学では、「電気自動車にワイヤレスで電力を伝送することで、いつでもどこでもバッテリーを充電することができる高速道路」を構想し、その実現のための技術開発を行っています。

電気自動車にとって夢のような高速道路を構想したのは、スタンフォード大学で電気工学および応用物理学の教授を務めるシャンフィ・ファン氏と、同氏の研究室に在籍する大学院生のSid Assawaworrarit氏。2人は動いている物体にワイヤレス電力伝送するためのシステムを構築することに成功しています。ただし、このシステムはあくまでも試作機の段階にあるため、非効率かつ研究所の整った環境以外では正常に動作しないそうです。


2人の開発する「動体へのワイヤレス電力伝送技術」はまだまだ開発の初期段階にありますが、エレクトロニクス分野の科学誌であるNature Electronicsで最新の論文が公開されています。動体へのワイヤレス電力伝送技術が順調にスケールアップを続ければ、近い将来に「動作中のロボットをワイヤレス充電可能な床」などを実現可能となり、そうなればロボットの充電で工場や倉庫の業務を止める必要が一切なくなります。

ファン氏は「自動車やロボットが高速で移動している場合であっても、実用的かつ効率的な『遠隔からバッテリーを充電できるようなシステム』を実現するための重要なステップです。移動中の自動車を充電するには伝送する電力をスケールアップする必要がありますが、それにより深刻な障害が起きるとは考えていません。動作中のロボットをワイヤレス充電する点については、既存のシステムが十分実用可能な範囲にあります」と語り、2人の開発した「動体へのワイヤレス電力伝送技術」は電気自動車を充電するにはパワー不足であるものの、ロボットなどを充電するには十分な仕上がりと主張しています。


一般的なワイヤレス電力伝送技術の場合、いくつかのワイヤレス給電方式が存在します。中でも特に有力視されているのが、受信側と発信側の磁気コイルを共振させることで電力を送信するという方法です。しかし、この方法では電力源(発信側)と受信側の距離が少しでも変化すると、共振周波数が変化してしまい、電力の伝送効率が低下するという点が問題でした。

そこで、ファン氏ら研究チームは受信側と発信側の距離が変化しても電力を伝送できるワイヤレス充電器を2017年に開発します。このワイヤレス充電器は、「充電器」と「バッテリーを充電したい移動物体」の間の距離が変化した際に、システムが動作周波数を自動で調整できるようにするため、増幅器とフィードバック抵抗を組み込んだもの。これにより、充電器側は動体に対してもワイヤレス充電できるように、共振周波数を逐次変更可能となります。しかし、あくまでも開発の初期段階であったため、動作周波数を変えるための増幅器が多くの電力を消費してしまい、システムに流れる電力のわずか10%しかワイヤレスで伝送することができなかったとのこと。

ファン氏ら研究チームはこの「動体へのワイヤレス電力伝送技術」の改良版を2020年4月に論文で発表しました。最新版の「動体へのワイヤレス電力伝送技術」はワイヤレス伝送効率が10%から92%にまで向上しています。Assawaworrarit氏によると、伝送効率の向上におけるカギとなったのは増幅器をはるかに効率的なスイッチ増幅器に置き換えた点でした。スイッチ増幅器自体は決して新しいものではありませんが、扱いが難しく非常に正確な条件下でのみ高効率の増幅を実行するそうです。そのため、研究チームは「スイッチ増幅器を用いながら正常に動作する動体ワイヤレス電力伝送技術の回路構成」を設計するのに複数年の時間を費やしたとしています。


研究成果として作成されたワイヤレス充電器は、2~3フィート(約0.61~0.91メートル)の距離で10W(ワット)の電力をワイヤレス伝送することが可能です。作成したのはあくまで理論検証用のプロトタイプであるため伝送可能な電力は10Wと電気自動車を充電するには明らかに不十分。しかし、ファン氏は「電気自動車が必要とする数十~数百kW(キロワット)の電力を伝送するためにシステムをスケールアップすることに、基本的に障害は何もありません」と語りました。

加えて、最新版の「動体へのワイヤレス電力伝送技術」は高速に動く受信機にも電力を伝送できるため、走行中の自動車のバッテリーを充電することも十分に可能とのこと。なお、電力伝送には数ミリ秒しかかかりません。

Assawaworrarit氏は「ワイヤレス充電器が健康上のリスクをもたらすことはないはず」と語っており、電気自動車を充電できるほど強力なワイヤレス充電器であっても、既存の安全ガイドラインの範囲内の磁場を生成する程度で済むはずと述べています。

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in ハードウェア,   乗り物,   サイエンス, Posted by logu_ii

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