「成功の秘訣」を第三者から聞くのは無意味という主張

成功の秘訣を知るには、実際に成功を収めた人がどんな場面でどんな判断を下していたのかというメンタルモデルを理解するのがひとつの手です。しかし、成功者のメンタルモデルを「言葉だけで理解しようとすること」と「第三者から教えてもらうこと」は無意味であると、シンガポールの起業家であるセドリック・チン氏が主張しています。

The Mental Model Fallacy
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成功者のメンタルモデルを理解するには、まず「成功者自身の言葉を聞くこと」と「実践」が大事だとチン氏は主張しています。例えば、格闘技のチャンピオンを目指す人が、「私は格闘技チャンピオンになるために、勝つ秘訣を解説しているコメンテーターの話を聞くのに時間を費やしているんだ」と言っていたら、「多くの人が馬鹿げた発言だと感じるでしょう」とチン氏は述べました。

理由は3つあり、「第一に、いくら言葉で勝負の秘訣を学んだところで、練習なしに格闘技を上達することはできません。第二に、格闘技を見ているだけのコメンテーターから話を聞くよりも、強い選手の経験談や練習方法を聞く方がよっぽど貴重です。第三に、どんなに優れた試合をじっくり見ていようと、当の選手自身が練習を怠れば、勝負を勝ち抜く実力は得られないでしょう」とチン氏は語っています。

中でもたちが悪いのは、「成功者の経験談を第三者を通して聞いた場合」だとチン氏は指摘しており、また聞きした経験談は重要な情報の多くが欠落してしまいます。チン氏は「格闘技だけでなく、ビジネスや研究開発、投資、意思決定、人生においても、成功者本人から話を聞くというのは非常に重要です。成功者のメンタルモデルを理解するには、本人の話を聞き、行動を真似し、試行錯誤しながら反省することが重要なのです」と述べました。

チン氏によると、分野を問わず、成功者は優れたメンタルモデルを持っているとのこと。そのため、成功者の経験談やメンタルモデルを本や講話から学ぶことが、ビジネスや人生で成功を収める秘訣であると思われがちです。

しかし、「言葉でメンタルモデルを学んだだけでは、成功者のメンタルモデルを本当に理解したとは言えません。本を読んで自転車の乗り方を学ぼうとしているようなもので、最も価値のあるメンタルモデルは言葉だけでは表現しきれません。言葉で理解するだけでなく、理解した上で実践に移すことが重要です」とチン氏は述べています。

メンタルモデルは「明示の知識」と「暗黙の知識」の2種類に分けられます。言葉にして伝えやすいメンタルモデルが明示の知識で、言葉だけでは伝えづらいメンタルモデルは暗黙の知識に分類されます。「明示の知識」は第三者でも説明することはできますが、「暗黙の知識」を第三者が説明するのはほぼ不可能です。

メンタルモデルにおける重要な部分は暗黙の知識である場合がほとんどで、「成功した人が何を感じて行動を起こしているか」を理解することが、メンタルモデルにおいて特に重要であるとチン氏は主張しました。例えば、熟練の柔道選手が投げ技を繰り出す一連の動きについて、相手の隙をどう感じるか、どこに力を入れるか、相手の反撃をどう受け流すかなど、選手が直感や無意識で判断している行動がほとんどです。直感や無意識の中にある知識が、文書化が困難な暗黙の知識に分類されています。

知識を明示のものと暗黙のものに分けるという考えは、哲学の分野において数千年前の古代ギリシャ時代から存在しています。古代ギリシャ人は明示的な知識を「真の知」を表す「epistêmê(エピステーム)」と呼び、暗黙の知識を「技巧」を表す「technê(テクネ)」と呼んでいました。

また、明示の知識と暗黙の知識は別々に分類されているものの、非常に密接な関係にあります。「成功者自身が明示の知識を説明するとき、聞いている側が実行しやすいよう動きを交えて説明していることがほとんどでした。分かりやすく詳細に話したり文字にしたりするだけでなく、実際に実行しやすい方法、成功者自身から伝えられることに意味があるのです」とチン氏は述べています。

例えば、補助輪を外し始めたばかりの子供に自転車の乗り方を教えるとき、言葉で説明しつつ、自転車に乗る子どもを倒れないよう支えながら乗り方を説明する人は多いはずです。自転車の乗り方を知っている人が、言葉だけで自転車の乗り方を教えるのではなく、実際に自転車に乗る流れを体感させることでコツをつかませようとすることが、最も効果的な教え方というわけ。

「明示の知識は氷山の一角に過ぎず、海の上に突き出ているだけで、その下には巨大な暗黙の知識の塊が隠されています。暗黙の知識には同業者にすら伝わりにくいものがあり、成功者本人ではない人から話を聞いたところで得るものはありません。成功者たちの行動を真似し、試行錯誤しながら反省することが、メンタルモデルを学ぶ最善の方法です。第三者が語る解説をうのみにするのはやめましょう」とチン氏は述べ、成功者自身から学ぶことが最も重要であると主張しました。